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妃選考三回目の準備(1)



 お茶会から二日後、その手紙は届いた。


 侍女から手紙を受け取ったルイーズは、さっそく封を開けてそれを読む。


「次回の妃選考のドレスコードのお知らせね……。“ターコイズブルーを取り入れたイブニングドレス、手首を隠すこと”ですって」

「手首が隠れる長さのものですか?もうすぐ暑くなる季節だというのに、大変ですね」


 ルイーズの呟きをうけて、侍女は自身の考えを述べた。

 しかし、ルイーズはその答えに首を横に振った。


「普通に読めばそう取れてしまうけれど……。これはきっと違うわ。この手紙は、きっと次回の選考の大事なヒントなのよ」


 言いながらルイーズはあごに手をあてて考える。


「イブニングドレスを指定するってことは、夜会に参加することになるのね……。ターコイズブルーはこの国のナショナルカラー。それをわざわざ取り入れる意味は……きっと国際交流のための夜会なんだわ」


 この世界では、夜会は基本的にビジネスのために行われるものなので、ルイーズと同年代の若者はあまり夜会には関わらない。

 夜会を主催したり参加したりするのは、基本的に王族か、もしくは結婚して子供ができるくらいの年齢になった大人たちだ。

 それはルイーズも例外ではなく、彼女が参加したことがあるのはローレン家の身内だけで行ったパーティーくらいのものだが、国家間の交流のために行われる夜会ではその出席者の出身国を見分けるためにナショナルカラーを身に着ける、と聞いたことがある。


「私たち、どこかの国の大使や関係者をもてなすパーティーに参加することになるのね?大丈夫なのかしら?……そして問題はどこの国かってことだけれど……」


 手首を隠す、で思い当たる国がひとつ、ルイーズにはあった。

 この国の西、クラルティ領に隣接する西の大国だ。

 “西の大国では、夜会のマナーとして女性は手首をリボンで隠す”とルイーズは何かの本で読んだ覚えがあった。


「なるほど、西の大国ですね?」


 教養豊かな侍女もルイーズと同時にひらめいたようで、両手をパン、と打ち合わせて嬉しそうに言う。


「やっぱりそうよね?そうなると、やることがたくさんあるわ」


 まず何より、ドレスとリボンを準備しなくてはならない。

 また、夜会に参加するのは初めてなのでマナーもきちんと覚えたい。

 そして、西の大国で話されている言語の復習と、話題づくりのために西の大国についての勉強もしていくべきだろう。

 西の大国の言語は一通り勉強したけれど、最近は使っていなかったので話せるかわからない。また西の大国の歴史は知っていても、最近の情勢についてはノータッチだ。


 ルイーズは次回の選考までの二週間を長いと思っていたが、こうなると間に合うのか心配になるほどだった。


 ジュリエットとも相談したかったが、彼女はここのところずっと研究所に詰めていて、ほとんど家に帰ってきていない。


(頭の良い子だもの、ジュジュならきっと自分で思いつくわね)


 これ以上考えている時間も惜しく、ルイーズはさっそく馬車を用意してもらい、ドレスショップへと向かった。


******


 しかし、結論から言うとそれは無駄足であった。


「悪いわねー。少し前に大口のお客さんが来てね、ターコイズブルーの布地の在庫がなくなっちゃったのよ」

「そうなんですか……わかりました」


 申し訳なさそうに話すドレスショップのオーナーに、ルイーズはぺこりと頭を下げて店を出た。

 実はこれで6件目だ。なぜか、この付近のドレスショップのターコイズブルーの布地がまとめて買い占められている。


「どうしよう……。困ったわ。あなた、他にドレスショップを知っている?」

「すみません、自分もこれ以上は思い当たりませんね……」


 土地勘のある御者に相談してみても、色よい答えは得られない。

 これ以上近くで思い当たる店がなかったため、ルイーズは仕方なくいったん家に帰ることにした。



(このあたりのお店は軒並み回ったわ……。あとはちょっと遠いけれど、王都を挟んで反対側のお店も行ってみるべき?……でも、こんな偶然ある?他のお店も駄目なんじゃないかしら)


 ルイーズがつらつらと考え事をしているうちに、馬車が家に到着する。

 

 御者にお礼を言い、家に入ると何やら玄関が騒がしい。


 ルイーズが不思議に思って騒ぎのする方向へ行ってみると、そこには思いがけない人物がいた。


「あれ、ルル。今帰ってきたの?」

「ルル!久しぶりだね!」

「ロロお姉様……ウィルお兄様……」


 それは、ルイーズの二番目の姉ロアンヌと、その夫で従兄のウィリアムだった。

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