二人きりの面会~カサンドラの場合~
「ねえ、テオお兄様……。私最終選考を辞退したいんだけど駄目かな」
ブリジットとテオフィルの面会から3日後。
カサンドラはテオフィルと会い、開口一番にこう言った。
今二人がいるここは、王城内の応接間だ。
従兄妹同士であるテオフィルとカサンドラは、ここで何度も会って話したことがあった。
しかしこんなに気まずい空気が流れているのは初めてのことである。
はじめこそ、それなりにテオフィルに憧れの気持ちがあって親も喜ぶからという理由で、割と乗り気で妃選考に参加したカサンドラだったが、今ではやる気は全くないと言っても過言ではない。
(だってばればれじゃん……!テオお兄様、ルルが大好きじゃん!こんなん絶対邪魔できないわ!)
ルイーズの方はいまいちテオフィルをどう思っているのかわからないが、ルイーズとテオフィルの二人の仲が良いのはこの間のローズガーデンでの一瞬で嫌というほどよくわかった。
カサンドラは、このまま参加を続けて当て馬になるのはまっぴらごめんだった。
本当は三回目の選考で西の大国に失礼にならない程度に手を抜いて選考から落ちるつもりだったのだが、カサンドラから行かなくても話しかけてくる人が多すぎた。
さすがに相手から来られて適当にあしらうわけにはいかない。外交問題にも発展してしまう。
そんなつもりはなかったのに、気づけばかなりの人数を相手してしまっており、その結果選考を通過してしまった。
テオフィルから目をそらして気まずそうに辞退を申し出たカサンドラに、同じく気まずそうにテオフィルも口を開く。
「……いや、キャシーには本当に申し訳ないけど、このまま最終選考に参加してほしい」
「なんで!?」
反対されるとは思わなくて、カサンドラは思わず大声を出す。
するとテオフィルは両手で顔を覆ってうめくような声で言った。
「……万が一ルルとうまくいかなかったら……お前がいないと、強制的にブリジット嬢と結婚することになるだろ……。無理だって、本当」
「ああ……」
家族にしか見せない情けない様子をみせるテオフィルに、同情するようにカサンドラは相槌を打つ。
「テオお兄様、ああいうガツガツした令嬢苦手だもんね……」
「…………」
返事がないのは肯定だろう。
カサンドラはため息をつきながら言った。
「でも、逆に言えば、最悪私になるんだよ?テオお兄様はそれでいいの?」
「……こんなこと言うのキャシーにも失礼だってわかってるけど、俺にとってはルルじゃなければ誰でも同じだから。その中でもキャシーなら、性格もよく知ってるし絶対はずれじゃないと言える」
「……そう」
本人の言う通りかなり失礼な発言だが、カサンドラは怒る気にもなれない。
テオフィルの恋愛のことなど今まで本人に聞いたこともなかったが、ある時期から彼は必要以上に仕事や勉強に打ち込むようになったことがあった。
あのときのテオフィルの様子には、カサンドラの両親も心配したほどだった。
笑っているのに笑っていないような、心から楽しめることがなにもないような、そんな様子―――。
(そういえば、昔はよく聞いていたルルの話を、そのころから聞かなくなったんだった)
過去、きっと何かがあって、テオフィルはルイーズを諦めることを決意したのだ。
それが今、ルイーズの方からテオフィルの妃候補として名乗りをあげている。
テオフィルの気持ちは、カサンドラにとっても想像するに難くない。
(私は気づかなかったけど、テオお兄様はルルのこと昔からずっと大好きだったんだね。そんな人が自分と結婚したいって言ってくれたら嬉しいよね、そりゃあ。それで「好きなわけじゃない」なんて言われたら怒りたくもなるよね。
……ああ、そうか、きっとテオお兄様は不安なんだな。二人が一度離れた理由は知らないけど、ルルも自分のことを好きになってくれないと、また離れることになると思ってるんだ)
考えて、カサンドラはばっと顔をあげ、言った。
「わかった。私残るよ」
カサンドラの言葉に、テオフィルも顔を跳ね上げる。
「……いいのか?正直、かなりお前に無神経なことを言ってる自覚はある」
「まあ、その通りだけど。でもブリジットさんが王妃になったら、この国終わりだよ」
ブリジットは見た目こそ美しいけれど、中身は自己中心的で醜悪だ。
カサンドラは、あんなに悪意を全面にぶつけてくる人間に会うのは初めてだった。
「キャシー、ごめん。ありがとう。お詫びに、なんでも言うことひとつ聞く」
「考えとくよ。それより私、このあとルルのお見舞いに行くんだ。いいでしょ」
からかうようにカサンドラが言うと、テオフィルは隠す様子もなく羨ましそうにカサンドラをねめつけた。
実は、三回目の選考の順位からいって、今日本当はルイーズがテオフィルと面会する予定だった。
それがルイーズの体調不良で延期になり、急きょカサンドラと会うことになったのだ。
「……お大事に、と伝えてくれ」
「わかったー」
「待て、お見舞いのくだものも持たせる」
そう言いながらいつになく慌てつつ応接間を出て行くテオフィルを、カサンドラは我が子を見守るような温かい目で見送った。




