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妃選考二回目(4)


「それでは最後にルイーズ・ローレンさん、どうぞ」

「はい」


 ルイーズは強いまなざしで前方を見据えながら、皆の前に進み出る。

 そして一度会議室内を見渡すと、ひと息おいてからゆっくりと話し始めた。


「ルイーズ・ローレンと申します。よろしくお願い致します。私は今回の課題のために、新たな輸送手段の導入に取り組んでまいりました。その輸送手段というのが、東の果ての国で最近開発された“自走車”です」


 聞きなれない言葉に、室内がざわつく。

 ルイーズはその反応が少し収まるのを待って、話を続けた。


「自走車というのは、昆力石と呼ばれる東の国でしか産出されない鉱物を動力として動く乗り物です。スピードもパワーも馬車とはけた違いなため、実用化ができれば移動速度は今までの3倍、移動できるものの質量は今までの5倍まで増えます」

「なんだと?」

「本当か?」


 ルイーズの説明に身を乗り出す審査員たち。

 しかしルイーズはここでいったん口ごもり、言葉を選びながら説明をする。


「……でも、今回の課題に取り組むにあたって大きな問題がふたつありました。ひとつは東の果ての国と我が国との距離から、自走車の輸入が間に合わないこと。もうひとつは輸入に至れたとしても、動力源である昆力石が簡単には手に入らないことです。実際……自走車をこの国に運び込むことは、間に合いませんでした」


 そう、結局ルイーズは間に合わなかった。

 

 今この国に、自走車はない。

 自走車は馬より速く走れるが、普及が始まったばかりであることから、肝心の自走車が走れるような道がまだ国と国の間で整備されていないのだ。


「知識の披露なら誰だってできるわ」


 最前列に座るブリジットが、ルイーズにしか聞こえない声でばかにしたようにつぶやく。


 ルイーズは彼女を一瞥して言葉を続けた。


「……しかし、製造方法を手に入れました。その設計図がこちらです」


 ルイーズは、手にした自走車の設計図を掲げてみせる。

 その設計図の確かな存在に、審査員からは「おお……」という歓声が上がった。


 そう、ルイーズの一番上の姉であるコラリーは、一度の手紙の往復で自走車の設計図の入手をやってのけた。


『実は、ちょうどこの間自走車の設計に携わった方のご婦人に招待されて、サロンで演奏会を開いたところだったの。彼女、私のことを気に入ってくださったみたいで、この話をしたらご主人に掛け合って設計図を売ってくださったわ』


 かなり法外な高値だったとのことだが、世界の売れっ子演奏家の姉にかかれば払えない額ではなかったらしい。ただし、もちろんこれはツケである。


「こちらの設計図を実際に私も確認致しましたが、材料は国内にあるもので大体揃いそうですし、技術に関しても問題なく製造できるかと思います」

「しかし、動力の問題はどうするんです?」


 ついにルイーズの話にのめりこんだ審査員が、質問時間を無視して声を上げた。

 ルイーズはそんな彼ににこりと笑顔を向けて言う。


「ありがとうございます。動力の問題なのですが、私はあちらで昆力石と呼ばれている鉱物の成分を確認しました。その結果、国内のジーン鉱山で発掘される、ギオルマイトと同じ成分であることが判明致しました」


 ルイーズは一時期鉱物学にも手を出したことがある。

 彼女の学び方は“浅く広く”であるため、すべてを網羅するには至らなかったが、ギオルマイトはある負荷を加えると熱を発生させる鉱物だということと、あともうひとつ特殊な性質があることでなんだか印象に残り、覚えていた。


「つまり、昆力石とはギオルマイトのことです。名称が違うので認識されていませんが、この二つは同じものと考えてよいかと思います」


 そう、自国でしか採れないと東の果ての国が思っている鉱物は、実はこの国でも発掘が行われていた。

 おそらく、設計図を売りつけた人物は、これから昆力石が高値で輸出されることも見込んでこちらに設計図を渡してきたのだとは思う。しかし、これは完全に相手の計算ミスだ。


 ルイーズは発表の締めに入る。


「私はこちらの設計図の所有権をローレン家で独占せず、国に譲ろうと考えております。国が主導で自走車の普及を行なうことで、より早く効果のある形で自走車が活かされることを願います。以上です」


 もし所有権を引き取ってくれるなら、現在姉のツケとなっている設計図の買い取り金を国に払ってもらおう、とルイーズが考えていることは、今ここでは秘密である。


「ありがとうございます。審査員の方から何か質問はございますか?」


 ざわつく室内を見回しながら、執務官が審査員に向かって問う。


 政権を担う審査員たちのほとんどは、はやくこの自走車のことを会議の場に持ち帰りたくてそわそわしていたが、唯一一番年配の審査員がおっとりした口調でルイーズに尋ねた。


「あなたは、自走車が普及することでこの国にどんな利益が生まれると思いますか?」


 ルイーズはその質問に、少し考えてから答えた。


「まず、新たな産業の導入で雇用がうまれ、今まで貧しかった人々がお金を稼げるようになります。また、移動時間が今までの半分以上短縮できますし、馬では運べなかったものが運べるようになります。自走車を走らせるための道がきちんと整備されれば、野盗なども減るかと思います。あとはそうですね…1台買うには平民には高級でも、大型のものを作って乗り合わせできるようにすれば、安価に平民でも使用できる移動手段になるかもしれません。私はこの自走車がもたらす利益は計り知れないと思います」


 質問した審査員は笑顔を浮かべてゆっくり頷く。


「本当に、その通りです。この国の政治家の一人としてお礼を言わせてください。ありがとうございます、ルイーズ・ローレンさん」


 審査員の言葉に、選考会場であるこの会議室が拍手に包まれる。


 しかし、ルイーズはその拍手を浴びながらもどこか虚しさを感じていた。


(今回のことは、すべてココお姉様の功績だわ……)


 そう、結局ルイーズは手紙を出し、鉱物について調べただけで、姉であるコラリーがいなければ何もできなかった……と考えていた。

 そして、やはり自分自身は無能だ、とも。

 学者でもない普通の令嬢は、鉱物の知識なんてほとんどないなんてことなど、ルイーズは思いも及ばない。


(才能溢れる姉がいてラッキーだった、と思うべきかしら)


そんなことを自嘲気味に考えながら、ルイーズは自分の席へと戻っていった。

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