妃選考一回目(1)
妃選考初日。
その日はいつになく晴れて日差しの心地よい日となった。
ローレン家の正面玄関にあるらせん階段を、二人の姉妹がドレスを優雅にさばきながら降りてくる。
ルイーズは赤みがかった茶色の髪をゆるく結い上げ、自身の瞳の色に合わせて赤紫色の布地で作られたエンパイアラインのドレスを、ジュリエットは肩までの黒髪をゆるくウェーブさせて垂らし、同じく自身の瞳の色に合わせて深い紫色のAラインドレスを身にまとっていた。
ローレン家の執事は、そんな二人を見てまぶしそうに目を細める。
「二人とも、よくお似合いでいらっしゃいますよ。さあ、こちらへ」
ルイーズとジュリエットは執事にエスコートされ、馬車に乗り込んだ。
ローレン侯爵家のタウンハウスと王城とはほとんど一本道で繋がっている。
そのため馬車はさほど時間を置かず、王城へとたどり着いた。
この国の中心部にそびえたつ白亜の王城は、いつ見ても荘厳で美しい。
ルイーズはさすがに緊張を隠せず、少し指先を震わせながら馬車から降り立った。
「ここに来るのは本当に久しぶりだわ……」
ジュリエットが降りてくるのを横目に、ルイーズは城門を見上げて小さくつぶやく。
小さい頃は何も考えずに通ったものだったが、今こうして改めてみると城全体が威圧感を発しているかのようだ。
(それとも、私が緊張しているからそう見えるだけかしら)
ルイーズは相変わらず震える指先を一度ぎゅっと握ってからジュリエットと連れ立って歩き始めた。
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門番に「妃選考に参加するために来た」と告げると、すぐに大広間へと案内された。
大きなシャンデリアが天井にかかり、大きな窓から太陽の光がさんさんと差し込むこの大広間は、国王主催のパーティーが行われるときなどに使われる。
ルイーズは何度も王城に通ったが、ここに入るのは初めてだ。
壁には有名な絵画が飾られ、床一面に美しい天鵞絨の絨毯が敷かれており、見回すだけでもしばらく飽きなそうだった。
ルイーズとジュリエットが着いたのは割と遅い時間だったため、二人が大広間に入るころにはもうほとんどの候補者がそろっていた。
皆一様に二人を見た後、こそこそと噂をする。
「ローレン侯爵家のお二人だわ」
「黒髪の方はなんとおっしゃるの?とても美しい方ね」
「ジュリエット様よ。学業の方でも非常に優秀と聞くわ」
「勝てる気がしないわね…」
噂話がはじまると、自分のことは口に出されないことにルイーズは慣れていた。
辺りを見回し、ジュリエットに囁く。
「思っていたより多いわ。50人くらいはいるのかしら」
「おそらく。選考は4回あると聞きますから、少しずつ数を絞ってゆくのでしょうね」
選考が始まるより前、選考参加の申し込みをしたあとに知識を試される筆記試験もあったため、これでもふるいにかけられた方なのだろう。
まずこの一回目の選考に選ばれるかもわからないのだ。
ルイーズにはテオフィルと幼馴染だったというカードがあるが、それでもここに並ぶ美しい令嬢たちより自分が上に立てるとは思えない。
少し弱気になっている自身に気付き、ルイーズは強くかぶりを振った。