00 『兄妹』
遺伝子による風評被害、及び直接的被害を、僕は日々こうむっている。
これはどのメディアも取り上げてくれない、実に深刻な現状だ。
もし、『この世で限りなく自分に近い存在』を問われた場合、誰しもたいてい答えは同じだと思う。
父の遺伝子が母の胎で構築される過程を、ほぼ同じ材料、同じ経緯を踏んで生まれるのは、無論、兄弟姉妹しかいない。
(なら一人っ子はどうなるのか、と考えてはみたが、少なくとも僕は一人っ子ではないのでそこは省かせていただく。)
でもまあ兄弟姉妹がいない一人っ子の存在が、なんら珍しくないのと同じように、僕には兄、弟、姉がいない。僕にいるのは妹だけだ。
つまり、二人兄妹の片方しかいないのだから、彼女は正真正銘、この世で最も限りなく僕に近い存在、ということになる。
父の遺伝子と母の胎。材料と制作場所を同じとする兄妹は、血も肉も骨もほとんどおんなじ、という理屈だ。
────いい迷惑だ、ほんとうに。
「虫唾が走るんだよ。おまえなんかと、」
血も肉も骨も同じなんて。
それはこっちの台詞だ。妹の靴底を額に乗せたまま、声にならない威嚇をした。
最初に受けた一撃からか、口のなかが血なまぐさい。うまく言い返せないのもそのせいだ。結果的に無抵抗な僕は彼女の評価通り、喧嘩の一つもまともにできない、男の出来損ないだ。
ふざけんな、相手が悪すぎんだよ。
暴虐的で幼稚。激情家で傲慢。
短い制服姿で大股を開き、彼女は兄を頭から踏み躙る。
こんな妹が、
僕の、この世で限りなく近い存在、だなんて。