お茶会(2)
テオフィルは自身の席につくと、集まった令嬢を見渡して言った。
「今日は集まってくれてありがとう。この間話ができなかったご令嬢とも、今日話ができたらと思っている。……始めてくれ」
彼の言葉に、後ろに控えていたメイドたちがサーブを始める。
こうしてお茶会はスタートした。
テオフィルと話すきっかけを誰もがうかがう中、ブリジットが他の誰より早く口を開く。
「テオフィル殿下、ブリジット・クラルティと申します。先日一度もお話できなかったこと、残念に思っておりましたの」
「ああ、クラルティ家のご令嬢だな。よろしく、ブリジット嬢。きみの父上には世話になっている」
にこやかに返事をしたテオフィルに、ブリジットは有頂天になった。
(なんて麗しい笑顔……!私絶対この方の伴侶になりたい……!)
貪欲なブリジットは強い。
お茶会はしばらく、テオフィルの隣に座ったブリジットの独壇場が続いた。
彼女が矢継ぎ早にテオフィルに質問を繰り返すので、テオフィルも他の令嬢と話す隙がないし、他の令嬢も話しかけられない。
やがて令嬢たちはテオフィルと話すことを諦めて、近くに座る令嬢同士で話し始めた。
ブリジットは自分の望み通りの状況になって内心ほくそ笑む。
(やっぱりだいぶ早めに来ていてよかったわ。テオフィル殿下の“話ができなかった人”は確実に私のことだし、これはもう私の一人勝ちね)
普通どんな場面においても早く来すぎるのはマナー違反なのだが、ブリジットはそんなことお構いなしだった。とにかくテオフィルの横の席を確保するために、無理を言って早い時間に会場に通してもらったのだ。
このままブリジット以外誰もテオフィルと話ができない状態でお茶会は終了するかと思われたが、彼女より上手な人物が現れる。
それは、ジュリエットだった。
この国のお茶会のルールでは、一杯お茶を飲み終わったあとは立ち歩いて自分の話したい人物のところへ行くことが許されている。
ただブリジットの勢いが恐ろしく、誰もテオフィルに近づけなかったところへ、ただ一人ジュリエットがあえて空気を読まず近づいた。
「テオお兄様。少しお話がしたいの。よろしいですか?」
甘えるようにテオフィルの腕を引くジュリエットは非常に愛らしく、見ていた他の令嬢にさえ、あれは断れない、と思わせるほどのものだった。
テオフィルは少しほっとしたような表情をしながら、ジュリエットに腕を引かれるままに立ち上がる。
そして二人は、お茶会の席からも見える東屋へ向かった。
話している内容は聞こえないけれど、その表情や仕草で二人の親密さが伝わってくる。
ブリジットとはまた違った入り込めない空気に、集まった令嬢たちはひたすら肩を落とすばかりだった。
もちろんルイーズも例外ではない。
朝の決意はもうどこかへ消えて、弱音ばかりが胸に沸き起こる。
彼女は今回テオフィルと話すことをもうほとんど諦めていた。
(ジュジュはたまに私にくっついて王城に来るくらいだったけど……テオと会うといつも楽しそうにしていたわ。もしかしたら、私は邪魔者だったのかもしれないわね)
昔に思いを馳せながら、ルイーズは紅茶を口に含む。
申し訳なさと何か得体のしれない感情でルイーズの胸が苦しくなったとき、最初の紅茶を飲み終えたカサンドラが空いたジュリエットの席にやってきた。
「こんにちは、ルル!今日のルルかわいい!」
「ありがとう。キャシーも素敵な色のワンピースね。とても似合っているわ」
いつも通り髪をポニーテールにして、太陽を思わせる黄色のワンピースを着たカサンドラは、ルイーズに褒められてはにかむように笑う。それから東屋の方を向いて言った。
「あれは誰も入り込めないねー。皆残念そう。ルルは平気?」
「私は…私もテオと話したかったけれど、仕方ないわ」
「ルルはテオお兄様と幼馴染なんだよね?テオお兄様、昔は会うとよくルルの話してたよ」
カサンドラの話に、ルイーズは驚いて目を丸くした。
「そうなの?テオが?」
「うん、ルルは頭が良いって褒めてた」
まさか会っていないときも自身の話をしてくれていたとは思わず、ルイーズはなんだか嬉しい気持ちでいっぱいになる。
(仲が良いと思ってたのは私だけじゃなかった…よかった)
ルイーズが安堵からみせた笑顔に、カサンドラもつられて笑う。
それからルイーズの手を引き、立ち上がった。
「ねえ、暇だしあっちのローズガーデンを見に行こうよ。今どのバラも満開でとっても綺麗だから」
「そうね、行きましょう」
ルイーズが立ち上がり、カサンドラと連れ立ってバラの植え込みの方へ消えたのと同時に、テオフィルの従者が申し訳なさそうに庭園に入ってきて何やらテオフィルに囁いた。
テオフィルはそれを受けて、すっと立ち上がる。
「すまない、少しだけ抜ける」
彼は会場にいる令嬢たちにそう声をかけた後、従者と共にはや足で庭園を去って行った。
するとすかさず、射殺さんばかりにジュリエットをずっと睨みつけていたブリジットが、取り巻きを連れてジュリエットの方へ向かう。
「ジュリエット・ローレンさん?ルイーズ・ローレンの妹とだけあって、ずうずうしいのね」
「なんのことでしょう?わたくしはテオお兄様とお話がしたかっただけですのに」
「その、テオお兄様というのもやめてくださる?不愉快ですわ」
「なぜあなたの機嫌を取らなくてはならないんですか?」
二人の応酬は激化し、令嬢たちはハラハラとそのやり取りを見守る。
しかしそんな騒ぎなど知らないルイーズは、のんきにバラを眺めていた。
「この黄色のバラとても素敵!内側がピンクになってるのね」
「こっちのも、グラデーションで綺麗だよー」
カサンドラの言葉に、そちらへ向かおうとしたルイーズの手が突然ぐいっと引かれる。
驚いて振り向くと、そこにはテオフィルが立っていた。




