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妃選考三回目の準備(2)

 三人は応接間で向かい合ってソファに腰かけた。

 

 メイドが持ってきてくれたお茶を一口飲んで、ルイーズが口火を切る。


「お姉様、お兄様、今日はなぜここに?」

「お父様に用があってね。今日は泊まっていってもいいかな」


 答えたのは、ロアンヌだ。

 ロアンヌは、短く切り揃えた黒髪と切れ長の燃えるような赤い瞳が特徴の女性である。

 夫のウィリアムも相当背が高いが、彼女はそのウィリアムと同じくらい身長がある。

 非凡の剣才があり、騎士団に所属するロアンヌは、その環境のせいか勇ましい口調になりがちだった。


 すると横からウィリアムが口を挟む。


「マクシムおじさんに呼ばれたんだけど、急用が入っちゃったみたいだね」


 ウィリアムは、はっきりした色合いのロアンヌとは正反対で、淡い茶髪に黄緑色の目の持ち主だ。

 彼はルイーズたち姉妹の叔父の息子でルイーズにとっても従兄にあたり、また将来ロアンヌと共にこの家を継ぐことが決まっている。

 おっとりしていていつも笑顔を浮かべるウィリアムは、何かと主張の強いロアンヌの尻に敷かれていた。


「そうだったんですか。ゆっくりしていってくださいね」


 ルイーズが笑ってそう答えると、ロアンヌが紅茶を飲みながら首をかしげてルイーズに問いかけた。


「ルルはどこに行っていたの?」

「私は……実は、今テオの妃選考に参加中で、」

「ええっ!?」


 ルイーズが話しきる前に大声をあげたのは、ウィリアムだ。

 彼は口を手で覆って、なぜか頬を染めながらルイーズに尋ねる。


「も、もしかして、ルルはテオウィル殿下が好きだったの?」

「え?違います」


 きょとんとしながらばっさりそう答えたルイーズに、ウィリアムはあからさまにテンションを落とした。

 そしてルイーズから目をそらし、おでこに手をあてる。


「なんだ……殿下はまだ不憫なままなのか……」

「お兄様、どうしました?」


 ウィリアムが何やらぶつぶつ呟いているが、ルイーズには聞こえない。

 ロアンヌはそんなウィリアムの背中を強めに叩いてからルイーズに聞いた。


「でも、妃選考に参加しているってことは、何か思うところがあるんだよね?」

「えっと……はい。うまく言えませんが、これをがんばれば、自分で自分を褒められるようになる気がします」


 俯きながら小さな声で答えるルイーズに、ロアンヌは苦笑する。


「……無理はしてないんだね?」

「はい」


 ここだけは顔を上げ、ロアンヌの目を見てはっきり答えると、ロアンヌは安心したような笑顔を見せた。


 その横でロアンヌに叩かれてずっと背中をさすっていたウィリアムが、再び口を開く。


「ごめん、さっき僕が話を遮ったよね。それで?」

「あ、あの、それでですね、次回の選考のためにイブニングドレスを用意しなくてはいけないんですが……実は、ドレスショップに指定の色の生地がなくて困っていたところです」


 眉尻を下げてルイーズが答えると、二人は顔を見合わせた。


「ドレスショップに生地がない、なんてことある?」

「そう思いますよね……。でもないって言われてしまって」


 困ったように笑って言うルイーズに、ロアンヌが尋ねる。


「他のお店は?」

「行ってみました。でも他も全滅でした」

「それは……何かきな臭いな」


 ふむ、と眉にしわを寄せて考え始めるロアンヌを横目に、今度はウィリアムが口を開く。


「何色が欲しかったの?」

「ターコイズブルーです」

「ナショナルカラーだね、なるほど……。それ、よかったら僕が作ろうか?」


 思いがけないウィリアムの言葉に、ルイーズはぱっと顔を上げた。


 ローレン家の一員であるウィリアムの持つ天賦の才は、洋裁だ。

 彼に服を作らせると、どんなぼろ布も立派な衣装に変わる。彼に洋裁を教えた実の母が嫉妬するほどの腕前の持ち主だった。

 おそらく彼がお店を持ったら、この国一番の繁盛店になるだろう。

 しかしウィリアムは、ロアンヌと結婚して家を継ぎたい、といってその才能を仕事に活かすことはしなかった。そのため現在はたまに趣味で作る域にとどまっている。


「え……本当にいいんですか?あ、でも、布が」

「ターコイズブルーなら、着なくなった私の騎士団服でよければたくさんあるよ」


 この国の騎士団服は、ナショナルカラーであるターコイズブルーを基調として作られている。それをリメイクしてもらえるなら、ルイーズには願ってもないことだった。


 思わぬところからの救いの手に、ルイーズは瞳を潤ませる。


「お兄様、お姉様、ありがとうございます……!私、内心今回はもうだめかと……」


 態度に出さなかったが、ルイーズはずっと不安だった。

 もしターコイズブルーのドレスが用意できなければ、ドレスコードすら守れないとみなされて、きっと妃選考は失格となる。

 しかし遠くから生地を取り寄せしていたら、二週間後に間に合うかどうかもわからない。

 それでなくてもやらなければいけないことがたくさんあるため、ドレスにばかり時間を割いてもいられない。

 最悪、ターコイズブルーのアクセサリーだけつけて参加するしかないと考えていた。


 震える声で感謝を伝えるルイーズを、二人は優しい目で見つめながら微笑む。


「かわいい妹のためだもの、ひと肌脱ぐよ!いつまでに仕上げればいいかな?」

「本当にありがとうございます……!選考は二週間後です」

「じゃあ、サイズだけ後でロアンヌに測ってもらって。家に帰ってすぐに取り掛かれば多分間に合うと思う」


 ルイーズは、二人に何度も何度もお礼を繰り返した。


 今回また身内に助けられることになったが、この間のテオフィルとの会話のおかげか卑屈になることはなく、ただ二人が家族で本当によかった、と感じるばかりであった。


読んでくださって本当にありがとうございます。

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引き続き楽しんでいただければ幸いです。

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