表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/288

第76話 賢者はもう一人の発明家と対話する

「お前は本当にジョン・ドゥなのか。先ほどまでと別人に思えるが」


 私は思わず尋ねる。

 それほどまでの豹変ぶりだった。

 とても信じられなかった。


 しかし、まったく理解できないかと言えば、そういうわけでもない。

 口調があまりにも異なるが、先ほどまでと声は同じなのだ。

 最初の気弱な態度は演技だったのかと疑うも、そのようなことをする意味が分からない。


 怪訝に思う私をよそに、ジョン・ドゥは魔道具越しに話す。


『いちいちフルネームで呼ばれるのも面倒だ。気軽にジョンと呼んでくれよ』


「では、ジョン。お前は何者だ」


『ずばり二重人格者って奴さ。知ってるかい?』


「ああ、知っている」


 私は頷きながら納得する。


 二重人格とは、一つの身体に二つの人格が宿っていることだ。

 実際に会ったことはないが、そういった珍しい人間がいるという話を聞いたことがあった。

 誰かの虚言かと考えていたこともあったが、こうして会話をすると信じざるを得ない。

 本当に別人そのものなのだ。

 巧妙な演技で私を騙そうとしていると考えるより、よほど合点がいく。


『主人格は、さっきまで喋ってた弱虫君だ。今は眠っているがね。昔からそうなんだ。あいつは追い詰められると人格が入れ替わる』


「入れ替わった間、表層化するのがお前か」


『ご名答。あいつはオレのことを曖昧にしか認識していない。さすがに存在は把握しているようだが、今まで誰にも打ち明けていないんだ。情けないよなァ。心が塞ぎ込んでるのさ』


 ジョンは愉快そうに嘆いた。

 まるで他人事のような口ぶりである。

 いや、彼にとっては実際に他人だろう。

 ただ同じ肉体を共有しているだけなのだ。


『こいつは親に捨てられた孤児でね。俺はその頃から見守っている。たまに手を貸してやったりもしたな。懐かしいよ』


 ジョンはしみじみと言う。

 遠い目をして話しているような口調であった。

 他人とは言え、ある程度は親しみを覚えているのだろうか。

 少なくとも邪険にしている感じではない。

 性格はまるで異なるも、嫌っているわけではないようだ。

 こうして断片的に聞いた印象としては、友人や幼馴染に近いかもしれない。


『ジョン・ドゥも実はオレの名前で"身元不明の死体"って意味があるんだ。どうだい、洒落ているだろう』


「つまり主人格にも別に名前があるのか」


『イエス。まあ、滅多に使うことはないがね。軍属の技術者になる時、肉体の主導権をオレが握っていてな。咄嗟にジョン・ドゥと名乗っちまった。それ以降、こいつも揃ってジョン・ドゥだ』


 ジョンは苦笑しながら思い出話を語る。

 その話を信じるのなら、どうやらジョン・ドゥは偽名のようなものらしい。

 便宜上、別人格が名乗ったものに過ぎず、それが彼個人の名として浸透してしまったようだ。

 主人格が訂正することもできず、今に至るのだろう。


 そこで私は、ふと一つの可能性を思い付いた。

 気になったのでジョンに質問する。


「まさか、お前が兵器開発の知識を提供しているのか?」


『おお、よく分かったなァ。こいつが主導権を握っている時、閃きという形で囁いてやったんだ。あとはさりげなくアイデアのメモを書き残したりな』


 ジョンは得意げに語った。

 経緯は不明だが、彼は様々な知識を持ち合わせているらしい。

 二重人格者の特性なのだろうか。

 私もあまり詳しくないので分からない。


『ただ、一年前までは最悪だった。せっかくのアイデアも失敗しまくりで持ち腐れでな。技術や知識が不足しているせいで、とにかく何もかもが上手くいかなかった』


「最近は絶好調のようだがな」


『そうなんだよ! あんたという魔王が登場した頃から上り調子さ。やり方を変えたわけでもないのに、急に研究開発が成功するようになった。きっと神の導きか何かだろう』


 神の導き。

 その言葉を聞いて、私は胸中に引っかかりを覚える。


 やはり何らかの力が働いているのか。

 事前情報の通り、私が魔王になった時期にジョンも出世し始めている。

 しかも彼自身が直接的な要因を知らない。


 どうにも不可解な現象だ。

 形こそ違えど、勇者や聖女の覚醒と符合する部分があった。

 やはり世界の意思が絡んでいるのだろうか。


『あんたを殺すための兵器はどんどん開発が進む。正直、メカニズムが不明な部分もあるが、成り立っているから放置している。どうやら運命は魔王を滅ぼしたいらしい』


「…………」


『どうした? ショックで言葉が出ないのかい。気持ちは分かるよ』


 ジョンは優しげな声音で話しかけてくる。

 本気で気遣っているというより、私に対する憐憫と皮肉であった。


 私はこれまでの戦いを振り返りながら言葉を返す。


「運命に嫌われている、か。今に始まったことではない。もう慣れている」


『ハハッ、さすがは天下の魔王様だ。覚悟は決めているらしい。まあ、雑談はここまでにしよう。単刀直入に言うが、あんたはもうすぐ死ぬ。オレが殺してやるからだ』


 ジョンは自信に満ちた様子で断言する。

 彼は自らの勝利を微塵も疑っていなかった。

 主人格とは正反対である。


「大した自信だな」


『自信に見合った備えがあるからな。こいつは対話で解決しようと考えていたが、そんな甘ったれた展開は無理だろ?』


「当然だ。我々は秘石を奪還しなければならない」


 何を言われようとそこを曲げるつもりはなかった。

 大精霊が暴れると、私の計画に支障を来たす。

 どうにかして止めねばならない。


『さっきの話を聞いてたが、本当に大精霊に返すつもりなのか?』


「そうだ」


『マジかよ! あんた、見た目の割にとんだお人好しだなっ! 笑っちまうぜ』


 そう言ってジョンは大笑いする。

 こちらを小馬鹿にしているが、別に腹を立てたりはしない。

 ジョンの主張は正しく、魔王がこんな真似をしているのがおかしいのだから。

 ともすれば滑稽に感じるだろう。


 笑い終えたジョンは、深く息を吐いた。


『……まあ、あんたの目的なんて関係ない。オレは世界一の発明家として魔王を殺すだけさ。金や地位や名誉なんざ興味はないが、歴史に名を残すのも一興って奴かね。二回目の人生としては上出来だろうさ』


 そう言って彼は黙る。

 少々の間を置いてから、ジョンは私に告げた。


『刮目しろよ。これがオレ達の最高傑作だ』


 その言葉を最後に、魔道具は機能を停止する。

 不穏な言葉を残して、一切の声が聞こえなくなった。

 同時に感知を終えたローガンが、緊張した面持ちで私を見る。


「ドワイト」


「秘石と彼はどこだ?」


 私は手短に尋ねる。

 ローガンは息を呑むと、静かに答えた。


「――地下だ」


 その直後、突如として地響きが発生した。

 私は足元深くに魔力反応を感知する。

 それもゴーレム等の比ではなく、常軌を逸した質量を内包していた。

 明らかに大精霊の因子を含んでいる。


 揺れが大きくなり、まともに立っていられないほどになる。

 私はローガンの手を引いて空中へと退避した。

 すぐに地面に深い亀裂が走り、眼下の建物が次々と倒壊していく。

 私達が入ろうとしていた高層建造物も、ゆっくりと傾き始めていた。

 割れた石畳が陥没して、断層が上下にずれていった。


(一体何が……)


 私は周囲に防御魔術を張り、どのような攻撃にも耐えられるように備えた。

 状況は依然として不明だ。

 下手に動くべきではなかった。


 ほどなくして地面一帯が爆発する。

 舞い上がる瓦礫。

 崩壊した建造物が宙を舞った。

 付近が一瞬にして都市の形を失っていく。


 瓦礫の雨が降る中、私は地面を突き破る物体を発見した。

 一見すると塔のようなそれは、五本指を持つ金属製の巨大な腕だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ジョンは転生者なのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ