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妃選考三回目(5)

 その後それほど時を置かず、夜会はお開きとなった。


 帰路につく招待客たちを後目に、妃選考に参加する令嬢たちは執務官と執務補佐官二人の後に続いて最初に集まった控室へと向かう。


 控室の扉が閉まり、令嬢たちがそこに全員揃っているのを確認すると、執務官は口を開いた。


「皆さんお疲れ様です。夜も遅いので、早めに終わらせてしまいましょう」


 彼はぐるっと一度令嬢たちを見回してから続ける。


「今回あえて審査員を最初に教えませんでしたが、この選考の審査員は我々ではなく、西の大国から来たゲストの皆さんでした。彼らには、一番良い意味で印象に残った令嬢に一人1点ずつ入れていただきました。つまり、できるだけ多くのゲストの印象に残った令嬢が今回の選考の通過者となります」


 執務官の言葉に、最初から最後まで王族の傍にしかいなかった令嬢たちは青ざめ、テオフィルを取り囲んでいた令嬢たちは諦めに満ちた顔をした。


 そんな中、自信満々な態度を崩さなかったのはブリジットだ。

 彼女ははやく発表しろとばかりに高圧的な態度で執務官を見つめていた。


 ルイーズは自分にできるだけのことをしたつもりはあったものの、最後の方はパーティーに参加できなかったため少し不安になる。


 めいめい違った反応を取る令嬢たちの様子を見ながら、執務官は薄く微笑んで口を開いた。


「通過者は三名です。一位、ブリジット・クラルティさん。二位、ルイーズ・ローレンさん。三位、カサンドラ・オランジュさん」


(通過できた……!)


 ルイーズの胸にぶわっと喜びが広がる。


 ブリジットには、彼女のもともとの知り合いであり、今回の夜会で一番盛り上がっていたグループの人々が点を入れ、カサンドラには最初に彼女に話しかけた人物と、その後カサンドラが地道に挨拶周りを行なった人々が点を入れたことでこの結果となった。

 ルイーズは言わずもがな、ルイーズが手助けした人々から点をもらった形となる。


「よかったですわね、ルルお姉様」


 自分のことのように嬉しそうな顔をするジュリエットに、ルイーズはほっと息をつきながら笑ってみせた。


(本当によかった。あとは最終選考を残すのみだわ)


 ルイーズは表情にこそ出さなかったが、ここ数年で一番嬉しい気持ちになっている自分に気が付く。

 高揚した気分のままふとブリジットの方をみると、彼女は憎々し気にルイーズを睨みつけていた。


 その凄まじい視線を受けて、高揚していたルイーズの心は一気に冷え込む。


(……私は彼女と同じ土俵には絶対にあがらない)


 ルイーズは睨み返したい気持ちを堪え、静かにブリジットから視線を外した。


「通過した方以外は、残念ながら選考は今日までとなります。今までご参加いただきありがとうございました」


 落ちた令嬢の反応は、泣き出したりため息をついたり疲れた笑顔を見せたりと様々だ。


 そんな彼女たちを執務補佐官が外へと誘導し、室内に残ったのはルイーズ、ブリジット、カサンドラ、そして執務官だけとなった。



「改めておめでとうございます。次回はついに最終選考となりますが、その前にお三方にはテオフィル殿下と二人きりで会える機会を用意させていただきます。詳しい日程はまた追って連絡致しますが、殿下との面会がだいたい一週間後、最終選考が三週間後くらいだと思っていてください。何か質問はございますか?」


 今日は長丁場だったため、さすがの執務官にも疲れが見える。

 さっさと終わらせたい様子で簡潔にまとめた執務官だったが、ブリジットは空気を読まずに手を上げた。


「殿下にお会いする順番はどうなっておりますの?」

「皆さんの都合にもよりますが、今のところ一位の方から順番にお会いできる予定ですよ。他には?」


 執務官の答えはブリジットを満足させたらしい。

 彼女はそれ以上何か言葉を発することなかった。


「それでは、我々も今日はこれで終わりにしましょう。お疲れ様でした」


 執務官の言葉が終わるか終わらないかのうちに、ブリジットはさっさと部屋を出て行った。


 ルイーズはカサンドラと話がしたいと思っていたが、カサンドラに声をかける前に執務官に呼び止められ、足を止めた。


「ルイーズさん。少しよろしいですか?」


 ルイーズはカサンドラと目配せして執務官の方を向く。


 何か話したそうな執務官の様子にカサンドラはそのまま会釈をして退出していき、控室はルイーズと執務官の二人きりとなった。



 執務官はルイーズと向き合ってすぐ、深く頭を下げた。


「この度は、私の補佐官がご迷惑をおかけしたようで本当に申し訳ありませんでした。ルイーズさんは怪我などなさいませんでしたか?」


 今回の選考に通過できたことが嬉しすぎて、今このときまでアランとのあれこれをすっかり忘れていたルイーズは、一度きょとんとした顔でまばたきした後あわてて首を横に振る。


「えっ、はい、大丈夫です!謝らないでください」


 ルイーズの言葉に執務官は少し安心したように笑った。


「……よかったです。アランは、解雇することとなりました」

「えっ?」


 思っていたより重い措置に、ルイーズは青ざめる。しかし執務官はそんなルイーズをなだめるように優しい表情をしてみせた。


「ルイーズさんのせいではありませんよ。妃選考を取り仕切る側の者が、参加者に手を出そうとするのは重大な規律違反です。むしろ、早めに発覚して幸いでした」


 たしかにそうかもしれない、と思いつつも複雑な思いは消えない。

 黙り込むルイーズを促すように、執務官は声をかけた。


「引き留めてしまってすみません。アランの処遇はお伝えしておいた方がよいかと思いまして。もう遅い時間ですから、ルイーズさんもそろそろお帰りになってください」

「……はい」


 アランを辞めさせないよう説得したいわけではない。

 だが、そんな大事(おおごと)にしたかったわけでもない。


 まとまらない思いをうまく言葉にできず、結局何も言えないままルイーズは重い足取りで部屋をあとにした。


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

ブクマや評価、いいねなど、すべてありがたく噛み締めております……!

誤字報告も本当にありがたいです。


本日から数日更新をお休みさせて頂きます。

金曜日あたりからまた再開するので、引き続き読んでいただけるととても嬉しいです。

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