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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第三章

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第77話 賢者は最終兵器と対峙する

 地面から生える金属腕は、土に塗れていた。

 指がぎこちなく開閉される。

 まるで何かを試すような動きだ。


 やがて肘が曲がると、手のひらを地面についた。

 少し離れたところでまたもや地面が爆発する。

 現れたのはもう一方の腕だ。

 こちらも試すような挙動を経て地面に手をつく。


 両腕に力が込められ、ひび割れた地面が陥没していった。

 それに伴い、間の地点から半球状の金属が飛び出す。

 城一つを丸ごと覆えそうな大きさの半球だ。


 半球の中央付近には横長の隙間が設けられており、そこから二つの青い光が覗いていた。

 なんとなく視線を感じる。

 どうやら青い光は、目に相当する役割を持つようだ。

 すなわち半球は頭部なのだろう。


(まさか、あれは……)


 私が愕然としていると、地面についた両腕が伸ばされた。

 地中から引きずり出されたのは、鋼鉄の身体だ。

 形状はほぼ寸胴で、胸部周りが分厚く造られている程度である。


 胴体のあちこちには、蓋のような部分が散見された。

 いずれも今は閉じているが、おそらくは展開する仕組みなのだろう。

 魔力の流れからして、動力系統の胴体部に集約されているようだ。


 それに続き、左右の脚がゆっくりと地面から引き抜かれた。

 足は瓦礫と化した建物を踏み砕いていく。

 巻き上がる砂塵と共に、両脚にへばり付いた土砂が大量に落下した。


 安定性を求めたのか、両脚はかなり太い。

 胴体をしっかりと支えていた。

 時折、各所から白い蒸気を噴出させている。


 重厚な動きで立ち上がったのは、途方もなく巨大なゴーレムであった。

 全長はどれほどになるのか。

 空中に立つ状態でも、首を痛いほど上に向かなければ頭部が見えない。

 ゴーレムの視点からすれば、私達は羽虫も同然だろう。


(この巨人ゴーレムこそ、魔巧国の最終兵器に違いない)


 私はさらに観察し、動力部となる胴体に注目する。

 濃密な大精霊の力が感じられた。

 あそこに秘石が内蔵されているようだ。

 秘石を動力源としているのだろう。

 もはや感知を使わずとも分かる。

 ゴーレムを起動したことで、隠蔽の術が解除されたのだと思われる。


 私はゴーレムに施された無数の術式を解析した。

 精査したわけではないが、構造的に重大な欠陥が多数内在している。

 なぜ平然と動けているのか不明だった。


 加えて燃費が悪すぎる。

 確かにこれは大精霊の秘石でなければ成立しない。

 他の魔術触媒では、片手すら満足に動かせないはずだ。


 欠陥同士が噛み合うことで、ゴーレムは偶発的に最高の状態を構築していた。

 秘石のもたらす力が数十倍に増幅され、稼働を実現している。


(信じられないな。馬鹿げている)


 私は立ちくらみを覚えそうだった。

 こんなことが果たしてありえるのか。

 目の前に存在している以上、否定することは叶わないが、それにしても素直に受け入れられない。

 まさに奇蹟の集合体であった。


 この瞬間、私は理解した。

 巨人ゴーレムの完成には、世界の意思が関わっている。

 大まかな案や設計はジョンの知識だろう。

 しかし、それらだけでは実現不可能である。


 どうしようもない部分を、世界の意思が補っているのだ。

 これまでの英雄覚醒と同様だった。

 魔王という悪を滅ぼす場合にのみ適用される法則だ。


 とは言え、現実逃避をしている暇はない。

 私はこの殺戮兵器の相手をしなければならないのだから。


『どうだ! さすがに驚いたんじゃないか? これがあんたを殺す巨大ロボットさ』


 ジョンの勝ち誇る大音声が反響した。

 彼の気配は、秘石のそばにある。

 遠隔操作ではなく、ゴーレムの内部に潜んでいるようだ。


 ジョンの周りに張り巡らされた術式から察するに、精神魔術による疑似的な憑依だろう。

 彼はゴーレムを自らの身体のように動かしているのだ。

 通常の操作法よりも精密性が高い。


 設計的な難度が欠点だが、これに関しては議論するまでもない。

 世界の意思がどうにかしたのだろう。

 細かな部分を指摘したところで意味はない。


 それに対して憤りを覚えることもなかった。

 こうして不利を強いられるのは、もう既に慣れているからだ。

 あらゆる妨害を承知で私も立ち回っている。


 加えてもう一点、私が冷静でいられる根拠がある。

 それは、世界の意思も絶対的ではないということだ。


 勇者も聖女も、今代の魔王に敗北した。

 運命に叛逆できることは、今までの私が証明している。

 だから、今回も勝利すればいいだけだった。


『かかってこないのか? それならオレから仕掛けてやるよ』


 ジョンが鼻で笑い、ゴーレムが前進を開始した。

 一歩ごとに首都が破壊されていく。

 蒸気を噴き上げる金属巨人は、気にせずに足を動かした。


(無茶苦茶だな)


 崩れゆく街並みを一瞥し、私は飛び退いて距離を取る。

 その際、魔術でローガンも引き寄せる。

 まるで無限に続く壁が迫ってくるようだった。

 ゴーレムとの距離を確かめつつ、私はローガンに告げる。


「ここは危険だ。離れていてくれ」


 そう言って返答を待たずにローガンを転移させる。

 行き先は魔王軍だ。

 さすがに彼を守りながら戦える自信はない。

 相手があまりにも規格外だった。


 次に私はグロムに念話を送る。


「聞こえるか」


『はい、魔王様! しっかりと聞こえておりますぞっ!』


 グロムの張り切る声がした。

 顔を見ずとも背筋を伸ばしているのが伝わってくる。

 私は必要最低限のことを彼に告げる。


「ジョン・ドゥと秘石を発見したが、彼の操縦するゴーレムと戦うことになった」


『とてつもない魔力の巨体が現れたかと思ったら、そういうことでしたか……魔王様はご無事なのですか?』


「私は大丈夫だ。お前は魔王軍を首都中心部から遠ざけてくれ。配下の安全を優先しろ」


『はっ、承知しました! ご武運を!』


 グロムが了承したところで念話を終了し、ルシアナとヘンリーにも同様の連絡を行う。

 これで魔王軍に関しては、ひとまず安心だろう。


『お喋りは終わったかい? そろそろ集中した方がいいぜ』


 ジョンの忠告の声が届く。

 するとゴーレムの両肩が展開し、何かがせり上がってくる。

 出てきたのは魔導砲だ。

 左右の肩に数十本の砲身が並んでいる。


『食らいやがれ』


 ゴーレムの魔導砲が一斉に火を噴いた。

 唸りを上げる砲弾が、私のもとへ殺到する。

 私は短距離転移で回避し、反撃の魔術を使った。


 上空からの落雷が、ゴーレムの頭部に炸裂する。

 眩い光が迸り、轟音が空気を叩く。

 軍隊を数発で壊滅させるほどの威力が込められていた。


 しかしゴーレムは無傷だった。

 頭部の表面に防御魔術が張られている。

 それで落雷を阻んだようだ。

 秘石による圧倒的な出力が、私の魔術を凌ぐほどの守りを発揮したらしい。


『……ん? 何かしたか?』


 ジョンがわざとらしく言う。

 彼の操るゴーレムは、頭部を掻くような動作をした。

 金属同士の擦れる嫌な音が鳴る。


 空中で静止する私は、その様子を見やる。

 挑発にも乗らず、ひたすら解析に意識を割いた。


(なるほど……)


 ジョンは随分と調子付いているが、その力は本物であった。

 ただでさえ強力な秘石の効果を、何十倍にも跳ね上げている。

 純粋な力では私をも凌駕しているだろう。

 人類の技術が到達するはずのない領域である。

 巨人ゴーレムは例外中の例外で、不条理そのものだった。


(だが、そんなことは関係ない)


 私は不死の魔王だ。

 人類に宣戦布告をした悪の頂点である。

 このようなところで躓くわけにはいかなかった。


 相手は大きいだけで、根本的にはただのゴーレムだ。

 倒し方など無数にある。

 せっかく求めるものが揃ったのだから、全力を以て対処させてもらおう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最重要案件の世界の守護を蔑ろにして魔王倒すタスクを重要視する世界の意思とはw もうこれ守護者より制限の緩い魔王絶対殺すマンが人類に加担して引っ掻き回してるだけだろ じゃなきゃ世界の意思…
[気になる点] 大精霊が魔王を無害と認めているのに、世界が魔王を亡ぼす訳が無い。それに本来、勇者は修練を経てギフトを研ぎ澄ませるもの。今の立場では魔王の方が勇者に近く、覚醒者達は技術と言うドロップアイ…
[気になる点] 世界の意思が星の守護者を怒らせて、下手すりゃ人類滅亡か…w
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