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前編

 周りは、見渡す限りの天空である。


「……また置いて行かれたにゃ~~……」

 猫系獣人である、”ネムリネコ・ネムネム”は大声を出した。

 黒くて三角の猫耳が、ピコピコ動く。


 ”寝坊”だ。

 目覚ましを、かけ忘れたらしい。

 もう昼過ぎである。


 でも、


 スキル、”迷いネコ”の効果の一つ、”タヌキネイリ”発動。

 多大なる心的ストレスを、強制的に眠ることで回避。


「にゃご、にゃご、すう、すう」

 

 そのまま、ネムリネコは、身体を丸くして、二度寝してしまった。



『”置き去り“の回数が規定値を越えました』


『チートスキル、”完全自律報復型、移動要塞、クレイジーキャット”が、LV2に成長します』


『ふふふ……予定通り、置き去りですか』

『いつものように、()()()の元に帰しますね』


 ホログラフで現れた、ナビゲーターが、満足した結果に含み笑いを浮かべた。


「ニャーゴ、ニャーゴ、ス~、ス~」

 返事がない、眠っているようだ。 



「……おい、役立たずの荷物持ちはどこだっ」

 リーダーで戦士のアレクだ。


「まさか、”天空城”に置き去りなったのかっ」

 シーフのゲンゴローである。


「また、ナビゲーターのしわざ~」

 女魔術師のマリッサだ。


「何回目になるのでしょう?」

 女司祭のシスティナである。


「帰っては来るんだけど」

 モンクのフルードだ。 


「……無事ではありませんものね……」

 エルフのエルファフィンである。


「この前は、傷だらけだったな」

 ドワーフのドワイトだ。


「……眠らされて抵抗も出来ないんだっけ……」

 ハーフリングのハフアである。


「経験値もしっかり持っていって、少しは成長しておるはずだ」

 ドラゴニュートのバハムだ。


「あんな小さな子と一緒にするな」

 猫系獣人のニャンタである。


「この荷物、ネムリネコの代わりに持ちますね」

 荷物持ちのポータだ。


 大空を、アレク達を乗せた”大都市防衛用移動要塞”が飛行している。

 ナビゲーターが、ネムリネコを、わざと”天空城”に置き去りにしたのだ。


 今、パーティー”アレクとゆかいな仲間たち+ネコ”は、天空城の守り神の巨大な”蛾”から必死に逃げていた。


◆ 


 小さま双子のピクシーが、守り神を召喚する歌を歌っている


『おやおや、ついに来ましたか』

 ”ナビゲーター”が空の一点を見た。


 キシャアアアア

 

  巨大な蛾が、天空城の周りをゆっくりと回る。

 

『くふふふふ、スキル“クレイジーキャット”発動』


 辺り一面が急に暗くなる。



 完全自律報復型、移動要塞、機械竜、”ツインテールキャット”


 チートスキル”完全自律報復型移動要塞、クレイジーキャット”LV2、で呼び出される機械竜である。


 金色に光り輝くボディに、巨大な金属性の翼椀。

 竜の体のいたるところに、戦艦砲などの強力な火器が、まるで剣山のように配置されている。

 最も特徴的なのが、機械で出来た、三本の竜の首と、二本のネコの尻尾である。

 (モデルについて、何も申しますまい)

 


『来たキタきた~』

 天空城の上空に滞空する、”ツインテールキャット”のコックピットである。


 ネムリネコが、リクライニングされた、副操縦席に丸くなっている。

 

「もう、嫌ニャ~~~~」


 スキル”タヌキネイリ”発動っ。


「ニャッゴ、ニャッゴ。ス~、ス~」

 返事がない。眠っているようだ。


 ”ナビゲーター”が、体にぴったりの、パイロットスーツを着て、操縦席に座っている。

 ホログラフなので、ナビゲーターと服は、うっすらと透けているが。


 ”ツインテールキャット”は、守り神の蛾と空中で対峙する。


 キシャア~アア

 ピロピロピロピロ  


『くふっ、敵意ありと判断』

『ナビゲーターの判断で、報復攻撃だっw』

 ついに、ネムリネコに報告すらしなくなった。


『46センチ、戦艦大和型主砲、撃てえ』


 丸いロックオンマークが、計3×2、6個、6発の46センチ砲弾が、”守り神”に直撃する。


 守り神の羽の一部に穴が開き、鱗粉が”ツインテールキャット”の辺りを包む。


 パリパリ


『んっ!!』

『光子力バリア、展開』

 ”ツインテールキャット”の周りをバリアが包む。


 ドガシャアアアアア


 大量の電気を帯びた、鱗粉の雲の中で、何十個もの稲妻が縦横無尽に、走り回る。


 パリーーーーン


 全ての稲妻のエネルギーを無効にしながら、光子力バリアーは、割れて崩れさった。


『くふふ、吶喊っ』

 ナビゲーターの顔が、嗜虐的に歪む。


 ”ツインテールキャット”が、背中のラウンドバーニアを全開にして、突撃。


 キシャ……


 守り神は、のど元に食いついた機龍の真ん中の首に、雄たけびを消された。


 「「やめてください」」

 双子のピクシーの小さな声を、外部集音器がひらう。


 ニヤリ


 左右の首が、守り神の、羽の根元に噛みつき、引きちぎった。


 羽の無くなった体が地面に落ちる。

 


『報復完了~』

『さてと……』

 正面のモニターには、付近の地図と、固まって高速移動する、青い十一個の丸が写っている。


 線が伸びて、”KAINUSI”と表示されていた。


『目的地は、大都市、トーキオね』

『面白くなってきたわ~』

 ”ナビゲーター”は機龍のネコの尻尾を、嬉しそうに振らせた。


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