お茶会(3)
突然のことに言葉が出てこないルイーズに代わって、カサンドラが声を上げる。
「あれ、テオお兄様、なんでここに?」
「仕事で呼ばれて戻ってくるときにルルがここにいるのが見えたから、裏からまわってきた。…キャシー、悪いけどルルを少しだけ貸してもらえるか?」
カサンドラはいぶかしげな顔をしていたが、すぐに後ろ手を組み、にやりと笑う。
「ふーん、なるほどね!いいよ、ごゆっくりー」
彼女は何やら楽しそうに、お茶会の席へ戻っていった。
それを見送って、テオフィルがローズガーデンのさらに奥へとルイーズを引っ張っていく。
バラの植え込みに囲まれたそこは、二人だけの空間となった。
「テオ、あの、手……」
「……、悪い」
掴んでいた手を、テオフィルがぱっと離す。
二人を一瞬気まずい沈黙が包んだが、すぐにそれをテオフィルが破った。
「ルル、久しぶり。この間はごめん」
「え……?」
何に対しての“ごめん”なのか、すぐには飲み込めなくてルイーズは聞き返す。
テオフィルはまっすぐにルイーズを見つめながら言った。
「みんなの前でルルに絶対結婚しない、なんて言ったこと。あんなひどい言い方するつもりじゃなかったんだ。悪かった」
言いながら頭を下げるテオフィルに、ルイーズは思わず嬉しそうに聞いた。
「えっ、じゃあ、結婚してくれるってこと?」
「お前、ほんと、そういう……。……今の、お前とは、しない」
(今の私……?)
意味がわからなくてルイーズは首をかしげたが、話を切り替えるようにテオフィルはルイーズに笑いかけた。
「それより、自走車を提案してくれて本当にありがとう。妃選考でこれほど益のある提案が出るとは思わなかった、って皆大喜びしてる」
「そう…それはよかったわ」
さっきと一転表情を曇らせたルイーズをテオフィルは眉をひそめて見つめていたが、やがて合点がいったように頷いて口を開いた。
「ああ、わかった、お姉さんがらみの何かがあるんだな?たしか、君の一番上のお姉さんが今あの国に滞在中だったな……手伝ってもらったのか?」
ルイーズの憂いをど真ん中で言い当てたテオフィルにルイーズは少なからず驚きつつも、そういえばテオフィルはこういうところがあった、と懐かしく思い返す。
ルイーズは困ったように笑って言った。
「ええ……そうなの。だから私が褒めてもらうようなことじゃないのよ」
「なぜ?」
問いかけるテオフィルは、本当になぜだかわからない、という顔をしていた。
ルイーズは困惑しながら答える。
「だって、ココお姉様がいなければ、何にもできなかったもの。私自身は何もしていないわ」
「だけど、君のお姉さんは君に言われなければ何もしなかった」
その言葉の意味がわからなくて、ルイーズは黙り込む。
テオフィルはそんなルイーズに、噛んで含めるように優しく説明した。
「簡単な話だよ。例えば、ルルしかペンを持っていない状況で、俺がルルからペンを借りて文書を作ったとする。ルルはその文書を、自分が作ったと主張するか?」
「しないわ」
「それと一緒だろ?君のお姉さんがたまたま自走車へのコネを持ってたってだけで、もし君のお姉さんの伝手がなかったら、ルルはきっと別の自走車へのアプローチ方法を探していたはずだ。だから、この国に自走車の利益をもたらしてくれたのは間違いなくルルなんだよ」
「……そう、ね」
無意識に、すっとルイーズの頬を涙が伝う。
そして同時に、二回目の妃選考以降ずっとくすぶっていた何かに対する罪悪感や劣等感がすっと消えていくのを感じた。
この先他の誰かが「自走車はコラリーの手柄だ」と言ってきたとしても、テオフィルさえルイーズのおかげだと思ってくれていれば、きっとその言葉に傷つくことはないだろう、とさえ思えた。
「テオ、ありがとう……」
テオフィルはそんなルイーズの涙を自身の手のひらでそっとぬぐう。
頬に感じるテオフィルの手がなんだか恥ずかしくて、下を向くルイーズ。
なんだかいたずら心が沸いたテオフィルは、涙に濡れるルイーズの顔を覗き込んで試しに言ってみた。
「ルル、好きだよ」
「テオ……私も好き」
思ってもみなかったルイーズの返答に、テオフィルは思わず顔を真っ赤にしてのけぞる。
しかしルイーズは照れたように笑ってこう続けた。
「テオと友達で本当によかったわ。これからも仲良くしてね」
(“友達として”か―――!)
「あら?テオ、どこか痛い?」
楽しそうな笑顔はどこへやら、がっくりとしゃがみ込んだテオフィルを、いつの間にか涙の止まったルイーズが不思議そうに首をかしげて眺める。
いつの間にやら、曇っていた空からは淡い光が差し込んでいた。




