殺人事件編-6
尾行を続けて30分後、智香の姿を見失ってしまった。
時々向井と恋人のフリという茶番を交えながら、かなり慎重に尾行をしたが、智香はオフィス街の人混みの紛れてしまい、追いつけなかった。
「まずい、あの女、何か勘づいているかもしれんぞ」
「やっぱり私一人でやった尾行が問題だったのかかしら」
「まあ、そんな事言ってもしょうがないさ。とりあえず、智香の家に先回りすっか」
文花が頷く。
もうすっかり夜で、下手に尾行するよりその方が良いと思った。
二人で智香の住むマンションに向かう。最寄りの駅で降り、あまり人通りのない道にはいる。ここで恋人のフリをするのも馬鹿馬鹿しいので、適度な距離をとり会話を続ける。
「やっぱり、あの女は手強いぞ」
「そうねぇ。浅山ミイは性格は極悪だったけど、智香のような賢さはなかったから、その点は楽だったのに」
ちょうどそこへ黒っぽい服をきた人が走ってきて、文花にぶつかった。女か男から判断に迷う細い体格のものだった。サラリと長い茶髪が見えたが、今時、ロングヘアの男性も珍しくないので、余計にどっちか迷う人だった。
勢いよくぶつかったので、文花はよろけ、向井にささえられる。
「ゴラァ!ぶつかったら謝れ!」
向井は吠えたが、茶髪で細身の人は、無視して走って暗闇に消えて行った。
「全くなんなのよ、もう」
文花もぶつぶつと文句を言うと、後ろから声がした。
「文花ちゃんこそ不倫してんじゃん!」
後ろに夫がいた。
夫は、白髪頭をぐしゃぐしゃとかきむしり、文花と向井を指さした。
「信じられん。この悪妻!」
「あのね、それ、あなたが言うことなの? そもそもなんで、あなたはここにいるの? 智香に会いにきたんでしょ」
「そーだ、そーだ!我々は業務で恋人のフリしてターゲットを張ってただけだ。仕我々は事だよ、仕事」
向井の言い分は半分は嘘だったが、文花も同意して置いた。
「それは…。智香が臨時収入入ったから、一緒に家で焼肉食おうって…」
「ふーん。焼肉ね。どう思います? 向井さん」
「焼肉に臨時収入か。いよいよ脅してた可能性が高まったな」
すると智香のマンションの方が騒がしかった。
人だかりもできている。
「なんだよ?」
向井は顔を顰めた。
何か起こったのかもしれない。文花と向井はマンションの方の走った。夫は、ノロノロと小心者らしく文花の後を追った。
マンションの裏口の方で、住民が何人か集まり、警察を呼ぶなどと騒いでいる。
文花と向井は人混みを掻き分け、人だかりの中心部に近づく。非常階段のそばで住民たちが大声で騒いでいる。
「自殺かねぇ」
「いや、誰か突き落としたんじゃない?」
「俺ら、言い争う声を聞いた」
住民たちは、それぞれ主張していた。
「ちょっと、向井さん!」
「死んでる! 智香だな」
非常階段のそばで、文花と向井も大声を上げた。
そこには智香の死体があった。
頭から血を流し、ぐったりと倒れている。目は閉じていた。二度と目覚める事はないようだった。
「ぎゃあああああああああああああ」
同じく死体を見つけた頭の悪い小心者は、絶叫し泡を吹いてその場に倒れた。集まっていたマンションの住民達は、死体よりも夫の方にギョッとしている。
「何で私の夫はとても情け無いの……」
肝の据わった妻は、深くため息をついた。




