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二人きりの面会~ブリジットの場合~(2)

 

 少し時間が経ったところで、テオフィルがふと居住まいを正して言った。


「ブリジット嬢。公平を期すために、今からあなたに伝えておかなければいけないことがある。これは残りの二人にも伝える予定だ」

「あら、なんですの?」


 ブリジットは紅茶を手に、首をかしげる。

 テオフィルはそんなブリジットの目をまっすぐに見て言った。


「最終選考は、王と王妃…つまり俺の父と母も立ち会いの上、俺の一存で妃を決めることになった。つまり、厳密にはこの面会が最終選考だと思ってほしい」


 “この面会が最終選考”の意味がわからずブリジットは思わず眉をひそめる。

 するとテオフィルはそんなブリジットの疑念をくみ取り、説明を加えた。


「本当は最終選考も試験のようなものを行なう予定だったんだが、これまでの選考で三人とも十分王妃たる器を持っていると判断された。だからその試験を省略して、きちんと話をしてみて俺が一番気に入った女性を妃とすることになったんだ」

「え……」


 思いがけない話に、ブリジットは思わず声をもらした。

 ()()()()()()()()()()()()()。いや、テオフィルの口ぶりからして最近決まったことのようだから当たり前か。


 動揺を隠せないブリジットに対し、テオフィルは安心させるように笑ってみせた。


「だからといって緊張する必要はない。今日はいつも通りのブリジット嬢をみせてほしい」

「……はい……」


 考えをまとめるのに忙しくて本当は返事をするのもやっとだったが、ブリジットはなんとか自分も笑顔を返してみせた。


「悪い、話が逸れたな。伝えたいことはそれだけだ。さっきまで話していたのは、ブリジット嬢の今一番気に入っている宝石店についてだったか?もう少し詳しく聞きたい」

「え、ええ、私この間希少なダークルビーのネックレスを注文致しまして―――」


 テオフィルはブリジットが混乱していることがわかっていたものの、あえて気付かないふりをして話を無理やり元に戻した。

 これ以上説明できることもないし、質問されても面倒だったからである。


 はじめは戸惑っていたブリジットも、当たり障りのない会話を続けるうちに元の調子が戻ってきた。よくよく考えれば動揺などする必要がないのだ。


 最終選考のライバルとなったカサンドラもルイーズも、外見の華やかさはブリジットに遠く及ばない。

 どんな男もブリジットが少し誘惑すれば、そのとき付き合っていた女性を捨ててブリジットのものになった。

 テオフィルだって例外ではないはずだ。


(むしろ面倒な選考がなくなってラッキーだわ。この面会で結果が決まるのなら、時間もないしそろそろ仕掛けるべきね)


 考えたブリジットはすぐに行動に移す。


「テオフィル殿下……。殿下は、どんな女性が好みですの?」


 尋ねながらブリジットはそっと隣に座るテオフィルの膝に触れる。

 さらに体を寄せ、テオフィルの肩にしなだれかかった。テオフィルがブリジットを見下ろせばブリジットの胸の谷間が目に入る角度まで計算している。

 そしてさらに少し顔を上げて、吐息がテオフィルの耳にかかるように囁く。


「私、殿下のことが本気で好きになってしまいました。こんな気持ちは初めてで……どうしたら良いかわかりません。どうか、私の気持ちに応えてくださいませんか?」


 ブリジットがここまでして理性を捨てなかった男性はいない。

 目に妖艶さをにじませて、ブリジットはテオフィルの夜空色の瞳を覗き込む。

 

 しかしその顔を近づける前にブリジットは丁寧に元の位置へ押し戻された。


「申し訳ないが、今はブリジット嬢と話がしたいだけだ。気持ちだけ受け取っておく」


 ブリジットは唖然とした。

 離れて改めて見たテオフィルは、赤くもなっていなければ一切動揺した様子もなかったからだ。

 今までどんな男性も虜にしてきたブリジットは焦った。しかし、これ以上誘惑を続けるのはおそらく悪手だろう。

 仕方なく普通に話をしようとして、ブリジットはふと気づく。


「はしたない真似をしてごめんなさい。そういえばテオフィル殿下、今日は香水をつけていらっしゃいませんのね?」


 この間近づいたときにテオフィルからしたバラの香りが、今は全くしなかった。

 なんとなく聞いてみただけのブリジットは、しかし、次のテオフィルの返事に眉根を寄せる。


「香水?香水は一度も付けたことがないが」

「え……?でも先日のお茶会ではたしかにバラの香りが……」

「バラ……?……!!」


 ブリジットの言葉に首をかしげていたテオフィルは、突然何かに気付いた様子で頬をうっすらと染めた。そしてその表情を隠すようにブリジットから目をそらす。


「……あのときは、執務室にバラがあった、ような、気がする。……それで匂いが移ったかと」


 歯切れの悪いその言葉は、テオフィルが嘘をついて胡麻化していることを如実に表していた。

 なぜ嘘をつく必要があるのかわからないし、あまりに不自然だ。

 嘘をつかれたこともそうだけれど、何より―――


(ルイーズ・ローレンからも同じ香りがしたわね)


 あのいけ好かない女(ルイーズ)が、二回目の選考でブリジットから“一番”を奪ったあの女が関わっているであろうことに、ブリジットのはらわたは煮えくり返った。


さっきブリジットが誘惑したときは顔色ひとつ変えなかったくせに―――


 その後、ブリジットが機嫌を損ねたせいか、会話はほとんど盛り上がらないまま二人の面会は終了する。


「来てくれてありがとう、ブリジット嬢。気をつけて帰ってくれ」

「ええ。では、また」

 

 結局誘惑もうまくいかず、ルイーズとテオフィルの親密さも匂わされ、来た時と同じように最高潮に不愉快な気持ちでブリジットは帰路につくこととなってしまった。

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