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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第四章

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第99話 賢者は脅威の規模を知る

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ありがとうございます!

 夜明けを迎えた奴隷自治区の街並みに、煌々と朝日が差していく。

 辺りを徘徊するアンデッドは、途端に動きが鈍くなった。

 日光で弱体化したのだ。

 特に保護もしていないので当然だろう。

 日光を克服したアンデッドは珍しいのだ。


 歩き回るアンデッドの間には、無数の死体が散乱していた。

 此度の騒動による犠牲者である。

 街の住民や奴隷、魔王軍の兵士もいた。

 見えている範囲でも、かなりの被害であった。

 破壊された建物も含めて、悲惨な光景の一部となっている。


 死体の中には、不自然に肥大化した者が混ざっていた。

 肉の瘤に覆われていたり、身体が溶けて崩れていたりと身体的特徴が窺える。

 種族の判別が付かない死体も少なくない。

 それらの死体こそ、此度の騒動を起こした魔獣であった。


 私は辺りの惨状を前に、何とも言えない気分になる。

 決して良いものではなかった。


(ひどい有様だな)


 奴隷自治区に転移した私は、魔王軍と共に魔獣を一掃した。

 魔獣の一体ごとの強さは特筆するほどではなく、下位の魔族と拮抗する程度に過ぎない。

 人間にとっては相当な脅威だが、戦力的には魔王軍だけで十分だった。

 ただ、とにかく数が多かった。

 魔王領の南部の比ではない。

 少なくとも数百体はいただろう。


 加えて複数の街で同時多発的に騒ぎが起こり、さらには人々の沈静化を図るのにも苦労させられた。

 不確かな情報が広まったせいで、疑心暗鬼に陥った人間同士が殺し合う始末だ。

 あちこちで暴動が発生し、魔獣の攻撃をよそに人々の争う姿が散見された。

 それらの二次被害が馬鹿にできない規模で、下手をすると魔獣による被害を超える勢いだった。

 なるべく迅速な対処を意識したが、場所にとっては甚大な被害が出ていた。


 各街の人々は、現在は結界で隔離している。

 外からも内からも破壊できないように細工してある。

 さらにそれぞれを拘束した上で意識を奪っていた。

 勝手に目覚めることはまずない。


 彼らを放置していても混乱が生まれるだけだ。

 今の街はアンデッドの集団が跋扈している。

 それらを目撃された暁には、無用な争いを招く羽目になるだろう。

 これ以上、余計な犠牲者を出したくない。


「いやはや、ようやく決着したようですな」


 グロムが辺りの見回して安堵する。

 彼は殺気を解くと、腰の辺りを拳で叩いた。

 腰痛だろうか。

 グロムの仕草は妙に人間くさい。

 自我の構築に無数の魂を使った都合上、そういった癖が無意識に出てしまうのかもしれない。


 今回の戦いでも、グロムはいつも通り活躍をしてくれた。

 場数を重ねることで、アンデッドの指揮も的確になりつつある。

 彼は冷静に戦況を観測し、強靭な魔獣でも数の暴力で対応してみせた。

 ただのスケルトンやグールが蹂躙するなど、よほどの指揮力がなければ不可能な芸当だろう。

 不死の大軍を率いるその姿は、私より魔王に相応しいと思う。


 無論、グロム自身も魔術の連打で圧倒していた。

 もはや今更な話だが、彼の戦闘能力は並外れたものである。

 理性を失った魔獣が対抗できるはずなどない。

 彼はアンデッドを操る傍らで、広域の魔獣を遠隔系統の術で始末していた。


「いい運動になったぜ。もう少し数がいれば、もっと満足できたんだがね」


 ヘンリーは果実を齧りながら呟く。

 近くの露店からくすねたものだ。

 彼個人としては、魔獣の数が足りなかったらしい。

 ヘンリーの場合、これが強がりではないのだ。

 本気でもう少し数が欲しかったと思っている。


 ヘンリーが街の被害を気に病むことはない。

 あくまでも己の衝動を解消するための戦場に過ぎないためだ。

 そういった部分において、ヘンリーの心持ちは徹底している。

 ある意味では、非情や冷酷と評すべき部分だろう。


 しかし、これが彼の良さなのだ。

 私と相反しているからこそ、別の視点で意見を出せる。

 利害関係が成立しているので、裏切られる心配もない。

 理想の部下と言えよう。


(それにしても……)


 私は近くに転がる魔獣の死骸を一瞥する。

 端々に人間の面影があった。

 奴隷が前触れもなく魔獣になったのである。


 自然にはまず起きない現象だ。

 そもそも魔獣とは、魔物の変異体を指す。

 魔物が変貌するならともかく、人間まで魔獣になるのはおかしかった。


 私は魔王領南部で起きた魔獣発生を連想する。

 薬物反応を示した魔獣達は、どこから発生したのか不明だった。

 今も尚、その点は謎に包まれている。

 そこまで考えたところで、私は一つの仮説を閃く。


(あの時、各街にいた者達が魔獣になったのではないか……?)


 魔獣の突然発生という状況は一致している。

 もしもそれが薬物による効能だとしたら、真相究明の手がかりになる。


 私は付近にある魔獣の死骸を解析していった。

 すると案の定、薬物の混入を探知する。

 魔王領での魔獣騒動と同じであった。

 これでほぼ確定した。


(何らかの薬物が生物を魔獣に変貌させている)


 真実ならとんでもない効能だ。

 このような代物は聞いたことがないし、決して出回ってはいけない。

 流通元を調べなければ。

 そして二度と調合できないようにするのだ。


 私はこの街の密偵を呼び寄せ、共に住民を隔離した結界へ向かった。

 密偵の案内で奴隷商人を数人ほど運び出す。

 いずれの者も、自治区では著名な商人らしい。


 私は奴隷商達を起こすと、魔術を使って尋問を始めた。

 吐かせたのは、主に奴隷売買の経路だ。

 彼らはあっさりと情報を提供してくれた。


 結果、変貌した奴隷の大半が、共和国から提供されたものと判明した

 値崩れした奴隷が大量に発生したとのことで、そのまま仕入れてきたのだという。

 念入りに探りを入れるも、奴隷商達は薬物や魔獣については知らなかった。

 その身分と人脈を利用された形だろう。


 私は奴隷商達を眠らせて、結界内へ転送した。

 密偵も職務に戻らせる。

 今ので必要な情報は手に入った。

 私は思考を巡らせる。


(共和国はやりすぎた。さすがに看過できない)


 魔族を呼び込んでの内乱。

 薬物投与した奴隷の横流し。

 さらに各地での魔獣騒動。


 何をしたいのか分からないが、世界にとって不利益なのは間違いない。

 もしこれが大陸全土で発生した場合、隣人が魔獣になる可能性を疑わねばならない世の中になる。

 平和などほど遠く、私の望む未来ではなかった。

 ただちに破壊しなくてはいけない。


 私は魔王軍のもとへ戻ると、グロムとヘンリーに声をかけた。


「魔王軍は領内に退却だ。奴隷自治区の占領は中断する」


「よろしいのですか?」


 グロムの確認に私は頷く。

 此度の侵略が半ば徒労になるが、こればかりは仕方なかった。


「構わない。今後、何が起こるか不明だ。万全を期するなら、王都で待機するべきだろう」


 奴隷自治区の侵略など、後ほどいくらでも可能だった。

 各街に被害が出ているため、自治区も以前までのように動けないはずだ。

 少なくとも奴隷売買に対して慎重にならざるを得ない。

 暗躍もしばらくは控えると思われる。


 果実の芯を放り捨てながら、ヘンリーが私に問いかける。


「大将も王都に帰るのか?」


「いや、私は共和国に寄るつもりだ。経緯は省くが、あの国には相応の処置を施さねばならない」


 私は毅然とした口調で宣言する。

 いくらなんでも共和国は放置できない。

 現状、最も対処しなければいけない相手だろう。

 滅ぼすか否かはともかく、被害に見合った処罰を与えるつもりである。

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