31 『月灯』
────……みなぐちくん、
真夜中だと思った。
空気が澄んで、静寂に息が詰まる。瞼をあけても、まだ暗い。
あらゆる要因が夜を告げる。でも、夢か現実かが定かでない。
「みなぐちくん、」
仲村が、座って見おろしていた。
顔がよく見えない。常夜灯を点けていたはずなのに、真っ暗だ。
やっぱり夢だろうか。こいつだって、布団で寝ていたはずなのに。
「きみは、ほんとうに皆口くん、なのかな、」
人影だけの仲村が、ゆっくりと言った。
「産まれたときから、ずっと、みなぐち あさひ、なの?」
静けさのなか、蚊の鳴くような声がよく響く。表情が確認できないぶん、耳が敏感になっているのかもしれない。
……仲村? 曖昧に彼を呼んだ。
「セージ、」
声が返ってくる。
「星史、だよ。」
カーテンの隙間から光が射して、模様をつける。弱い、光だ。
「おれが、産まれたときから、変わらない、なまえ。」
おもむろにカーテンを開いた。窓いっぱいに光が射し込む。光は青白く、か弱く、おぼろげに彼を照らした。
「きみもそうでしょう? …………旭くん、」
………月あかりだ。
夜が、声が、彼が、
夢か現実かが定かで、ない ────────




