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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第四章

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第97話 賢者は国の暗躍を察知する

 その後、私とユゥラは各地を巡って魔獣の対応を進めていった。

 対応と言っても、相手は拘束されている。

 不測の事態が起きることもなかった。


 拘束を解いてユゥラの訓練に使ったり、生きたまま王都に転送していく。

 魔獣など意図的に出会える類ではない。

 これを機になるべく有効活用させてもらう。


 そうして回数をこなしていく中で、ユゥラの行動もだんだんと改善されていった。

 初めのように怪我人を投げたり、建造物を壊すこともなくなった。

 彼女は的確な動きで人々を救助をこなし、安全が確保できたところで魔獣を撃破する。

 急所を打ち抜くことで、迅速な殺傷を体現していた。

 繊細な倒し方を意識した結果、戦闘能力も向上している。

 ユゥラにとっていい経験になっただろう。


 そうして最後の一体を倒したユゥラが、満足そうに飛んできた。

 彼女は私の前で直立不動となる。


「マスター、戦闘の終了を報告します。周辺に敵性反応は存在しません」


「よくやった」


 私は彼女を褒めつつ、倒されたばかりの魔獣に歩み寄る。

 魔獣の死骸は、頭部が破砕していた。

 専用機の殴打が直撃して、弾け飛んだのである。

 なかなかに凄惨な姿となっていた。


「ふむ……」


 私は魔術的な観点で死骸を調べる。

 やはり術式は施されていない。

 最も有力な線だと思ったのだが、どうやら見込みは外れたらしい。


 続けてその場で軽く解析を行ってみる。

 すると、妙な反応が引っかかった。


(これは……薬物か?)


 魔獣の肉体について詳しいわけではないが、人間が違法ポーションを飲んだ際の反応に似ている。

 体内を巡る魔力が、変異では説明できない流れをしていた。

 まるで不純物が混入しているかのようだ。

 まだ死んで間もないため、それがはっきりと感じられる。


 生前に戦った魔獣には、そういった違和感がなかった記憶がある。

 もっとも、この場ではすべてを断定できない。

 研究所で本格的に解析する必要があるだろう。


(魔獣の群れは、一体どこから来たのだろう)


 死骸を観察する私は、そもそもの疑問に至る。

 此度の魔獣の発生自体が不自然だった。

 付近には未開拓の地域もあるが、それでもこの数の魔獣が生息していたとは考えにくい。


 私の知らないところで、確実に何かが起こっている。

 これは魔王領への明確な攻撃とも受け取れた。

 必ず原因を明らかにしなければ。

 今回は即座に対処できたので被害を抑えられたが、場所によってはさらなる犠牲者が出ていただろう。

 未曾有の大殺戮が起きたとしてもおかしくない。


 不穏な予感を覚えながらも、私はユゥラと共に王都へ帰還した。

 すぐに三十五体の魔獣を研究所へと提供する。

 魔獣の体内に含まれる薬物について調べてもらわねばならない。


 案の定、所長は大興奮だった。

 気分が昂るあまり、彼女は倒れそうになっていた。

 曰く、魔獣を目にするのが初めての経験だったらしい。

 夢の一つだったのだという。

 想像の数倍を超える勢いで所長は喜んでいた。


 あれならそう待たずとも結果が出るだろう。

 所長に無理をさせるのは心配だが、事態が事態なので頑張ってもらう。

 彼女も、疲労回復のポーションを呷って張り切っていた。

 動機は知的欲求によるものだろうが、こちらからすれば好都合でしかない。


 ちなみにアンデッド化について触れてみたところ、所長は大賛成だった。

 疲労が無くなることより、自らが不死者となることへの好奇心が漲っていた。

 彼女の研究者気質は筋金入りである。

 細かなことは丸投げすると言われたので、こちらで勝手に決めてしまおうと思う。


 まずは種族の選定だろうか。

 それに合わせて準備物の調達もしていかねばならない。

 上位の不死者にもなると、それなりの手順を踏む必要があるのだ。

 自我が失われては元も子もなかった。

 過労死される前に実施する予定である。

 所長が不死者となる日は近い。


 ユゥラと別れて謁見の間に戻ると、そこには事務作業に励むルシアナがいた。

 彼女は報告書から顔を上げ、ひらひらと手を振ってみせる。


「密偵から追加情報よ」


「何だ」


 私はルシアナの正面の椅子に座る。

 彼女の苦々しい表情を見るに、あまり良い報せではないようだ。

 ルシアナは報告書を片手に話し始める。


 報告書によると、旧魔族領の魔族が不審な動きを見せたらしい。

 集落単位で大移動を始めたそうだ。

 別の地域でも魔族らしき集団が姿を見せ、やはり移動を行っているという。


 確定情報ではないものの、おそらくは先代魔王軍の残党とのことだった。

 ルシアナと同様、この十年間をひっそりと生き延びていた者達だろう。

 潜伏していた彼らが、突如として姿を現し始めたのである。


 魔族達の進路を辿ると、そこにあるのは共和国と呼ばれる国だった。

 その国は魔王領の南西部に位置している。

 今は亡き小国を越えた先にあり、魔王に対しては黙認の態度を貫いてきた。

 各地の魔族は、揃ってこの国に集まりつつあるのだという。


 共和国の最大の特徴は、国王や皇帝がいない点だろう。

 民の中から代表を選出して国家を運営している。

 大陸を見渡しても珍しい形態であった。


 もっとも、そのような政治構造はどうでもいい。

 問題は共和国の地理的な部分だ。


 共和国の東部は、旧魔族領と接していた。

 一連の報告によれば、そこに住む魔族とも繋がりがあるらしい。

 旧魔族領に出入りしていたのは共和国の人間であった。

 蓋を開けてみると、実に単純な話だ。

 最も近い場所にある国が、魔族と癒着していたというわけである。


 現在、共和国は何らかの暗躍をしている。

 確実な解決を望むのなら、首都を破壊して国家運営を麻痺させたいところだが、それは適切ではなかった。

 大陸の混乱と争いを助長する恐れがあるためだ。


 帝国の滅亡によって、国家間で領地の奪い合いが繰り広げられた。

 今でも小競り合いが絶えない。

 ここで共和国も滅亡すると、事態は深刻化する。

 利権を求めて各国の争いが加速するだろう。


 魔王という脅威で牽制するにしても限度がある。

 そうなれば、私も強硬手段に頼らざるを得なくなる。

 今までの侵略戦争の経験から考えるに、不用意に国を滅亡させてはいけない。


 第一、共和国の目的が不明だった。

 魔族を結集させて、傘下に加えるだけなら構わない。

 その戦力で私を狙うのも歓迎しよう。

 魔王に憎しみが集中し、討伐に向けて動くこと自体は何ら間違いではなかった。

 私がそのように誘導している。


 ただし、世界に余計な混乱を招き、人間同士の争いを誘発するのなら話は別だ。

 私が全力で叩き潰さなくてはならない。

 人類に不利益を与える巨悪は、私だけで事足りている。

 それ以上の不要な害悪は、徹底的に排除する。


 様々な観点から考えた末、私は共和国について様子見することにした。

 密偵から常に最新の情報提供を受けつつ、その動向を窺っていく。

 人間と魔族が手を組むなど、滅多に発生する状況ではない。

 それがどのような顛末を歩むのか気になった。


 願わくば、人間と魔族の不仲が解消される様を見たい。

 生前の私が成せず、今も難航している部分だ。

 たとえ利害の一致だけが理由だとしても、そういった平和もあるのだと思いたかった。

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