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本妻探偵〜愛人デスノート〜  作者: 地野千塩


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白雪姫編-5

「で、どうして私のうちに来たのかしら?」

「オラ、答えろ!」


 無表情の冷たそうな女とスキンヘッドのいかにも怖そうな中年男に問い詰められても、凛子は無言を決め込んでいた。


 あの後、凛子は目を覚まし、ほぼ同時に向井もやってきて、二人してどういう事かと問い詰めていたが、蛇に睨まれた蛙のようにプルプル震えているだけで、全く口を開かなかった。


 向井もキツく問い詰めていたが、凛子は意外としぶとかった。震えていて弱そうだったが、意外と頑固なにだろうか。キッと文花達を睨むのは忘れない。ただ、田舎臭い顔だちなので睨んでいてもどこか間が抜けた雰囲気だった。


「愛人の情報が書かれたあのノート。あなた、どこにあるか知ってる?」


 文花がその話題を出した時、明らかに凛子は動揺していた。顔はより青白くなり、怯えるように文花を見た。より怖い方の向井ではなく、文花に恐怖心を見せていた。


 こうして冷たそうな女と怖そうな男と一緒によってたかって若い女一人を問い詰めているのも、居心地が悪くなってきた。


 向井はため息をつき、肩をすくめていた。同時に凛子のお腹が鳴った。気づくともう昼過ぎだった。確かに文花も空腹を覚えた。


「まあ、とりあえず少し休みましょうか。向井さん、お昼何が良い? ジャンキーなもの以外で」

「ラーメン!」


 向井はさっそくジャンクなメニューを挙げてきたが無視した。


「残りものでいい? 夫がいないから、けっこう残ってるのよねぇ」

「文花さんの旦那まだ缶詰なのか?」

「編集者が二人つきっきりで書かせている見たい。全く嫌になるわ…」


 文花は、ご飯を温めて、余っていたサンマの甘辛煮を卵とじにしてみた。完全な手抜き料理だが、この状況で「意識高い和食」を作る気分にもなれず、かと言って添加物たっぷりなコンビニ食なども食べる気分になれなかった。


 とはいえ、三人分もあるので、余っていた料理はこれで全部消費できそうだ。手抜き料理だが、どんぶりに入れるとそこそこ見栄えもする。


 リビングに持っていって、三人で囲んで食べ始めた。


 凛子は最初箸をつけようとしなかった。おそらく毒でも入っているのかと疑っているのだろう。常盤ですらその疑いを持たれる事があるので仕方ない。


「いや、文花さん、うまいじゃん」

「そう? 完全な手抜き昼ごはんだけど」


 向井がガツガツ食べているのを見て、ようやく毒入りではないとおもったのか、恐る恐るどんぶりに箸をつけ始めた。


 驚いた事に凛子は箸をジャンケンのグーような形で持って食べていた。夫がこの持ち方をしていたら間違いなく文句を言っていただろうが、他人の娘にわざわざ指摘してやる必要も無いだろう。


 箸の持ち方育ちがわかるなどと下品な事は言うつもりはないが、おそらく涼子はろくな躾をしていないと察した。


 食事中もソファの上であぐらをかいているし、クチャクチャと音を鳴らすし、リスのように口いっぱいに入れて頬張っている。テレビの食レポにでも出ていたら間違いなく視聴者に叩かれていただろう。凛子の芸能界での仕事がモデルと女優(といっても演技派ではなくアイドル映画の出演だけのようだったが)に限定されていたことも理解できた。


 食事を一緒にすると気が緩むのか、凛子は少しずつ緊張をときはじめていたようだった。


 向井が政治家の愚痴をこぼしていると、ケラケラ女子高生のように笑うほどだった。


 しかも政治家のモノマネまでやっていた。かなりクオリティの高いモノマネで、他人の冗談に滅多に笑わない文花も思わず吹き出した。向井も大きな声で笑っていた。


そういえば七絵は、凛子はモノマネをして、スタッフを笑わせていたと言っていた事を思い出す。

「私、トランプ元大統領のモノマネもできるんだ」

 そう言って、英語をペラペラ話しながらトランプ大統領のモノマネもし始めた。


 文花と向井は目を見合わせて驚いていた。英語もネイティブのように上手い。笑えると言うより、単純にすごい。


「あなた、帰国子女?」

「えー、違う。モノマネするの好きで研究したら出来ちゃった。でも何言ってるのかはさっぱりわからない」

「無駄な才能だな」


 向井は呆れていた。確かにモノマネ力はあるが、他に仕事などで活かせそうな能力には見えなかった。このまま英語の勉強すれば良いじゃないかと提案してみたが、勉強するのは嫌だと言う。なんと言うか惜しい女だった。


 しかし文花もしつこさや忍耐力を夫の愛人調査に全力に使っている為、無駄な才能を発揮している点では凛子の事を責められなかった。


 そうこうしているうちにすっかち昼ごはんを食べ終え、デザート代わりに蒸しパンと紅茶を持っていった。


 緊張が解けた凛子は、目を輝かせて蒸しパンを食べていた。先程まで、事情を聞かれていた事はすっかり忘れられたようだった。


「で、凛子さん? なぜあなたここに来たの?」

「答えろ」


 再び二人がかりで問い詰め、ようやく凛子は口を開きはじめた。

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