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本妻探偵〜愛人デスノート〜  作者: 地野千塩


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脅しと呪い編-1

 翌朝、文花はまたしても蒸しパンをせっせと作っていた。


 意外と評判が良かったし、向井や夫はもちろん、まだ風邪を引いているであろう七絵にも持っていっても良いだろう。


 紅茶やほうじ茶、抹茶、チョコレート味など味も少し変えてみた。


 手軽にできるお菓子だとはいえ、味を変えて作るとさすがに手間がかかり少し疲れたが、昨日届いた夫のメールでは蒸しパン絶賛していたし作りがいがあった。


 蒸しパンがこんもりと入った箱を持って出勤すると、さっそく向井はそれが気になったようだ。


「なにこれ?」

「蒸しパンよ。向井さんにはチョコレートやコーヒーもいっぱい貰ったし、お好きにどうぞ」

「念とか毒とか入ってない?」

「向井さんまで失礼ねぇ」


 そうは言っても向井は、朝ご飯を食べてないと言って紅茶や抹茶の蒸しパンをガッついて食べていた。


 もぐもぐと咀嚼していり向井を横目で見ながら、文花は事件についてわかった事を全て報告し、杏子が書いた似顔絵も見せた。


 向井は似顔絵とインターネットで検索した凛子の画像を見比べながら「似てるじゃん!」と叫んだ。


「文花さん、カンがいいな」

「気づいたのは夫なのよ」

「へぇ。頭の悪い小心者の旦那の様子はどうだい?」

「今のところ大丈夫よ。『本妻探偵』のシリーズ化はわかんないけど、重版も決まって」


 その事を思い出しと、文花の頬が緩む。もちろん、打ち切りが撤回されたわけでがないし、棚ぼたの結果ではあるが、夫が元気になった事は喜ばしい事だ。町田や常盤と子供をあやすように励ましてきた甲斐があるというものだ。重版を喜ぶ夫を見ていたら、恋愛小説を書く事もミステリを書く事もどうでも良くなり、夫の不倫をしないという宣言を素直に信じたくなる。


 心の底では、夫の言うことなど100%信じているわけではない。何度も裏切られてきたので、子供のようにまっすぐに信じる事はできない。ただ、今回に限っては夫の言葉を信じても良いんじゃないか。もっと夫を疑わずに信じても良いんじゃないかと思えるようになった。


「文花さんさ、意外とあの小心者の夫と相性いいんじゃないか?」


 機嫌の良さそうな文花を見て、しみじみと向井が呟いた。


「そう? 佐々木数也の占いでは相性最悪らしいですよ。星の位置がお互い悪いらしい」


 前に数也が涼子と一緒に自宅に押しかけた時、そんなような事を言っていたのを思い出す。眠くてちゃんと数也の占いは聞いていなかったが、涼子と夫の方が相性の良いツインテイルというやつらしい。もっとも占いを信じていない文花にとってはどうでも良い情報だったが。


「文花さん、次はその占い師にあたってみろ」

「えー、数也? 何で?」


 意外な人物の名前が出てきて文花は目を瞬かせる。


「私は涼子か凛子が犯人だと思うんだけど」

「よく考えてみろよ。金蔓の涼子が脅されていたら、数也にも動機があるだろう」

「確かに」


 その可能性は考えていなかった。動機を考えれば数也も容疑者の一人だろう。


「それにあの愛人ノートの面子では、涼子が一番脅されて困るだろ。他の愛人達は智香を見たやついたか?」


 文花は首を振る。


「愛人達を脅していたのはみんな凛子よ」

「だったら愛人達は凛子を殺す動機はあるとはいえ、智香を殺す動機はないだろう。地元や仕事関係で智香を殺せそうなやつはいないんだろう?」

「ええ。地元も少女小説ファンも殺すことは無いと思う」


 残るはやはり涼子の関係者達だ。

 涼子?

 凛子?

 数也?

 一体誰が殺したの?


 重版が決まったとはいえ、まだ『愛人探偵』のシリーズ化が決まったわけじゃない。ミイの時のように事件を解決して、話題になって『愛人探偵』が売れる事に賭けよう。


 自信があるわけでもないし、警察の任せるべき問題だが、居てもたってもいられない。


 何としてでも犯人を見つけなければ。


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