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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第四章

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第90話 賢者は旧魔族領を訪れる

 城での会議の後、私は旧魔族領へと赴いた。

 人間と接触したという魔族に会いに来たのである。

 内容が内容だけに見逃すわけにはいかない。


 今回は同行者としてルシアナとドルダを選んだ。

 ルシアナはともかく、ドルダを選んだのには理由がある。


 ヘンリーの教育の甲斐もあり、最近の彼は行動を律することができ始めていた。

 配下の魔物達からも、暴走することが少なくなったと聞いている。

 なぜか酒場にも頻繁に入り浸っているそうだ。


 なので今回は、ヘンリーがいなくとも大人しくできるのかを試すのが目的だった。

 危うければすぐに王都へ転送するだけなので問題ない。


 個人的には、ドルダにはしっかりと自我を確立させてほしかった。

 デュラハンはアンデッドの中でも中位から上位の種族である。

 はっきりとした理性も獲得できるはずなのだ。


 現状、意識が曖昧なのは首を狩りたいという衝動のせいだろう。

 それを抑制できれば、ドルダはさらに強大な存在になる。

 生前は魔族すら恐れる大海賊だった男だ。

 当時の人格を取り戻した彼は、さぞ頼れる者になるはずである。


 転移先は荒野だった。

 月明かりに照らされる黒い大地が広がっている。

 涼しげな気候で、大気には魔力と瘴気が多く含まれていた。


 明らかにこの土地特有のものだ。

 人間の国ではまずありえない環境である。

 魔族にとっては最適だろう。

 不死者になった私も、心地よく感じられる。


「わっ、この空気も久々ねぇ……全然変わってないわ」


 ルシアナは少し嬉しそうに深呼吸をする。

 かつて魔王軍の支配地だった場所だ。

 彼女もここで暮らしていた時期があるのだろう。

 故郷に帰ってきたような感覚なのかもしれない。


「魔王サマにとっても懐かしいんじゃない?」


「……確かにな」


 私は少々の間を置いて頷く。


 人間だった頃、私はあの人と共にこの旧魔族領に乗り込んだ。

 無論、魔王討伐が目的だ。

 あの時は魔術で瘴気を誤魔化しながら、何度も死闘を繰り広げた。

 その末、苦難を乗り越えて闇の時代を終わらせたのである。


「首……儂ハ、首ヲ、狩ルゾォ……」


 ドルダは斧を片手に付近を徘徊する。

 禍々しい声で物騒な言葉を連呼していた。

 ちなみに今日も老狼の頭部だ。


 ヘンリー曰く、気に入っているらしい。

 一度、別の頭部に換えたら激怒したそうで、それ以来このままなのだという。


 ルシアナは腰に手を当てて苦笑する。


「ドルダも調子が良いみたいね。喜んでいるわ」


「そうなのか」


 私にはドルダの機嫌がよく分からなかった。

 だが、ルシアナが言うのだから、あながち間違っていないと思う。


 ほどなくして、黒装束のサキュバスが私達の前に現れた。

 この地に派遣された密偵だ。

 此度の報告をした本人だろう。


 私達の前に跪く密偵に、ルシアナは慣れた調子で尋ねる。


「人間と接触した魔族はどこ?」


「こちらです。案内致します」


 密偵は素早く立ち上がって移動を開始する。

 私達もそれに続いた。


「……ふむ」


 感知魔術により、複数の気配を捕捉する。

 移動先にはおよそ百程度の魔族がいた。

 遠くに廃墟が見えてくる。


「あそこか」


「本当に細々と暮らしているのね。人間の軍が攻めて来たら、あっという間に負けちゃうのに」


「他に居場所がないのだろう」


 私がそう言うと、ルシアナは鼻で笑った。

 彼女は冷たい口調で述べる。


「ないなら作ればいいだけよ。アタシみたいにね」


 ルシアナの言葉には説得力があった。

 十年もの間、彼女は配下と共に生き延びてきた。

 魔王のいない時代は、魔族にとって苦境そのものだったろう。


 そんな彼女の目には、ここで暮らす者達は脆弱に見えるに違いない。

 救いも無く、ただ滅びを待つだけの存在である。

 見方によっては愚かと評することもできる。


 私は密偵に問いかける。


「件の魔族はどこだ」


「あそこにいる者達です」


 密偵が指を差す。

 廃墟の入口に、こちらを見ながら何かを話し合っている魔族がいた。

 魔力量からして中位だろう。

 それなりの強さを持っている。

 この廃墟の魔族を取り仕切っているに違いない。


「ご苦労。ここから先は私達だけでいい。監視に戻ってくれ」


「承知」


 密偵はすぐさま隠蔽の魔術を使って離脱した。

 これより先は戦闘が起きる恐れがある。

 貴重な人材を危険に晒すわけにはいかない。


 私達が廃墟の目の前の到着する頃には、大勢の魔族達が集まっていた。

 彼らは手製らしき武器をこちらに向けて威嚇してくる。

 その中の一人が大声で誰何してきた。


「何者だ貴様らはッ!?」


「魔王だ。痛い目に遭いたくなければ道を開けろ」


 私は毅然と言い放つ。

 それを受けた魔族達はどよめく。

 間もなく怒りで沸き立った。


「魔王だと……? 不死者如きがつまらぬ嘘をッ!」


 激昂した一人が、槍を持って突進してきた。

 私は慌てず魔術を行使する。


 地面から飛び出した茨が、その魔族を拘束した。

 全身に絡み付いて締め上げる。


「う、ぐぇぁっ……!?」


 拘束された魔族は、血を吐きながら絶叫した。

 身体が変色して血肉が蒸発していく。

 やがてスケルトンへと変貌し、茨によって粉々に砕け散った。


 一連の光景を目撃した他の魔族達が驚嘆する。

 彼らは動揺して恐怖を湛えていた。


 私は彼らに改めて告げる。


「もう一度言う。痛い目に遭いたくなければ、道を開けろ」


 魔族達はまだ躊躇っている。

 アンデッドにはなりたくないが、こちらの要求に応じたくないのだろう。

 どう動くべきか葛藤していた。


 そんな魔族達を見たルシアナは、呆れたようにため息を洩らす。


「世間から離れすぎて情報に疎いみたいね。魔王サマのことを知らないみたいよ」


「き、貴様はルシアナ!?」


 驚きの声が上がった。

 それを発したのは、密偵から教えられた中位の魔族だ。

 他の者達の後ろに隠れている。


 ルシアナは冷めた表情で対応する。


「あら。今更気付いたの。それよりルシアナ様、でしょう? 敬称を付けなきゃ駄目よ」


「人間に怯えて逃げた軟弱者を敬うつもりなどない! 四天王も過去の話だ!」


 魔族は強気で反論した。

 そこにはルシアナへの憎悪が窺えた。

 ルシアナは再びため息を吐く。


「ですって。薄情よね。誰が面倒を見てたと思ってるのかしら」


「そういうものだ。恩など簡単に忘れ去られる。残るのは不満や恨みだけだ」


 私は淡々と述べる。

 するとルシアナは、思わずといった調子で笑った。


「あは、魔王サマが言うと説得力があるわぁ」


 その時、ドルダが前に進み出た。

 彼は斧を片手に魔族達を見回す。


「首ダ……首ヲ寄越セェ……」


「くれぐれも全滅させるな。大切な情報源だ」


 すかさず私はドルダに警告した。


 彼ならば、この数の魔族が相手でも容易く打ち勝てる。

 それはいいのだが、衝動に任せて皆殺しにされると困る。


 とは言え、私の指示が伝わるかは微妙だった。

 普段から会話が成り立たない男だ。

 最悪、強制的に王都へ転送するしかない。


 そのように考えていると、不意にドルダがこちらを振り向いた。


「――分かっておる。儂に任せとけい」


 それはいつもとは明らかに違う声音だった。

 ルシアナが意外そうに呟く。


「あ、戻った?」


「斬ルゾ……首ヲ、叩キ斬ルノダァ……ッ!」


 しかし、ドルダはすぐに元の状態になる。

 咆哮を上げた彼は、斧を掲げて魔族達に襲いかかった。

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