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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第三章

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第74話 賢者は声を聞く

 その前に、まずは建物前の魔巧軍を一掃しなければならない。

 放置して今後の邪魔をされても困る。

 憂いを断つという意味でも、彼らは始末した方がいい。

 時間をかけることもないので、一気に叩き潰そうと思う。


 私は魔術を行使し始めた。

 そこに瘴気を混ぜ込み、確実に仕留められるようにする。


 魔巧軍の頭上に漆黒の球体が生成された。

 それが渦巻きながら密度を高めていく。

 ゴーレムや戦車等は比べようもないほどの力が圧縮されていた。

 常人なら近付くだけで肉体が朽ち果て、アンデッドになってしまうだろう。


 すぐさま魔巧軍が異変に気付いた。

 一番先に動いたのはゴーレムだ。

 指の鉄砲によって球体を破壊しようとする。


 放たれた弾は球体に命中するも、内部へ取り込まれて消える。

 表面に波紋を打つばかりで大した影響はない。

 まるで湖に小石を落としたようなものであった。


 距離の関係で砲撃できないため、戦車は一斉に移動を開始する。

 ただし、互いにぶつかりながら右往左往している有様なので、砲撃自体は間に合いそうにない。

 奇妙な鎧を着た兵士は、血相を変えて退避していた。


 ゴーレムだけがその場を動かずに攻撃を続けている。

 唯一、操縦者がいないからだ。

 たとえ破壊されても術者の死に直結しないと考えている。


(甘い考えだがな……)


 呑気に鉄砲を使うゴーレムを眺めつつ、私は魔術を発動させる。


 球体が破裂し、黒い濁流となって地面に溢れ返った。

 大質量の瘴気を前に、ゴーレム達は為す術もなく呑み込まれる。

 浸水して白煙を立てながら見えなくなった。


 戦車も同様に濁流に押し流されていく。

 その光景に焦ったのか、複数の砲が作動した。

 放たれた光線が付近の建物を穿ち、不運な兵士が直撃を浴びて消し飛ぶ。

 横転する戦車は、瘴気に塗れて融解しつつあった。


 一方、兵士達は跳躍する。

 存外に軽やかな動きで屋根に着地して濁流を逃れた。

 誰もが顔面蒼白で、眼下を蹂躙する濁流を見つめている。


「……ふむ」


 私はその姿を注視する。

 身体強化だけでは説明できない身のこなしだった。

 どうやらあの奇妙な鎧に仕掛けがあるらしい。


 兵士の纏う鎧は、奇妙な形状をしていた。

 一般的な物より大柄で、背中に箱が付いている。

 鎧の内側と箱を魔力が循環していた。

 それなりの出力で、通常の魔術師で換算すると二人分ほどだ。

 個人で発揮できる量と考えれば相当だろう。


 その魔力を使って、鎧は装着者の身体能力を向上させているようだ。

 だから身軽な動きができるのである。

 どうやらあの鎧も兵器の一種らしかった。


 背中の箱には燃料となる魔力が充填されている。

 鎧を制御するための術式も仕込まれていた。

 術式を系統から見るに、ゴーレムの亜種だろうか。

 鎧の各所に小型のゴーレムを装着し、兵士達の動きを補助しているのだ。


(面白い。今までに手に入れた資料には無かった。独自の新兵器か?)


 従来の鎧とは完全に別物だ。

 戦車やゴーレムと比較した場合、圧倒的に俊敏である。

 兵士が直接装着しているため、近接戦闘の練度も高い。

 他の兵器よりも様々な状況に対応が可能だろう。

 総合力や汎用性に優れている。


「凄まじい発明だ。ジョン・ドゥは本当に天才らしい」


「褒めている場合か。来るぞ」


 素直に感心していると、ローガンから警告の声が上がる。


 黒い濁流を回避した兵士達が、屋根伝いにこちらへと接近していた。

 さすがに私達の存在に気付いたようである。


 彼らの構える鉄砲は、先端に魔力の刃を備えていた。

 しっかりと聖属性が付与されている。

 遠近の攻撃を両立させた武器だ。


(なかなかの装備だが、やはり見込みが甘い)


 そう判断した私は禁呪を行使し、地面を浸す濁流を操作する。

 濁流を丸ごと持ち上げると、それを上空で爆発させた。

 飛び散った瘴気が雨となって降り注ぐ。


「うっ、何だっ!?」


「あああああっ! 目がああああぁぁッ!?」


「ひ、ひいいいぃっ? 嫌、嫌だ! 誰かっ!」


 それを浴びた兵士達は失速する。

 彼らは屋根の上で転げ回り、悶絶しながらグールへと変貌していった。


 瘴気の豪雨はすぐに降り終わるも、接近を試みた兵士は全滅していた。

 誰も彼もが等しくグールと化している。

 私が魔術で保護したローガンだけが無事だった。

 降り注いだ瘴気は蒸発して消滅する。


 兵士達は俊敏だが脆かった。

 機動力に特化しすぎたせいで、魔術に対する防御策が皆無だったのだ。

 あれでは意味がない。

 私のように無詠唱で魔術を使える者が相手だと、格好の的にしかならなかった。


 近くの建物から呻き声がした。

 窓から滑り落ちたのは、ローブを着たアンデッドだ。

 それが十人ほど続けて登場する。

 彼らは緩慢な歩みでどこかへと去っていった。


 今のアンデッド達は、ゴーレムを操っていた術者である。

 室内にいた彼らは、もちろん瘴気の雨を浴びていない。

 なぜあのように変貌したかと言うと、最初の濁流にゴーレムが巻き込まれたことが原因だった。


 ゴーレムを遠隔操作できるということは、すなわち魔力的な繋がりがあることを意味する。

 それを辿ることで、本来は不可能な術者への攻撃が可能なのだ。


 私は濁流に呑まれたゴーレムに干渉し、操作術式の主導権を奪い取った。

 そして瘴気を逆流させて術者に変調をもたらしたのである。

 身の安全を確信していた彼らにとっては、まさに予想外の出来事だったろう。


 瘴気については、日常的に鍛練を繰り返し、自在に操れるようにしていた。

 そうすることで術に多様性が出るのだ。

 生前では実現不可能だった術がいくらでも使えるようになった今、それを活かさない手はない。


 ローガンは辺りの惨状を目の当たりにしてため息を吐く。


「これから瘴気の術を使う時は言ってくれ。心臓に悪い」


「……善処する」


 私は少々の間を置いて答えた。

 戦闘の中、そういった気遣いができない時があるので、残念ながら確約はできない。


 もっとも、ローガンも本気で苦情を言っているわけではなかった。

 彼は私が保護する前から術を展開させて、身を守ろうとしていたのである。

 付き合いもそれなりに長いため、私が次に何をするつもりなのかを察していた。


 私達は屋根から下りると、件の巨大な建物の前に赴く。

 中から魔巧軍が現れる様子はない。

 感知魔術によれば、それなりの人数がいるようだった。

 迎撃に向かったところで意味がないと悟ったのか、不自然なまでに静まり返っている。


 私は建物の入口に注目する。

 魔術で封鎖されているが、罠の気配はない。

 片手間に破壊できるだろう。


 秘石だけを盗むなら豪快な手段も使えるが、それだとジョン・ドゥとの対話が叶わない。

 秘石が破損する危険性も考えられる。

 建物内の気配から彼を特定し、安全かつ穏便に事を進める必要があった。


 そう思って扉に手を掛けようとした時、奇妙な雑音が鳴った。

 私は手を止めて音の出所を探る。

 扉の横に魔道具が設置されていた。

 雑音はそこから発せられているらしい。


 鳴り続ける雑音は、だんだんと明瞭なものになっていく。

 最終的にそれが声であることに気付いた。


『……ま、すか。聞こえますか……』


 緊張を孕んだ男の声がした。

 硬い口調で、こちらを窺うような声音である。

 ローガンと顔を見合わせつつ、私はそれに応じた。


「聞こえている。何者だ」


『僕の名前は……ジョン・ドゥ、です』


 声の主は、若干の躊躇いを滲ませながらも答えた。

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