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妃選考三回目(1)


 そうしてやってきた二週間後。


 ルイーズは自身の部屋の鏡の前で、メイドに仕上げてもらった今日の装いを確認する。


 赤茶色の髪はゆるくまとめ上げてアップに。メイクは紫ベース。手首に白いリボンを巻いて、大きな石のついた指輪をはめている。


「……よし」


 どこにも不備がないことを隈なくチェックして、最後にルイーズは机の上に置かれている小さな袋がついたネックレスを手に取った。

 それを一度ぎゅっと握りしめたあと、少し長めのそれを首から提げてドレスの下に隠す。


「本当にそれを持っていかれるんですか?」

「ええ。お守りよ」


 後ろに控えていた侍女に尋ねられ、ルイーズはにっこり笑って答える。


「じゃあ、行ってくるわ」

「行ってらっしゃいませ」


 それからドレスを翻し、部屋を後にした。


******


 予定より少し早めに支度を終えていたルイーズは玄関ホールでジュリエットの準備が終わるのを待っていたが、現れたジュリエットを見て思わず悲鳴のような声をあげた。


「……ジュジュ、ドレスのことは大丈夫って言ってたじゃない……!」


 今日のジュリエットは、エンパイアラインのカシュクールドレスにコサージュをつけ、手首にターコイズブルーのリボンを巻いただけの非常にシンプルな装いだった。

 肝心のドレスの色はどう見てもクリーム色一色で、どこにもターコイズブルーが取り入れられていない。コサージュはターコイズブルーで、ある意味クリーム色に非常に映えているが、コサージュは結局コサージュであり、ドレスではなく装飾品だ。これだときっと、付け焼刃だと判断されてしまう。


 二週間前ルイーズは、ロアンヌたちと入れ違いで家に帰ってきたジュリエットに今までの成り行きを説明した上で、ジュリエットはドレスをどうするか尋ねた。

 その答えは「自分でどうにかできるから大丈夫」だったのだ。


 どう見てもどうにかできていないジュリエットに顔を真っ青にするルイーズだったが、当のジュリエットは全く気にする様子がない。


 彼女はのんきに姉に向かって微笑み、言った。


「大丈夫ですわ。そんなことより、ルルお姉様のドレスとても素敵!重厚感のある生地が、ドレスの形にとても合っていますね」


 ウィリアムが作ってくれたドレスは、ベルラインの華やかなドレスだった。

 上半身の胸元はハートカットになっていて、白いタフタ生地にターコイズブルーの布で作った小花がちりばめられている。さらに腰の切り替えから下はロアンヌの騎士団服の生地から作ったターコイズブルーのスカートの上を、白い繊細なレースが覆っていた。


 しかし、ルイーズは今それどころではない。


「どうしてなの、ジュリエット……」


 深刻そうに眉をよせるルイーズに、ジュリエットは安心させるように笑みを深める。


「わたくしのことはお気になさらず。さあ、行きましょう」

「そんな、だって」

「いいのです。後できちんと説明しますから。それより、そろそろ出ないと遅れてしまいますわ」


 ルイーズはしぶしぶ納得し、ジュリエットと連れ立って家を出発した。



 王城につくと、二人は門番に控室のような場所へと案内された。

 

 部屋に入ると、すでにカサンドラが来ているのが目に入る。

 カサンドラは、ターコイズブルー一色で作られたロールカラーのシックなプリンセスラインのドレスに、自身の目の色と同じ黄緑色のリボンを手首に巻いていた。


 ジュリエットを見て、カサンドラはルイーズと同じような反応をする。


「ジュリエットさん……!?ドレスどうしたの?」

「ごきげんよう、カサンドラ様」


 にこにこ笑うジュリエットと眉をしかめるルイーズを交互に見比べて、カサンドラは困惑した顔をした。

 ルイーズはそんな彼女に、ゆっくり首を横に振って言う。


「何か理由があるみたいなの。後で説明してくれるらしいから」


 カサンドラが納得したようなしていないような表情でうなずくのを見てから、ルイーズは少し小声になって彼女に尋ねた。


「それより、キャシーはそのドレスどうやって用意したの?」

「え?これは、用意したというか、もともと持ってたやつだよ。ほら、うち一応王族とつながりあるから、たまにだけど国際交流パーティーに呼ばれることがあるの」

「そうなんだ……」


 求めていた答えが得られず、ルイーズは他の令嬢を見回す。

 ルイーズたちより先に来ていた他の令嬢たちは、皆問題なくターコイズブルーのドレスを着ていた。


 不審なルイーズの様子に、カサンドラは尋ね返す。


「ドレスがどうかしたの?」

「実は、ドレスを用意するためにドレスショップへ行ったら、ターコイズブルーの生地が全て売れてしまったと言われたの。何件かまわったけど、どこも同じ答えだったわ。でも皆普通に用意できているわね……?」

「ええ?そんなことあり得ないでしょ!……でも、ジュリエットさんはともかくルルはドレス用意できたんだ?見たことないくらい素敵なドレスだね」

「ええ、兄がもともとあった生地で作ってくれたの」

「えっ!お兄さんすごすぎ」


 感激した様子のカサンドラを横目に、ルイーズは考えに沈む。


(キャシーはもともと持っていたドレスだということだけれど、ここにいる皆が皆ターコイズブルーのイブニングドレスを持っていたとは考えられない。やはり、ターコイズブルーの生地が売れてしまったというのはドレスショップの嘘だと思った方がいいみたいだわ。……私をこの選考から落としたい人物がいるのね)


 普通の若者は、イブニングドレスを買う機会はほとんどない。それにどの令嬢もみるからに新品のドレスを着ている。おそらく、他の皆は問題なくドレスを買うことができたんだろう。

 しかし、ドレスショップを追及したところで、ルイーズが店を訪れたことは覚えていない、嘘をついた証拠がないと言われてしまえばそれまでだ。


 ルイーズにとって、今回の妨害行為を行なった人物として思い当たるのはひとりしかいなかった。


 その人物が今、門番に案内されてこの控室に入ってくる。


 疑惑の人物、ブリジット・クラルティは、ルイーズの姿を見てあからさまに眉を吊り上げた。


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