妃選考二回目(3)
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そうして1ヶ月が過ぎた。
執務官は、再び同じ会議室に集まった令嬢を見回して言う。
「皆さん、お疲れ様でした。成果をあげられた方もあげられなかった方も、ご自分の計画とその結果を発表していただきます。今日は5名審査員も来ていますが、あまり緊張せずにがんばってください」
審査員として集まったのは、この国で現在政権を握る公爵や侯爵、伯爵たちだ。一応、ここに集まる令嬢と親戚関係ではない者の中から選んでいるらしい。
前回より物々しい雰囲気に、緊張するなという方が無理な話だった。
前回泣き出した令嬢は、すでに真っ青な顔で唇を引き結んでいるし、度胸のありそうな公爵令嬢でさえ指先が震えている。
しかし執務官はそのことにあえて気付かないふりをして、ためらいなく公爵令嬢を一番手として指名した。
公爵令嬢は呼ばれて肩を一瞬跳ね上げたが、両手を組んでぎゅっと一度握ると、結果をまとめた紙を持って強い眼差しで壇上へと向かう。
その凛々しい姿は執務官や審査員に良い印象を与えた。
「カサンドラ・オランジュです。わたくしは、【この国の発展のために今自分ができること】として、孤児院への寄付をしてまいりました」
一度深呼吸をしてから話し始めたオランジュ公爵令嬢は、声もはっきり大きく、堂々としている。さすが伊達に公爵令嬢としての教育を受けていない。
「今回寄付を行なった孤児院は、全部で12か所です。寄付金は、水道設備の交換や、寝具の補充、建物の修理等にあてていただきました。以上です」
彼女の説明は短いが、その分端的でわかりやすかった。
「ありがとうございます。審査員の方々は、何か質問はございますか?」
執務官が問いかけると、審査員の一人が口を開いた。
「あなたは実際に寄付を行なった孤児院の視察にも行きましたか?」
「はい。子供たちと触れ合い、これは必要な事業であると痛感致しました。まだまだ修繕箇所も多いのでこれからも続けていけたらと考えております」
「わかりました。ありがとうございます」
執務官は他に質問がないことを確かめ、カサンドラに笑顔を向けた。
「ありがとうございます。席へお戻りください」
カサンドラはほっとした表情をにじませてステージから降り、自分の席へと向かう。
それを他の令嬢たちはどこか羨ましそうな顔で見守った。
「では、次。―――」
こうして、発表は次々に進んでいった。
貧しい村へ物資を支援した令嬢もいれば、何も思いつかなかったのか、震える声で「宝石店にて、新しい宝石のデザインを提案してまいりました…」と述べる令嬢もいた。
そんななか目立ったのはやはりこの二人だ。
「それでは、次、ジュリエット・ローレンさん」
「はい」
ジュリエットは全く緊張していない様子で何も持たずに壇上に上がると、すぐに話し始めた。
「ご紹介にあずかりましたジュリエット・ローレンです。わたくしは新薬の開発を致しました。具体的には湿疹の症状を抑える塗り薬です」
ジュリエットの言葉にどよめきが走る。
ざわめく聴衆にかまわず、ジュリエットは薬の成分や開発行程について説明していたが、専門用語が多すぎておそらくほとんど誰も理解すらできていなかった。
正確には、今まで開発のため取り組んできたものを実用化の一歩手前までこぎつけた、ということだったが、こんなことができる令嬢はこの国の中で他にいないだろう。
(最近研究所での泊まり込みが多いと思ったら、このためだったのね)
ルイーズは半ば感心、半ば呆れてジュリエットを見つめる。
ジュリエットは審査員に質問させる隙さえ与えず、自身の取り組みについて隈なく話し終わると、上がったときと同様に飄々とした表情でステージから降りていった。
そしてもう一人はこの人物。
「はい、では、ブリジット・クラルティさん。お願いします」
「わかりました」
ブリジットは前に進み出て、何度も練習してきたかのようにすらすらと発表を始めた。
「ブリジット・クラルティですわ。私はクラルティ領の軍事施設の拡張を行なってまいりました」
彼女が説明した内容は、およそ1ヶ月の期間でできたとは思えないくらいの充足度だった。
新しい兵器の輸入や砦の建設、兵士の育成をブリジット主導で行なったらしい。
(これが本当なら、とんでもなく手際が良い。それに、きっとこの令嬢は将来軍事において重要な実権を握るようになるだろう)
執務官は顎に手をあてながら考える。
審査員たちも感心しながらブリジットに質問を繰り返し、ブリジットはそのすべてに審査員の満足のいく答えを返すと、自信満々に席へと戻っていった。
そうして、ついに発表は最後の人物の番となった。




