お茶会(1)
二回目の妃選考の翌日、ルイーズは父の書斎に呼び出された。
父マクシムは妃選考が始まったあたりから王都のすぐ近くにある領地に行っていたため、彼と会うのは久しぶりだった。
「失礼致します」
「ああ、入れ」
マクシムの返事を確認し、ルイーズは書斎へ足を踏み入れる。
ルイーズが顔を上げてマクシムの顔を見ると、珍しく彼は笑顔を浮かべていた。
「聞いたぞ、ルル。妃選考で次世代の輸送手段を提案したそうだな。今どの界隈でも自走車の話題で持ち切りだ」
「おほめにあずかり光栄です、お父様。あの、ローレン家で権利を独占せず申し訳ありません」
「いい、いい。これ以上財産を増やしても仕方ないし、人手も足りないしな。我々の一族は、皆自分の仕事に忙しい」
ゆるゆると首を横に振る父に、ルイーズはほっとする。
マクシムは入ってきた時からあまり明るくないルイーズの表情を見て、眉をひそめた。
「どうした、ルル。あまり嬉しくなさそうだな?」
「……そんなことはありません。ありがとうございます」
ルイーズは、父にほとんど姉頼りだったことを話したくなかった。
姉の有能ぶりを良く知る父は、“今回のことは姉のおかげであり自分は何もしていない”と話せばきっと、そういうことだったのかと納得するだろう。それがルイーズにはみじめに思えたのだ。
マクシムはしばらくルイーズの変化を待ったが、何も話したくない様子を見て諦めたようにこっそりため息をつく。
「話はそれだけだ。もう下がっていい。これからも励むように」
「ありがとうございます」
ルイーズはここを離れられることに半ば安堵しながら、父の書斎を後にした。
******
お茶会の日は、あいにくの曇り空だった。
今にも降りそうで降らない天気がまるでルイーズの心を表現しているかのようで、どうにも心憎い。
しかし、ルイーズは今日必ずテオフィルときちんと向き合おう、と決意していた。
あんなにばっさり結婚を拒否されるほど好かれていなかったとは思わなかったし、自分とテオフィルの友情に自信がなくなってもいたが、やはりどこかで単純にテオフィルと話したい気持ちがあったからだ。
鏡の前で一度気合を入れて、ルイーズは自身の部屋を出る。
「ジュジュ、お待たせ」
ルイーズが玄関ホールに向かうと、すでにジュリエットがそこで待っていた。
今日のジュリエットはセミロングの黒髪に水色の髪飾りを差して品の良い薄紫色のワンピースを身にまとっている。派手さはないがシンプルな分本人の美しさが際立つ装いだ。
対してルイーズは、髪はハーフアップ、ふんわりとしたブラウスに薄ピンク色のロングスカートでコーディネートをまとめていた。
「ルルお姉様の今日の服装、春らしくてとてもかわいらしいですわ」
目を細めて笑うジュリエットに、ルイーズも微笑んで返す。
「ジュジュこそとても似合っているわよ。さあ、行きましょう」
二人は今回も連れ立って馬車に乗り込み、王城へと足を運ぶ。今日のお茶会は、城内にある庭園で行われる予定だ。天気が少し心配だが、今のところなんとかなりそうだった。
二人とも早めに出発したつもりだったが、テオフィルとゆっくり話せる機会とあってか、ほとんどの令嬢が張り切った様子ですでに到着していた。
席は先着順のため、当然二人の席はテオフィルが座る予定の席から一番遠い場所になる。
テオフィルの隣の席はブリジットが確保しており、ご機嫌な彼女はルイーズの方を見ることさえせずそわそわとお茶会の始まりを待っている様子だ。
二人が席に着くと、先に来ていたカサンドラが真ん中あたりの席からルイーズに向かって小さく手を振った。
それを見たジュリエットがルイーズに小声で話しかける。
「この間のことはルルお姉様から聞いておりましたが、カサンドラ様は本当に気さくな方なんですね。お姉様を助けていただけて本当に良かったですわ」
前回の騒ぎのとき、ジュリエットはお手洗いで席を外していた。戻ってみれば、仲良く話すルイーズとカサンドラが目に入って相当驚いたらしい。
「そうなの、とてもかわいらしい方よ。ジュジュにも後で紹介するわね」
ルイーズもまたジュリエットに小声でささやき返し、ジュリエットがうなずいた。
すると、それと同じタイミングでもはやお馴染みとなった執務官がこの場に訪れる。
彼は令嬢たちを見て少し驚いた表情をしたあと、相好を崩して言った。
「皆さまもうお揃いだったんですね。では、少し早いですが始めさせていただきます。今テオフィル殿下を呼んでまいりますので少々お待ちください」
そして踵を返し、会場を出て行く。
すると執務官が立ち去ってからほとんど間を置かず、テオフィルがお茶会の会場に姿を現した。
今日のテオフィルはシャツの上にジャケットを羽織ったシンプルな服装で、髪型も一回目の選考時よりいくぶん崩れている。それがまた彼の魅力に色気を付け加えており、集まった令嬢たちは皆一様にテオフィルと目が合うと顔を赤らめた。
そしてルイーズもまた、子供の時とは違うテオフィルの姿に動揺を隠せなかった。
(この間はきっちりした服を着ていたから、格好良いのは当たり前だと思っていたけれど…。こうしてみると、本当に素敵になったのね)
他の令嬢がテオフィルを見て胸をときめかせているのを見ると、なんだか幼馴染として誇らしいような、知らないでいてほしいような、複雑な気持ちになる。
ルイーズはそんな思いを隠すように、一人テオフィルから目をそらした。




