前編
周りは、見渡す限りの天空である。
「……また置いて行かれたにゃ~~……」
猫系獣人である、”ネムリネコ・ネムネム”は大声を出した。
黒くて三角の猫耳が、ピコピコ動く。
”寝坊”だ。
目覚ましを、かけ忘れたらしい。
もう昼過ぎである。
でも、
スキル、”迷いネコ”の効果の一つ、”タヌキネイリ”発動。
多大なる心的ストレスを、強制的に眠ることで回避。
「にゃご、にゃご、すう、すう」
そのまま、ネムリネコは、身体を丸くして、二度寝してしまった。
◆
『”置き去り“の回数が規定値を越えました』
『チートスキル、”完全自律報復型、移動要塞、クレイジーキャット”が、LV2に成長します』
『ふふふ……予定通り、置き去りですか』
『いつものように、飼い主の元に帰しますね』
ホログラフで現れた、ナビゲーターが、満足した結果に含み笑いを浮かべた。
「ニャーゴ、ニャーゴ、ス~、ス~」
返事がない、眠っているようだ。
◆
「……おい、役立たずの荷物持ちはどこだっ」
リーダーで戦士のアレクだ。
「まさか、”天空城”に置き去りなったのかっ」
シーフのゲンゴローである。
「また、ナビゲーターのしわざ~」
女魔術師のマリッサだ。
「何回目になるのでしょう?」
女司祭のシスティナである。
「帰っては来るんだけど」
モンクのフルードだ。
「……無事ではありませんものね……」
エルフのエルファフィンである。
「この前は、傷だらけだったな」
ドワーフのドワイトだ。
「……眠らされて抵抗も出来ないんだっけ……」
ハーフリングのハフアである。
「経験値もしっかり持っていって、少しは成長しておるはずだ」
ドラゴニュートのバハムだ。
「あんな小さな子と一緒にするな」
猫系獣人のニャンタである。
「この荷物、ネムリネコの代わりに持ちますね」
荷物持ちのポータだ。
大空を、アレク達を乗せた”大都市防衛用移動要塞”が飛行している。
ナビゲーターが、ネムリネコを、わざと”天空城”に置き去りにしたのだ。
今、パーティー”アレクとゆかいな仲間たち+ネコ”は、天空城の守り神の巨大な”蛾”から必死に逃げていた。
◆
小さま双子のピクシーが、守り神を召喚する歌を歌っている
『おやおや、ついに来ましたか』
”ナビゲーター”が空の一点を見た。
キシャアアアア
巨大な蛾が、天空城の周りをゆっくりと回る。
『くふふふふ、スキル“クレイジーキャット”発動』
辺り一面が急に暗くなる。
◆
完全自律報復型、移動要塞、機械竜、”ツインテールキャット”
チートスキル”完全自律報復型移動要塞、クレイジーキャット”LV2、で呼び出される機械竜である。
金色に光り輝くボディに、巨大な金属性の翼椀。
竜の体のいたるところに、戦艦砲などの強力な火器が、まるで剣山のように配置されている。
最も特徴的なのが、機械で出来た、三本の竜の首と、二本のネコの尻尾である。
(モデルについて、何も申しますまい)
◆
『来たキタきた~』
天空城の上空に滞空する、”ツインテールキャット”のコックピットである。
ネムリネコが、リクライニングされた、副操縦席に丸くなっている。
「もう、嫌ニャ~~~~」
スキル”タヌキネイリ”発動っ。
「ニャッゴ、ニャッゴ。ス~、ス~」
返事がない。眠っているようだ。
”ナビゲーター”が、体にぴったりの、パイロットスーツを着て、操縦席に座っている。
ホログラフなので、ナビゲーターと服は、うっすらと透けているが。
”ツインテールキャット”は、守り神の蛾と空中で対峙する。
キシャア~アア
ピロピロピロピロ
『くふっ、敵意ありと判断』
『ナビゲーターの判断で、報復攻撃だっw』
ついに、ネムリネコに報告すらしなくなった。
『46センチ、戦艦大和型主砲、撃てえ』
丸いロックオンマークが、計3×2、6個、6発の46センチ砲弾が、”守り神”に直撃する。
守り神の羽の一部に穴が開き、鱗粉が”ツインテールキャット”の辺りを包む。
パリパリ
『んっ!!』
『光子力バリア、展開』
”ツインテールキャット”の周りをバリアが包む。
ドガシャアアアアア
大量の電気を帯びた、鱗粉の雲の中で、何十個もの稲妻が縦横無尽に、走り回る。
パリーーーーン
全ての稲妻のエネルギーを無効にしながら、光子力バリアーは、割れて崩れさった。
『くふふ、吶喊っ』
ナビゲーターの顔が、嗜虐的に歪む。
”ツインテールキャット”が、背中のラウンドバーニアを全開にして、突撃。
キシャ……
守り神は、のど元に食いついた機龍の真ん中の首に、雄たけびを消された。
「「やめてください」」
双子のピクシーの小さな声を、外部集音器がひらう。
ニヤリ
左右の首が、守り神の、羽の根元に噛みつき、引きちぎった。
羽の無くなった体が地面に落ちる。
『報復完了~』
『さてと……』
正面のモニターには、付近の地図と、固まって高速移動する、青い十一個の丸が写っている。
線が伸びて、”KAINUSI”と表示されていた。
『目的地は、大都市、トーキオね』
『面白くなってきたわ~』
”ナビゲーター”は機龍のネコの尻尾を、嬉しそうに振らせた。