殺人事件編-2
「そんなしょっちう事件が起きたら苦労しないわよー」
文花もちょっと酔っていたので、井村に絡む。
「確かに、話題になれば一般文芸は売れますよ。まあラノベや漫画はメディアミックスで話題になるのが一番チャンスですかね」
猫子は冷静に分析していた。
「なーんだ。メディアミックスとかないマイナーな少女小説は厳しいじゃん!」
橋本ちゃんは、ちょっと泣きそうだ。そして智香の事も愚痴っていた。智香は、夫の不倫が原因で少女小説レーベルに移動になったので、文花は少し申し訳ない気持ちになり、話題を変えるかのようにラッキーさんに話しかけた。
「ラッキーさん、さっきからチーズばっかり食べてるわね」
「うっす! お菓子は糖質高いから食べたくないっす!」
「あら、あなた糖質制限してるの? 実は私も夫の料理作る時糖質過多にならない様に気をつけているのよ」
しばらくらラッキーさんと栄養や美容、料理について話があって話し込む。連絡先も交換した。
「ラッキーさんってどこに住んでるの?」
聞くと神奈川県の某市に住んでいるという。智香の実家のある町だ。もしかしたら智香の地元での評判も知ってるかもしれない。ラッキーさんとは連絡先交換しておいてよかった。後々、智香の事を調べる上で何かきっかけが掴めるかものしれない。
「まあさ、全体的に本が売れないのが悪いのさ」
猫子先生は、しみじみと呟いて、橋本ちゃんを慰めた。橋本ちゃんも少しは元気が出たようで、ポテチをぽりぽりと噛み砕いていた。
「ところで文花さんさ、『愛人探偵』に出てきた愛人ノートっていうのもガチなわけ? 田辺先生の創作じゃなくて?」
「そうよ」
「なんかアレ、面白いよな」
なぜか猫子に愛人ノートについて取材もされ、熱心にメモもとっていた。作品のネタになるというので、文花は協力してあげた。猫耳をつけた男とこうして近くで、あの事件の事などを話すのはなかなかシュールな光景だった。
「それで、愛人ノートの事を漫画にするの?」
せっかく協力したのだから、作品にするのか知りたい。
「うーん。ちょっと難しいかな。田辺先生が原案作ってくれたらいいんだけどな〜」
「夫は漫画の原案はやった事ないのよね。でも可能かどうかはちょっと聞いてみるわ」
「サンキュー、文花さん」
こうして呑んで食べてグダグダとしつつもUZのオフ会はそこそこの盛り上がりを見せた。最後にみんなでアニメソングを長々と歌い、文花もすっかりヲタクのノリに染まっていた。
もともと一つの事にのめり込みやすい文花は、ヲタクのノリがそんな嫌いではないのだ。いわば文花も夫のヲタクである。極めるところまっで極めてやろう。
UZのメンバーに会って、落ち込んでいた気分もすっかり元気になった。
猫子先生からは読者の手紙やメールもバカにならない作品の支援だと知り、『愛人探偵』のシリーズ存続も少々希望がでてきた。橋本ちゃんからも智香の裏アカをゲットし、こちらも少し希望が出てきた。UZのオフ会に出て本当によかったとほろ酔い気分で家路につく。
プレハブや家の方には人影がなかった。メールを見ると夫は取材で埼玉のホテルに泊まりのようだ。紅尾と常盤と一緒にいるようなので、不倫ではないようで安心する。
さっそく今日仕入れた情報を愛人ノートに書き込まなくては。
書斎に行き、机の引き出しを開ける。
「あれ?」
まさか!
文花は珍しく動揺していた。ほろ酔い気分も吹っ飛んだ。
愛人ノートが消えていた。




