インタビュー・ウィズ・テンセイシャ
ふとテレビを見ていて思いついたことを文章にしてみました。
下らないかもしれませんが良かったら読んでみて下さい。
「……はい、でははじめさせていただきます。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
女性は深くお辞儀をしてから手元のICレコーダーのスイッチを押す。録音が開始されると同時に、目の前の男性が緊張しているのか、少し居住まいを正した。女性は笑って「くつろいだ状態で構いませんよ」と言うと、男性も肩の力が抜けたのか少し微笑んで「ありがとうございます」とだけ言った。
二人は向かい合わせになった椅子に腰掛けている。これだけなら何の変哲もないビジネスの話程度に思えるだろう。だが、女性の方はフォーマルなスーツを纏っているのに対して、男性の方はガッチリとした西洋風の鎧を身に纏っている。両者の違いは決定的だ。だが、おかしいのはどちらなのだろうか。男性の方であろうかはたまた女性の方であろうか。しかし、両者はそれを全く気にかけること無く、話を続けていく。
「……では、まずお名前と年齢、それからご職業をお願いします」
女性の問いに対して、鎧を纏った男性はさも当然であるかのように答えた。
「はい、異世界『グ・ルコ・サミーン』からやって来ました。タナカ・ヒロシです。年齢は今年で42歳。職業は……勇者、ですかね」
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「では、タナカさんにお伺いします。お名前からすると日本人であるかと思いますが……どうしてそのような格好をしているのですか?」
「ああ、これですか?ミスリルで出来た鎧ですよ。非常に軽くて丈夫でしてね。魔術も弾くことが出来る優れ物なんですよ。……コレを手に入れるのは非常に苦労しました」
「あ、ごめんなさい。知りたいのは鎧の方ではなくて……。タナカさんは日本人ですよね?どうしてその……ミスリルの鎧を纏っているのかを聞きたくて」
「ああ。それは私が勇者だからですね。人間たちを襲う魔族を退治するためにはやはり身を守る防具が必要ですから」
「なるほど。勇者だとそのような鎧を纏って魔族を退治しなければならないのですか?」
「そうです。私は神託を受けた『テンセイシャ』ですから。テンセイシャは勇者として魔物の恐怖に怯える人々を救わなければならないのです」
「ははあ、なるほど。魔物、というと……どういったものがいるのでしょうか?」
「街の近くにはゴブリンがよく潜んでいます。森に行けばオークたちが幅を利かせていて、渓谷にはミノタウロスがいますねぇ。都の方にはたまにドラゴンなんかも出ますね。正に多種多様、って感じです」
「では……タナカさんが最近退治した魔物というのは?」
「最近でいうと迷宮に潜んでいたサイクロプスを退治しました。コイツが中々デカぶつでしてね。いやぁ、手強いこと」
「そのミスリルの鎧でも?」
「そうですね。この鎧がなければ死んでいたかもしれません」
「テンセイシャ、というとやはりもらえるのですか?その……神様のご加護とか、王様から古くから伝わる武器みたいなものとか?」
「いいえ?そういったものは貰った覚えがありませんねぇ。王様から勇者に任命された時にも渡されたのはヒノキの棒でしたし。車に撥ねられて気がついたらコッチに来ていた、って感じでしたので」
「神様の加護もナシ、王様の援助もナシ、となると魔物との戦いはボランティアか何かですか?」
「いいえ。魔物は死ぬとお金を落とすんです。それを生活の足しにしているので、勇者は生業ですかね」
「……月並みな言葉で申し訳ないのですが、やはり年齢のこととか考えませんか?」
「はい。とても考えますね。異世界に飛ばされた時には私は高校生だったのですが、気がついたらもう厄年です。加齢による肉体的な衰えも感じますし、この先、勇者を続けていけるかどうか不安もありますね」
「いつまでも若々しい身体が手に入る、と言われればどうしますか?」
「それはもちろん欲しいですよ。やっぱり勇者は身体が資本ですからね。いつまでも元気で戦いたいですし」
「そこで今回タナカさんにおすすめするのがこちら―――『スーパーテンセイシャEX.β』です!」
「『スーパーテンセイシャEX.β』!?ま、まさか『β』が出たんですか!?」
「そうです、ご好評にお答えして今回『スーパーマムシテンセイシャEX』を更に改良した『スーパーテンセイシャEX.β』がついに出たんです!」
「そんな……あのスッポンや黒酢を惜しみなく使用した『スーパーテンセイシャ』を更に超える効果を実現したと言うんですか!?」
「その通り!コレ一つで疲労回復、動脈硬化や高血圧の改善、それに……精力増強までバッチリです!いつまでも若々しいテンセイシャであり続けたいあなたにおすすめです!」
「本当ですか!?いやぁ、でも……お高いんでしょう?」
「ご心配なく!このスーパーテンセイシャEX.β、一袋○○○円のところ……なんと!今回は特別価格で一袋×××円でのご提供となりまーす!」
「やっすぅい!!」
「今から30分、オペレーターを増員してお待ちしております!是非、お早めにお電話下さーい………」
ブツリ、と映像が途切れた。部屋の明かりが灯され、プロジェクターがするすると巻き取られていく。
テーブルを囲んでいるのは数人の男女である。彼らの前には決まりが悪そうに視線を右往左往させるスーツの男性が一人。両者の立場は審査する者とされる者にハッキリと分かれている。
「い、いかがでしょうか?我が社の新商品『スーパーテンセイシャEX.β』のPR映像は?」
躊躇いがちに口を開いたスーツの男に対してテーブルを囲んでいた一人がゆっくりと一言、
「うーん。……ボツ」