ドケチ少女小説編集者編-7
雑誌の付録の黒いリュックの中に、マスク、地図、ペン、サングラス、カメラ、ICレコーダー、催涙スプレー、防災用の笛を入れる。最後に愛人ノート入れる。あの智香の事だ。万一尾行がバレて、襲われないとも限らない。一応防犯グッズも入れておく。
今日は髪をまとめ、帽子を被って隠す。黒いパーカーにジーパン姿で化粧は薄くする。眉毛だけ濃いアイブロウでゲジゲジに書いた。
最後に眼鏡をかけ、マスクもする。鏡の中にいる自分は、一見中学生ぐらいの男の子のようだ。眉毛を濃くすると一気に男顔になった。目立つ事もないだろうし、これで尾行の準備は完了だ。
夜出版近くのカフェに直行し、智香が出てくるのを辛抱強く待った。もう夕方でだったが、夕飯は取らずカフェオレを飲んで糖分だけ補給しておく。ものを食べてしまうと消化にエネルギーがかかり、迅速に動き難くなる。とはいえ糖分をとらないとエネルギーが出ないので、カフェオレにもシロップを入れて飲み込む。飲みながら再度愛人ノートを確認し、準備を整える。
日が暮れ始めた頃、智香が夜出版から出てきたので、早速尾行を開始した。
智香はスーツにハイヒールという格好だった。パッと見仕事が出来そうなキャリアウーマンだが、長い髪の毛はボロボロで、パーマを失敗したのか天然パーマかは不明だがチリチリになっていた。会社で化学の実験でもし失敗でもしたんだろうか?と思うぐらいだった。
金がなく美容代をケチっているのもあるだろうが、食費もケチっているのと察した。カップラーメンやパンなど安物の糖分多めの食事をしていると髪が痛む。
夫も糖分が多いジャンクフードが好きなので、いつの髪質が悪い。ミイの事件で知り合った秋子と料理教室をやる時、栄養についても調べたが肉や魚などのタンパク質が不足すると髪や肌にも影響が出やすいという。糖質過多が健康に良くない事も夫の料理を作る上で念頭に置いている。
智香の傷んだ髪をみながら、夫とは食の趣味も合いそうだと思う。前の不倫の時もよく一緒にファストフード店や牛丼屋でデートをしていた。おそらくこれから、どこかのファストフード店か牛丼屋に行き夫と落合い、ラブホに行くのだろう。
過去のデートコースもだいたいそんな感じだった。ラブホテルでなければ、南千住にある智香の自宅だろう。ただ家賃もケチって智香は事故物件に住んでいる。
智香は事故物件である事を気のしていないが、頭の悪い小心者の夫は、幽霊が居るのでは無いかとビビり、あまり智香の自宅にはよりつかなかった。築五年もたっていない、一見新しいマンションだが、過去に自殺者が出たらしい。
文花も幽霊などという目に見えないものが、何かをすると思えないので何故夫が事故物件にびびっているのかわからない。目に見えない幽霊より目に見える夫の不倫である。文花はさらに気を引き締めて、尾行を続けた。
智香は夜出版の近くのファストフードに行きコーヒーを飲んでいた。現在キャンペーン中でMサイズも100円で、お得だ。普段は160円なのでお得なようだ。店員にハンバーガーやポテトを勧められていたが「そんなの食べるわけないじゃない」と不機嫌に言い放っていた。
文花も他の客に紛れてコーヒーを飲んでいたが、確かに100円の割には量が多くコスパがよい。客席を眺めると、他にもコーヒー一杯だけ頼んでいる客も多い様だ。
文花の予想では、ここで夫と落ち合うとばかり考えていたが、携帯を充電し、仕事で必要なのか亜傘栗子や朝比奈佳世という作家の少女小説を読み耽っていた。
100円コーヒーでゆうに一時間いた。夫の姿は見えない。常盤にメールで連絡すると、もう帰ったと言うが、文花の憶測は外れてしまったのだろうか。
智香の行動は文花の予想外だった。飲みかけの100円コーヒーをレジカウンターに持っていき、髪の毛が入っていたとクレームをつけ始めた。
「どうしてくれるわけ?」
もう中身はすっかり冷めているであろうコーヒーカップをカウンターに叩きつけ、キツい口調で文句をつけ始めた。
おそらくアルバイトの若い店員はタジタジになり、顔は泣きそう。
可哀想だと思うが、ああいうタチの悪いクレーマーは毅然と対処した方が良いだろう。文花もコンビニでバイトをしていたとき、いつもクレーマーの処理を任されていたが、毅然として対応していたら、怖がられる様になってしまうほどだった。
結局、智香と店員の間に店長らしき男がやってきてクーポンを渡していた。智香はそれをもらうとニンマリと笑っていた。
智香はケチで貧乏だし、髪の毛がコーヒーに入っていたというのは作り話かもしれない。確かな証拠はないがその可能性は高いと思った。




