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本妻探偵〜愛人デスノート〜  作者: 地野千塩


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ドケチ少女小説編集者編-6

 その日から文花は、智香の尾行をする事に決めた。

 何しろ文花の顔は相手に知られている。尾行はかなり慎重に行かなくては。


 あの日、夜出版に行ったその足で智香に尾行をしても良かったが、いろいろと準備不足の為諦めた。


 まず智香のSNSを調べた。過去は男女平等などのフェミニズムをこじらせた発言が多かったが、今は一転してた。


 男を支えたいだの、男につき従いたいだのしおらしいことばかり呟いていた。フォロワーには「いい奥さんになれるね」と褒められると、「実はそういう予定があるの」血の気が引く事まで呟いていた。


 智香はどちらといえば短文のSNSより長文のブログの方が頻繁に更新している。ブログの内容はフェミニズム思想も多く、韓国アイドルの演劇舞台やコンサートの感想や小説や映画の感想、それに絡めた自分語りのサブカルブログだった。


 どれも長文でギッシリと小難しい感想が書いてある。夫の本の感想もいくつ上がっていて、単なる純愛小説を抑圧された昭和の女性の内面が云々とフェミニズム論に飛躍していた。


 不倫を芸の肥やしとして小説を書いている夫の悪癖はよく知らないようだ。フェミニズム思想というより、むしろ女達の扱いが酷い結果で出来た小説ばかりなのに片腹痛い。


 智香は万年金欠の貧乏女だったが編集者という仕事柄、漫画や小説は入手しやすいようだった。何か夫にまつわる情報がないか、目を皿のようにして見る。


 最近の記事を見ると、『愛人探偵』の酷評レビューが上がっていた。こんなトンデモメンヘラ妻などありえないとヒロインをこき下ろしていた。


『愛人探偵』は賛否両論の作品で、特にヒロインの好き嫌いが分かれていた。セールス的には大失敗だったが、ヒロインのキャラ好きな人は絶賛され、嫌いな人は酷評というわかりやすく二極化していた。


 夫の本の酷評レビューなど今に始まった事ではないが、智香のレビューは個人的な恨みの感情が滲んでいる。


『こんな奥さん、サゲマン』

『ダンナの小説を書くのをやめさせようとする妻なんて悪妻よ』

『主人公の小説家はキャリアウーマンで金銭感覚がしっかりした私のような女と結婚した方が成功する』


 こんな風に強く批判され、ますます智香を尾行して不倫の証拠をおさえなければと思う。


 智香はそこそこ賢いのか、旦那との逢瀬を匂わせる投稿はしていなかったが、夫を略奪しようと目論んでいるのもありありと伝わってきた。




 尾行の日、夫は昼出版に方に出かけて行くのを確認した。


 事前に常盤にも釘を刺して置いた。もし夫が誰かとの不倫を匂わせていたら直ぐに連絡しろと電話した。文花のこの言葉に常盤は震え上がり、必ず連絡すると半泣きで宣言していた。


「それにしてもまた田辺先生不倫してるんですか……」 


 電話での常盤の声は呆れていた。他人事だったらこんな風に呆れられるのだろう。


「もとはといえば、あんた達が『愛人探偵』打ち切ったからこんな事になったんですからね! 本当にどうしてくれるの? 昼出版って不倫の縁結び神社か不倫キューピットか何か?」

「まぁ、まぁ落ち着いて。奥さん。実は、『愛人探偵』読者からは評判は良いんですよ……。分厚い手紙やお菓子のプレゼントなんかも編集部に届いてます」


 それを聞いてほんの少し希望を感じた。


「まあ、『愛人探偵』の読者もヒロインに似てとても粘着質で…」

「誰が粘着質って言いたいの?」

「いえいえ、ヒロインが粘着質って話ですよ……。それで色々と交渉したんですが、あと二回重版が決まったらシリーズ化してもいいよって事になりました…。田辺先生は過去の実績もありますしね。新人作家ならこの条件は出せません」

 

 厳しい条件だった。まだ一度も重版かかっていないし、その上再び重版となると、話題性が無いと無理だ。しかも初動では躓いている。


「自分で本屋で買い占めとかしないで下さいよ。文花さんが買い占めているのを見つけたら、この話はナシです」

「しないわよ。もともとそんなお金の自由はないし」

「まあ、じゃあ頑張って」


 常盤はそう言って電話を切った。


 打ち切りや智香の事で気分は最悪だったが、この話を聞いて少しは希望が出てきた。難しい条件だが、読者からの評判が良いのは救いだ。


 とはいえ、智香の不倫の証拠を探すのが先決だ。文花はさっそく尾行の準備に取り掛かった。

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