お茶会(4)
その後、二人はローズガーデンの中に設置されているベンチに腰かけてしばらく話をした。
話を始めてしまえば、話題が尽きることはなかった。
会わずにいたこの数年を埋めるようにお互いのことを語る。
「昔、俺が見つけたこの城の抜け道を教えただろ?二年前にちょっと嫌なことがあってそこから抜け出したら、大騒ぎになった」
「それはそうでしょう……!大丈夫だったの?」
「ものすごく怒られた。でもあの抜け道はまだばれてない」
「じゃあ私もまだ使えるわね」
「ああ。ルイーズも城から抜け出したくなったら使うといい」
軽口の応酬に、ルイーズはくすくす笑う。
久々にたくさん笑ったルイーズは、心の奥底でもう何年も前からずっと、テオフィルとこうして話がしたいと思っていたことに今更ながら気が付いた。
(この時間がいつまでも続いてほしい……)
ぼんやりとしたその思考を、突如遠くから響いたブリジットの金切り声が遮る。
「殿下はまだなのっ!?あなた確認してきてちょうだい!……せっかく殿下にお会いできる機会に仕事を申し付けるなんて、あの従者は何を考えているのかしら!」
どうやら、テオフィルが戻ってこないことにしびれを切らして近くにいたメイドに当たっているらしい。
テオフィルは顔をこわばらせ、慌てて立ち上がった。
「長居しすぎたな。……俺は裏から回ってまた向こうの入り口から会場に戻るけど、ルルはここでしばらく過ごした方がいいと思う」
「わかったわ」
一緒にいたことがばれてブリジットの矛先がルイーズに向かないよう、そう提案するテオフィルに、ルイーズは素直にうなずいた。
名残惜しく思うルイーズの頭をテオフィルがそっとなでる。
「そうだ、言い忘れてた。今日のルル、とても綺麗だ。……じゃあ、また」
(そういえば、テオってこういうところがあったわね!?)
テオフィルの落としていった爆弾に、ルイーズの真っ赤に染めあがった顔はしばらくもとに戻らなかった。
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テオフィルが急いで自分が従者とともに出て行った方向から庭園に入ると、ブリジットはあからさまに表情を変えてしなをつくった。
「テオフィル殿下、お待ちしておりましたわ!急なお仕事でお疲れでしょう?こちらにどうぞ」
「ああ、ありがとう」
ブリジットの機嫌を損ねないよう、テオフィルは勧められるままに再びブリジットの隣に腰を下ろす。
ブリジットは喜色満面でテオフィルに自らお菓子を取り分け、差し出した。
「疲れたときは甘いものが良いと聞きますわ。どうぞお食べになって。……あら?」
お菓子を受け取ろうとしたテオフィルがブリジットに近づいたとき、ふっと甘い香りが一瞬テオフィルから漂った。
(これは……バラかしら?テオフィル殿下は香水をお使いになるのね)
テオフィルの秘密を知ったような気になったブリジットは、口に手を当ててこっそり笑った。
一方、しばらくローズガーデンの中で時間を潰したルイーズは、気配を殺しながらお茶会の席へと戻る。
戻ってきたルイーズに気が付いたのは、そのときちょうど「他の令嬢とも話したいから」と言ってブリジットの隣から立ち上がったテオフィルと、にやにや笑うカサンドラと、ルイーズの隣に座るジュリエットだけだった。
ジュリエットはすべりこむように席に座ったルイーズに、首をかしげて問いかける。
「ルルお姉様、どちらに行っていましたの?」
「ええと、暇だったからずっと一人でバラを見てたわ」
なんとなくジュリエットにもテオフィルと一緒にいたことを知られたくなくて嘘をつくと、ジュリエットは紅茶のカップに手をかけ、目を伏せて笑ってうなずいた。
「そうなんですね。お戻りにならないから心配致しましたわ」
「ごめんね」
ジュリエットの意味深な表情が気になりつつも、あえて追及せずにルイーズは頭を下げる。
ジュリエットもそれ以上、ルイーズに何か聞いてくることはなかった。
テオフィルが一周すべての令嬢に声をかけ終わったところで、執務官がお茶会の場に現れた。
「……殿下、そろそろお時間です」
会場にいる令嬢たちに聞こえるように話す執務官に、テオフィルはうなずく。そしてその場で皆を見回して言った。
「皆、今日は本当にありがとう。次回の妃選考も頑張ってほしい。また会えるのを楽しみにしている」
言葉の最後でルイーズとテオフィルの目が合う。テオフィルはルイーズにしかわからないようにこっそり彼女に笑いかけると、颯爽と庭園から去って行った。
残った執務官が令嬢たちに言う。
「近々次回の選考の詳細が届けられるかと思いますので、よろしくお願いします。それでは気を付けてお帰り下さい」
執務官の言葉に、令嬢たちはめいめい立ち上がった。
テオフィルのいないこの場に用はない、とばかりにさっさと歩き出したのはブリジットだ。
出口へと足を進めていると、最近目の敵にしている女、ルイーズが目に入る。
(そういえば、この女は今日一度も殿下とお話できていなかったわね。良い気味だわ)
ふん、と鼻で笑いながらルイーズの横を通り過ぎる。
すると、ルイーズからふっと嗅いだことのある匂いが香った。
(この香り……)
ブリジットが眉をひそめたそのとき、出口に控えていたメイドがブリジットに声をかけてくる。
「お疲れさまでした。城門までご案内いたします」
ルイーズを問いただしたいが、すでにメイドは案内を始めている。
ブリジットは追及することができないまま、庭園を後にした。




