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妃選考二回目(5)


「皆さんお疲れ様でした。今から通過者を決定するので少しこのままお待ちください」


 執務官がいたわるような笑顔を令嬢たちに向け、審査員と連れ立って会議室を出て行く。


 ちなみにルイーズが持ってきた自走車の設計図は、無事回収されていった。

 こそっと設計図に掛かった金額のことを話すと「あとで領収書をください」と言ってもらえたので、お金に関してもひと安心である。


 ルイーズが集合時同様に持ってきた本を読んで待とうとしたところで、目の前に影がかかった。


 なんだかデジャブを感じてルイーズはうんざりしながら顔を上げる。

 果たして目の前には、ブリジット・クラルティが立っていた。

 いつの間にか作ったらしい自分の取り巻きを引き連れ、高圧的にルイーズを見下ろしている。


「……何でしょうか?」


 ルイーズがしぶしぶ問いかけると、彼女はふん、と鼻で笑って話し始めた。


「また顔を見ることになるとは思いませんでしたわ。前回テオフィル殿下に結婚を断られたのだから、潔く辞退すべきだとは考えなくて?自走車だかなんだか知らないけれど、調子に乗らないことね」

「そうよ、あなたの持つ枠がもったいないわ。他にもっと素晴らしいご令嬢がいらっしゃったのに」

「だいたい、殿下を愛称呼びなんてなれなれしいと思いませんの?」


 取り巻きまでブリジットと一緒になってかしましく騒ぎ立てる。

 これはまともに取り合わなくていいやつだ、と判断したルイーズは、再び本に目を戻した。

 するとルイーズの態度に腹を立てたブリジットが、取り巻きに命じてルイーズから本を奪い取らせた。

 これにはルイーズも思わず声をあげる。


「お返しください」

「無視なさるなんて、良い度胸ね。今ここで、辞退することを誓いなさい」

「なぜ私があなたの命令を聞かなくてはいけないんです。一回目の選考で私を通過させたのは、他でもないテオフィル殿下でしょう」

「なっ……!」


 ルイーズの正論に、ブリジットは思わず言葉に詰まる。

 しかし懲りずにルイーズに何かを言い返そうとしたところで、別の人物が現れた。


「もうおやめなさい。目立っていますよ」


 現れた人物を見てルイーズは目を丸くする。

 そこに立っていたのは、公爵令嬢のカサンドラ・オランジュだった。


 オランジュ公爵の末娘であるカサンドラは現在16歳のこの選考における最年少で、テオフィルの従妹にあたる少女だ。

 さわやかな新緑の色の瞳を持ち、テオフィルと同じプラチナブロンドの髪を高い位置でひとつに括ったその姿は、見る人に快活な印象を与える。

 

 さすがに王族の血を引く相手には分が悪いと判断したのか、ブリジットはしぶしぶながらルイーズに本を返すと、取り巻きを連れてルイーズの前から去って行った。


 ブリジットが席に戻ったのを確認すると、カサンドラはルイーズの方をくるっと振り向き人懐こく笑う。

 この選考で大人びた表情しか見せてこなかったカサンドラが、初めて年相応の素顔を見せた瞬間だった。

 その姿に毒気を抜かれたルイーズは、自身も笑みを浮かべて頭を下げる。


「ありがとうございました、カサンドラ様。お騒がせして申し訳ありません」

「あ、いいの、敬語とか!キャシーって呼んで。ねえルイーズさん、……あ、私もルルって呼んでもいいかな?テオお兄様みたいに」

「もちろん、」


 です、と付けたいところをぐっと飲みこみ、ルイーズは返事をする。

 カサンドラはそんなルイーズを見て笑みを深め、続けた。


「ルル、あなたの発表本当にすごかった。尊敬する」

「そんな大したことはしてないわ」


 明け透けの本音で褒められたことに気付いたルイーズは、少し頬を染めながらそう答えた。

 まさか、ライバルの令嬢に褒めてもらえるとは思わなかったのだ。


「ううん、本当にすごい。きっと明日から一大事業が始まるもの。私、一回目の選考ではルルのこと変な人だと思っちゃったんだけど、違ったんだね!きっとあれも作戦なんでしょう?私、ルルのこと応援する!」


 無邪気なカサンドラの言葉に、ルイーズは面食らった。


「え、いや、でもカ……キャシーだってこの選考の参加者でしょう?」

「うん、でも別にそんな本気じゃないから。お父様が一応出ておけっていうし、テオお兄様のこともかっこいいと思ってるから参加したけど、それよりルルのこと応援したいって思っちゃった」

「そ、そうなの……」


 これは、ライバルが一人減ったと喜ぶべきなのだろうか。

 相変わらず戸惑い続けるルイーズに構わず、カサンドラはにこにこと言葉を続ける。


「ね、ルル、今度遊びに行こうよ!私ルルともっと仲良くしたい!」

「ええ」


 どうやらカサンドラは気位が高そうにみえていたが、本来甘え上手な人懐こい少女のようだ。

 ルイーズは今まで身近にいなかったタイプの人間である彼女に好感を覚えた。



******



 ルイーズがカサンドラとおしゃべりを楽しんでいるところに、退出していた執務官が戻ってきた。


「お待たせしました。今回の選考の通過者を得点順に発表させていただきます」


 カサンドラは急いで席に戻り、気を緩ませていた20人の令嬢たちはその言葉に緊張を走らせた。


「ではまず、一位。

……ルイーズ・ローレンさん」


 会議室内が、ルイーズへの拍手で包まれる。

 ルイーズはほっとするとともに、驚きもしていた。

 発表が終わったあとの会場の空気から通過はできるだろうと予想していたが、まさか一位通過だとは思わなかったのだ。


 執務官は喜びに顔を赤らめるルイーズに少しだけ笑いかけると、発表を続けた。


「おめでとうございます。次、二位。ブリジット・クラルティさん」


 二位だと発表されたブリジットは、あからさまに不満げだ。

 顔に「なぜ自分が一位ではないのか」と書かれている。


 執務官はそんなブリジットにかまわず、よどみなく結果を発表していく。


「三位、ジュリエット・ローレンさん。四位、カサンドラ・オランジュさん―――、そして十位、エレーヌ・ジュブワさん。以上10名が、今回の選考の通過者となります」


 結果が出て、ほっとして笑う者、悲しみに涙をこらえきれない者、反応は様々だ。

 

 執務官は通過しなかった令嬢たちを退出させたあと、通過者たちを見回した。


「改めまして、通過した皆さんおめでとうございます。次回の選考は三週間後です。選考内容は当日の発表となりますが、ドレスコードを指定しますので、そちらに準じたドレスで王城までお越しください。詳しくはまた追って通知を出します」

「あの、テオフィル殿下と会える機会はいつになりますか?」


 口を挟んだのはブリジットだ。

 しかしここにいる大半の令嬢はそのことが気になっていたのか、執務官に注目が集まる。

 執務官は苦笑しながら答えた。


「詳しいことはこれから殿下と話し合ったうえで決めますが、一週間後に殿下と皆さんのお茶会を予定しています。こちらも招待状を送るので、そちらで確認してください」


 一週間後にテオフィルと話すことになる、という事実に、ルイーズの胸は嫌な音をたてた。

 一回目の妃選考でのことを考えると、テオフィルはこの選考に自分を歓迎していないかもしれない。

 彼と話したいことはたくさんあるのに、どう彼と向き合っていいのかわからなくて、考えれば考えるほど苦しくなるばかりだ。



 目線を下に落とすルイーズとは対照的に、ブリジットは執務官の返答を聞いて胸を弾ませていた。


(ついに、殿下とゆっくり話せる機会がくるわ。前回全く話ができなかったのだもの、殿下は必ず私のことが気になっているはず……!帰ってすぐに準備に取り掛からなくては)


 ブリジットはさっきまで不機嫌だったことなど忘れ、足取り軽く王城を後にしたのであった。


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