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14.人質救出

 ツワトは人質に取られたシハトを助けようと手を伸ばしたが、犯人であるレンリュに「おっと、弟君がどうなってもいいのか?」と言われて動きを止めた。


 「何をしている、レンリュ!」


 「何って見てればわかるだろう、人質だ人質」

 その問い掛けにレンリュは腕の中に拘束しているシハトの顔をナイフの平たい部分でペタペタと叩いて見せつけた。それを受けたシハトは「ひっ」と小さく悲鳴をあげ、真っ青な顔で硬直した。


 「何故こんなことを……」


 「あっ! ここにいたか、助けてくれレンリュ」


 衆人が呆気にとられる中、レンリュを豹変させた声の主が剣を持って休憩スペースに入ってきた。


 「何故こんなことをしたって? ふん、それはこいつのせいだ!」

 レンリュは入ってきたばかりの誰かさんにナイフを向けた。


 「ど、どうしたレンリュ」


 「黙れ! このバカ! お前のせいだと言ってるんだ! お前がここに来なければこんなことにもならなかったのに」


 「一体どういうこと?」


 「こんな答えのわかりきったことを訊くとはお前バカだな、さっき見ただろう? 政府に追い回されて殺された連中、そんなやつらと関わりがあると知られたらただで済むと思う?」


 「それは…………わかった、ここにいるみんなはこのことを決して口外しないと約束する。だから人質を解放してくれ」


 「別に口外してもしなくても構わん!」


 「え?」

 ドンドンドン!

 「門を開けろ!」

 まるで計ったかようなタイミングで外の誰かが乱暴に門を叩いて喚いた。


 「フン、来たか」


 レンリュがそう呟いたら門がこじ開けられて槍とか剣とかの武器を装備した守備隊の隊員が一気に外から製鉄所内部になだれ込んだ。


 「これ以上近寄るな! このガキのどうなってもいいのか」


 守備隊が休憩スペースの入り口まで来たのを見たレンリュはさっきのように人質を使って脅した。


 「よせ! そんな真似してもお前はもう逃げられない、早く人質を解放するんだ!」


 「フン! どうせ解放すればすぐ俺たちを殺すつもりだろう、誰がするか! バァカ!」


 興奮状態にあるレンリュはその忠告聞き入れるはずもなかった。それと対照的に守備隊の隊員たちは冷静にお互いにアイコンタクトして頷いたその次の瞬間、レンリュに襲いかかろうと一斉に地面を蹴ったが、ツワトはそれを察知してレンリュと守備隊の間に割り込んで止めた。


 「どういうつもりだ、少年。魔物を庇う気か」

 リーダー格の隊員は鋭い目つきと険しい口調でシハトに問い掛けた。


 「それはこっちのセリフだ! シハ……俺の弟を殺すつもりか」

 しかし、ツワトのそれに怯まずに毅然と振る舞った。


 「そ、そうだ! こいつがどうなってもいいのか」


 怯えるレンリュの問い掛けを聞いたリーダー格の隊員はレンリュたち、ツワト、シハトの順で表情を確認するかのように少し凝視したら、ため息をついた。そして、手に持っている剣をレンリュに向けて構えた。

 「少年、よく聞きなさい。我々の使命は悪しき魔物たちからこの都市を守ることだ。人質に取られた子供より安心に眠れる今夜を、我々は選ぶ」


 「お前らはいつもそうだ! 都市のためと言ってあれだめ、これだめだと何もかも制限する! 終いにはこの都市を出て移住できる新天地を探す、ただそれだけと願った俺たちを皆殺しにしようとする!」

 「そうだ! そうだ!」


 その発言は癪に障ったのか、ツワトが何かを言うよりも早くレンリュが激昂して叫んだ。レンリュの仲間もそれに便乗して声を上げた。


 「ただ都市を出たい? 冗談がうまいな、この製鉄所からくすねた鉄で大量に武器を作って反乱を起こそうとするくせに」


 「お前らが俺たちを殺そうとするからだ、俺たちはただ自分を守ろうとしただけだ」


 「自分を守るためかーー例えそれは子供を人質に取ることであっても仕方ないと言いたいのか? やはりお前たちはただ都市を脅かす魔物だ。少年、弟を諦めてそこを退きたまえ、さもなくば貴様も斬る」


 「クソ! どうせ死ぬなら、なっ!? 暴れるな……」


 レンリュが自棄になって何かをしでかす前にシハトがレンリュの腕の中で暴れだした。


 「嫌! 離して!」


 レンリュの拘束から逃れようともがくが、鉄など重いものをよく運ぶレンリュにかなうはずもなかった。


 「離して! じゃないとお兄ちゃんが!」


 それでも諦めないシハトは今度は拳と手に持っている風車でレンリュ叩き始めた。


 「痛てぇ、いい加減……」


 カチャ


 忽然変な音がしたその直後。


 「痛っいーー!」


 レンリュは自分の腕抑えながら大声で叫んだ。

 手を抑えているところから離すと黒寄りの血が徐々に湧き出て表面張力で一つの粒となった。


 「このっ!」

 守備隊との口論でもう逆上状態になっているレンリュはとうとう最後の理性が飛んで手に持っているナイフでシハトに襲いかかろうと一歩踏み出したが、まるで足に力が入らないように崩れ落ちた。


 「おい、レンリュ大丈……」

 

 レンリュの仲間がその異変に気づき、注意を向けるとこの事態を遠巻きでみていた人たちの隙間から一つの影が飛び出した。

 それを女性だと認識できた同時に女性は動揺しているレンリュの仲間に素早く頭頂と顎に手を添えて首を捻った。

 そしてまるでポイ捨てするように手を離して、地面に這うレンリュに単純作業の如くさっきやったことをもう一度やった。


 「大丈夫ですか? 怪我とかありませんか?」


 流れるような動きで2人を始末したシアサナは朝と同じ優しい目付きと声でシハトに声をかけた。

 しかし優しいからこそか、シハトは怯えてツワトの後ろに隠れた。


 「誰?」


 「今朝会ったばかりでしょう! 覚えてないのか!?」


 シアサナを警戒してシハトを庇いながら問い掛けるとすぐにデツィに指摘された。


 「そうか?」


 「そうよ、それにシハトを助けた恩人だからそんな警戒するなんて失礼だよ」


 「いや、しかし……」


 ツワトは自分の後ろにしがみつくシハトの様子を気にして歯切れが悪くなった。


 「いいよいいよ、私は気にしないから。それより無事でよかった、まだ仕事があるから先に行くよ」


 「あっ、それじゃ私も」


 シハトの無事を確認したシアサナはすぐどこかにいった、デツィはそれに付いていこうとした。


 「デツィちゃん、もう行っちゃうの?」


 歩きだして間もないデツィはシハトの覚束ない声に止められ、シハトのもとに引き返して目線の高さを合わそうと屈んだ。


 「これも仕事だから仕方がないよ。大丈夫、お兄ちゃんがずっとそば居るじゃない」


 「初めて水汲みのときは置いてかれた」


 「だ、大丈夫よ。きっとこれからはずっと一緒に居るよ」

 シハトの頬を膨れながらの反論にデツィは気まずそうに笑った。


 「じゃあ、デツィちゃんは?」


 デツィはちょっと目を見張ってすぐ目を細めて微笑んだ。


 「ずっとは難しいけど、その代わりに私もちゃんと守るよ。だから……」


 デツィは立ち上がって振り向くことなく走り出した。


 「もう行かなきゃ!」


 声の残響と衆人のぽかんとした顔だけ残して、デツィはこの場を去った。

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