妃選考三回目(3)
夜会の会場は、一回目の選考でも使われた大広間だった。
一回目の選考のときに太陽の光を降り注がせていた大きな窓からは、今はまたたく星空がのぞいている。また、天井にかかった壮麗なシャンデリアが、会場中にきらきらとした光を振りまいていた。
そのきらびやかな世界にルイーズは一瞬圧倒される。
しかし、一歩会場に足を踏み入れれば、ルイーズもまたこのパーティーの参加者の一員だ。
彼女は気を引き締め直して、まずは状況を整理するために会場を見渡した。
パーティーの参加者は、今やってきた妃選考に参加する令嬢たちを除いて約100人程度。
それほど規模の大きいものではないらしい。
100人中3分の1はターコイズブルーのドレスやタキシードを身に着けているため、こちらの国の人間だ。残りの人々は西の大国のナショナルカラーである、カナリヤイエローを取り入れた夜会服で着飾っている。
数少ない同年代の若者は、おそらく西の大国の王族だ。ルイーズが前もって調べた情報だと、今西の大国には王子が三人、王女が二人いるらしい。ここから見える限りだと、そのうちの王子が二人と王女が一人、今夜の夜会に参加しているようだった。
しかし、それくらいは誰でも簡単に予想することができる。ルイーズと同時に若者が向こうの国の王族だと気付いた令嬢たちが、我先にとそちらの方へ向かって行った。
この場で一番の賓客であろう西の大国の王族をもてなせば、手っ取り早く得点が得られる算段だ。
逆にカサンドラは、少し年配の大人たちに話しかけられ、その人たちと歩いて行った。彼女は王族としてパーティーに参加することがあると言っていたから、おそらくそのとき話したことのある知り合いなのだろう。
現状ルイーズの最大の敵であるブリジットは、今回実はかなり有利な立場だった。
クラルティ領は西の大国に隣接しているため、国境付近に領地を持つ西の大国の貴族と関わりが深い。
あちらの国の知人を見つけたブリジットは、すぐさまそちらへ赴き、その知人たちと明るい嬌声をあげた。
気付けば、ルイーズとジュリエットだけが出遅れていた。
彼女たちがライバルの令嬢のあまりの素早さに顔を見合わせたところで、タイミング良く今夜のホストであるテオフィルが護衛を引き連れ入場してくる。
今宵のテオフィルは、夜会用の服装も相まって一段と輝かしい。
騎士団服のような揃いの白い上下を着てターコイズブルーの長いマントをはためかせ歩く彼の姿に、会場中の女性が話すことを忘れて目を奪われていた。
テオフィルは皆の前に進み出ると、その良く通る耳障りのいい低い声で語りかけた。
「皆さん、今日は我が国主催のパーティーにお集まりいただきありがとうございます。今夜父が残念ながら参加できなくなったため、急きょ私が父の代わりを務めることとなりました。若輩者ではございますが、どうぞよろしくお願い致します。それでは、ごゆっくりパーティーをお楽しみください」
彼の挨拶に、会場が拍手で沸く。
挨拶を終えたテオフィルは、すぐに人々に取り囲まれて見えなくなった。
テオフィルが同じ場に来たことでなんだかやる気が出てきたルイーズは、再度ここで自分ができることを考え、会場内を注意深く見渡す。
すると、ちらほらと壁際で暇を持て余している人がいることに気が付いた。
(多くの令嬢は西の大国の王族のもてなしをしているし、ブリジットはその装いもふるまいもパーティーの中心となってこの場を盛り上げているわ。だとすれば、私は私なりに、できるだけ全員がこのパーティーを楽しかったと思って帰ってもらえるように立ち振る舞わなければ)
自分のやることを決めたルイーズは、ジュリエットの方へ向き直った。
「ジュジュ、私は行ってみるわ。あなたは大丈夫?」
勇ましい姉の様子を嬉しそうに見つめるジュリエットは、笑ってうなずく。
「ええ、お姉様。いってらっしゃいませ」
ルイーズはジュリエットの笑顔に励まされるように、壁際にたたずむ人々の方へと足を向けた。




