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二人きりの面会~ブリジットの場合~(1)

 三回目の妃選考から5日後の午後、ブリジットは王城に向かう馬車の中で額に浮かんだ汗をハンカチでぬぐった。


 今日は朝からよく晴れていて、初夏ながら日差しは真夏を思わせるような照り具合だった。

 馬車の窓から吹き込んでくる風は涼しいが、着込んだドレスが暑さを助長する。


(せっかく念入りにさせた化粧が落ちちゃうじゃない…!)


 ブリジットはイライラしながら手に持った扇子で顔をパタパタと仰いだ。

 今日はテオフィルと二人きりで会える機会ということで朝から非常に気分が良かったのに、この暑さでは台無しである。


 やっと馬車が王城に着いたときには、ブリジットの苛立ちは頂点に達していた。


「本日はどのような御用でしょうか?」

「テオフィル殿下との面会よ。さっさと案内しなさい」


 丁寧に礼を取り聞いてくる門番の目さえ見ずに答え、扇子を一度パンと手に打ち付ける。

 しかし門番は笑顔を崩すことなく、ブリジットをテオフィルとの待ち合わせ場所まで案内した。


(ここは、前回全員でお茶会をした庭園ね)


 ここで待つように言われたブリジットは、眉をひそめた。

 せっかく二人で会える機会だというのに、前回と一緒では代わり映えしなくて面白くない。

 

 実際、前回と違っているのは用意されたテーブルが二人掛け用になったことと、そのテーブルに日よけの傘が付いたことくらいだ。


 ブリジットが近くにいたメイドに苛立ちをぶつけようとしたその時、後ろから声がかけられた。


「よく来てくれた、ブリジット嬢。待たせて申し訳ない」


 ブリジットが慌てて表情を作り替えて振り向くと、そこにはテオフィルが立っていた。


 ジャケットの上にマントも羽織った姿でありながら、この暑さのなか汗もかかずに涼しい笑顔を浮かべる彼を見て、ブリジットの機嫌はころっと直る。


「お会いできてうれしいですわ、テオフィル殿下」


 ブリジットが今までたくさんの男達を虜にした笑顔を浮かべてみせるも、テオフィルはそれをスルーして椅子を引き、言った。


「さあ、ブリジット嬢、こちらへ」

「ありがとうございます」


(あら?大概の殿方はこれで顔を赤らめてくださるのに)


 ブリジットは笑顔をかわされたことに首を傾げつつ、顔には出さずテオフィルが引いた椅子に腰を下ろし、当たり障りのない会話をスタートさせた。



 テオフィルと話し始めてから数分後、ブリジットは興奮を隠せずにいた。


(やっぱり話せば話すほど魅力的な方ね。優秀な王太子とは聞き及んでいたけれど、本当にそのとおり。私が横に立つにふさわしいわ)


 実は、辺境で生まれ育ったブリジットがテオフィルに会うのは一回目の妃選考が初めてであった。

 見目も頭も良い王太子の噂はクラルティ領まで届いていたものの、ブリジットには会う機会が訪れなかったのだ。


 ブリジットは昔から何でも自分が一番でないと気が済まない性質(たち)だった。

 一人っ子で母親や使用人たちから甘やかされて育ったのもそうなった理由のひとつかもしれない。ブリジットは唯一自分に厳しい父親が大嫌いである。

 自分より美しい使用人は容赦なく解雇し、自分より良い成績を取ったものはことごとくその分野から転落させてきた。もちろん付き合う男だってそのときどきで一番人気のある男を選んだ。

 しかし、辺境で一番の男は、他と比べたら並の男でしかなかった。


 さらにブリジットは父親から「辺境の守りを強化するため、ゆくゆくは隣の子爵領の息子と結婚してもらう」と宣言され、自分の人生に絶望していた。

 隣の子爵領の息子はブリジットより4歳上の22歳で、頭はそれなりに良いものの小太りで顔も整っているとはとても言い難い。

 何でも一番を手に入れてきたブリジットにとって、彼と結婚することは非常に屈辱的なことだった。


 だから王太子の妃選考の知らせが届いたときのブリジットの舞い上がりようといったら、説明するまでもないだろう。

 反対する父親を押し切り、自分に甘い母親を味方につけて王都の別邸までやってきたのだ。


 そして会った王太子は間違いなく、名実ともにこの国一番の男だった。

 夜空のようなラピスラズリの瞳も、艶めくプラチナブロンドの髪も、すらりと長い手足も、すべてが美しく整っている、いずれこの国の頂点に立つ存在。


(必ず手に入れて見せる)


 ブリジットはテオフィルと会話をしながら、扇子に隠した口元を怪しくほころばせた。


再開一発目が主人公不在ですみません……。

今日からまた暇なときに読みに来ていただけると嬉しいです。

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