メンヘラ地雷女編-3
文花が帰っていき、常盤はようやく肩の力が抜けて、自分のディスクに戻った。そこへ上司でもある文芸局編集長・紅尾が常盤に声をかけた。
「田辺さんの奥さん、なんだって?」
「いや、『愛人探偵』の打ち切りが不満だったみたいです。これでまた夫が不倫したらどうしてくれるのって」
「うわぁ。ドン引き。相変わらずメンヘラ地雷女だな。迷惑極まりない」
紅尾は、半分笑いながら言った。自分は田辺の担当者じゃないから、他人事なのだろう。昼出版では文花はメンヘラ地雷女だと有名だった。
浅山ミイの事件の時は誰もが文花が犯人だと疑っていた。紅尾もその一人で今も文花が犯人だと思っている。
「『愛人探偵』は酷い感じじゃなかったけどさ。ヒロインがトンデモ女すぎて一般人にはクドイんだろうな。ヒロインの方が犯人じゃないかっていうギャップが笑えるんだけどね。まあ、本当の文花さんよりかなり誇張して書かれてるけどさ」
「そうですか」
売り上げは悪かったが、内容は担当編集者として満足いくもので、紅尾のコメントにちょっとカチンとしてしまった。
「まあ、俺たちはボランティアでやってる訳じゃないし、売り上げ悪いのは切るしかないだろう」
「そうですけど…」
確かに売り上げも大事だだが、発売日から数日で打ち切りが決まるのは厳しい現実だった。よく作家や漫画家達もSNSで、発売後すぐに買うように読者に呼びかけている。本も昔より売れなくなり、本屋の数も減っている。
出版不況はまだまだ続くだろう。それにニュースなどで見ると日本の経済状況も悪く、本を買う余裕のないものも多い人がいる事もわかる。無闇矢鱈に読者に買ってというのも難しい気がするし、だからといってこのまま何もしないっでいるのも違う気がする。常盤は何を出版不況について何をすべきか答えは出なかった。
ただ作家をサポートし、良いものを作るだけだ。実際そんな中でも売れてる作品はあるので言い訳は出来ない。
「やっぱり田辺先生は、ミステリ作家になるのは難しいですかね」
「まあ、あの奥さんは可哀想だけど、今まで通り、恋愛小説書いて貰うしかないな…。お前、ちゃんとこの事、田辺先生にも奥さんにも言えよ」
文花から更に怒りを買う事を予想し、常盤の胃が痛くなった。