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13.外に出ると危ない?

 チリンチリンチリンチリン

 休憩時間を示すハンドベルの音は係の人が製鉄所を一周したことにより隅々まで響き届いた頃、作業員の大半はもう一階の隅にある休憩スペースに移動した。そこにはヘトヘトになったツワト兄弟もいた。


 室温の高い作業環境はただそこに居るだけでも体力を消耗するのに、材料や燃料の運搬などの肉体労働もしなくてはならなかった2人はおかげで動きたくなくなったほど疲れた。体力に自信あるツワトさえも壁に凭れて座る羽目になった。


 そんな2人に案内役の生徒がやかんと2つのコップを持って近付いた。

 「おい、水を飲んだか? まだならちゃんと飲んどけよ、以前飲まなかったやつが作業の途中に脱水症で倒れたから」


 「ええ! 本当!?」


 「この様子だとやはりまだか。はい、コップ持って」

 シハトがコップを受け取ると案内役は水を注いだ。そしてもう一つのコップに水を注いでツワトに渡そうと手を伸ばした。ちょうどツワトがそれを受け取った時に誰かが窓の外に指さして言った。

 「おい、なんかおかしくね?」


 外を見てみると視野内にいる人間の殆どは守備隊の隊服を身に纏っていて、隊服を着ていない民間人であろう人たちを建物に入るよう呼びかけて促している。

 「この近くに魔物が出たので、他所のお家でも構いません直ちに屋内に避難して魔物が入らないようにしっかり戸締まりしてください。

 なお、10分後まだ屋外にいるものは魔物に襲われるので気をつけてください」


 それを聞いた作業員たちは疲れているだろうというのに、素早い身のこなしで製鉄所の窓戸締まりをしに散らばった。


 「え? お兄ちゃんあの人はなんで10分後、外に居ると魔物に襲われると知っているの?」


 「さ、俺もわからない」


 「なんだ、お前らは知らないのか? なら教えてやろうか?」


 ツワト兄弟の対話を聞いた1人がそう提案するとすぐ他の人に止められた。


 「おい、やめろ! こいつらはまだ授業を体験している時期なんだろう、つまり魔物が人間だったって知ったのは最近ということだ」


 「それがどうした?」


 「どうしたって、つまりこいつらはショックを受けたばかりだということだ! それなのにそんなことを教えるなんてまだ早いじゃないか!」


 「それは『何もなかった』の場合なら早いかもしれんが、今はそうじゃない。今はオレたちが側にいるから止められるが、もしこいつらが2人きりで何も知らないまま外をうろついたらどうする?」


 「そ、それは……」


 止めに入った人が言い負かされ、口籠って反論できないでいた。それをみてツワトたちに向き直ってそのまま教えるかと思ったら、ツワトたちに最終確認をする。

 「聞いた通り、今から教えることはお前たちが受け止められるかどうかわからないほどのものだ。それでも聞きたいか?」

 どうやら止めに入った人の言い分に一理ありと思ったようだ。


 「お兄ちゃん……」

 軽い気持ちで疑問を口にしただけなのに、何でこんなに仰々しい雰囲気になったとパニック状態になったシハトはツワトに縋ることしかできなかった。


 「じゃ、聞かない」


 「そうか、それもそうだな。弟くんはもうこんなに怯えているし、これでいいか。まあ、今まで通りに規則とか命令とかに従えばなんの問題もない、だから絶対外に出るなよ」


 「わかった」


 「ツワトさん何がわかったんですか?」


 忽然会話に割り込んできた人物を確認するとシハトはパニックから回復し驚きながら名前を呼んだ。

 「ジェンちゃん!?」


 「シハト、元気? これ、偶然見つかったけどあげる」

 デツィは(つか)がちょっと重い風車をシハトに渡した。

 「わい! ありがとう……ってデツィちゃんも!? なんでここに?」


 質問した人物はさっき川でガラクタを拾っていたジェンで、その後ろにいたのはデツィと戸締まりから帰ってきた作業員たち。


 ジェンとデツィがここ居ることに全員はそれぞれ違ったけど、困惑している。みんなは色々質問したいが、とりあえずシハトとのやり取りを見守ることにした。


 「私が川で探索していた時に……」


 「ジェン、それは言っちゃだめだとさっき言われたばかりじゃない」


 「そうでした! すみません詳しくは言えませんが、デツィさんといっしょにいたお姉さんに付いていったらここにきました」


 「お姉さん?」


 「シアサナよ、あのやさしそうな先輩の。私はジェンといっしょにここで待ってと言われた。そしてここにきてあなた達を見かけたら、ジェンが話しかけた」


 「そうなんだーー」

 「じゃあ、そのシアサナっていう娘は? お前たちといっしょじゃないのか?」

 シハトの質問が終わったと判断した作業員の1人は透かさずに質問した。


 「え、その、私たちを製鉄所の近くに案内したら用事があると言ってどこかに行きましたよ」


 ジェンは知らない人が割り込んできた上、食い気味に質問することに気圧されながらも質問に答えた。それを聞いた作業員は全員お互い見合って心配そうに「大丈夫かな?」と呟いた。

 その只事ではない様子にツワト兄弟とジェンは疑問を呈したいが、それより早くデツィが言葉を発した。


 「多分大丈夫でしょう、シアサナは生徒代表なんですから」


 「なんだ、代表生だったか。それなら大丈夫だろう」


 「さっきまで心配しているのに何でその代表生? だとわかったら心配しなくなったんですか?」


 デツィのその一言で作業員たちが何故納得したのか理解できないジェンは思ったままのことを口にした。


 「そりゃ、代表生は特権があるからだ。普段授業で何をしているかは教えてくれないのに、俺たち一般生徒は何を聞かれても正直に答えなければならないんだ」


 「そうそう、それに聞くところによると罪を犯した代表生を通報しても守備隊は逮捕しないらしいよ」


 「だから一般人が出歩けないこの時も平気なんだろうと思ったわけさ」


 「そうですか、でも命令違反とはいえ何故そんなに心配したんですか?」


 「それは……」

 「いたぞ! そこだ、仕留めろ!」


 シハトの質問と同じ答えを持つ疑問にどう説明したらいいか迷っていると外の騒ぎに注意を奪われた全員は自然と窓の外に視線を移した。

 視界に走っている人の焦る表情を認識した次の瞬間、その人の背後に1本の槍が刺さった。その衝撃のせいなのか或いは痛みで力が出なくなったのか、その人はそのままうつ伏せに倒れた。


 その光景を見て一同はそれぞれの反応を見せ始めた。

 作業員たちはジェンたちにこれ以上を見せまいと手で視線を遮り、カーテンを締めた。

 ジェンは最初呆然としていたが、シハトが泣き始めるとジェンも涙を溢れ始めた。最後はシハトと抱き合ったまま2人分の泣き声を木霊させている。

 ツワトとデツィはそんな2人を慰めようと寄り添っている。


 「どうしよう、泣いているよ」


 「友達が慰めているし、放っておけばそのうちに泣き止むじゃない?」


 子供2人が泣いていることに慌てだした作業員も居れば、冷静に判断する人も居る。その結果は冷静の人の提案に従って全員何もせずにツワトたちを見守ることになった。


 ガシャン!

 「レンリュ! 助けて! レンリュ!」


 しかし、ガラスの割れた音とともに聞こえてきた声により状況が一変した。


 「クソ、あのバカ!」

 レンリュという名の作業員はその声を聞いてすぐシハトを片手で抱き寄せって、もう片方の手に持ったナイフを首筋に当てて人質に取った。

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