表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/288

第72話 賢者は新兵器を蹂躙する

(いきなり登場か……)


 私は迫るゴーレム部隊を観察する。

 重い足音を立てるゴーレム達は、列を成して進んでくる。

 人間の兵士は随伴していない。

 視界共有の機能を用いて、術者は安全な場所から操っているのだろう。


 これは予測できていた戦法だ。

 視覚共有はそのためにあると言っても過言ではない。

 生身の兵士が前線に出るより遥かに良い。

 破壊されたとしてもそれはゴーレムに過ぎず、術者は少し消耗するだけだ。

 貴重な人材が無為に散ることを防げる。


 ゴーレム部隊は両手を水平に上げて、指先をこちらに向けていた。

 魔王軍が射程に入った時点で、鉄砲を撃つつもりなのだろう。


 グロムは忌々しそうにゴーレム部隊を睨みつける。


「おのれ、小癪な真似を……魔王様、どうされますか」


「構うな。このまま進む」


 私は毅然とした口調で返す。

 ゴーレム達が何をしようと関係ない。

 ただ突き進むのみだ。

 進まなければ魔巧国を侵略できない。


 黙々と前進する一方、配下達は詠唱を始める。

 不必要な攻撃は行わず、彼らは魔術行使の命令を待ち続けた。

 誰かの息遣いすら聞こえるほどに張り詰めた空気の中、魔王軍は無機質な兵器へと向かっていく。

 ゴーレムの鉄砲が作動するその寸前、ヘンリーによる号令が発せられた。


「――放てェッ!」


 次の瞬間、配下達が一斉に魔術を発動する。

 極彩色の術が混ざり合って空を飛び、怒濤の勢いでゴーレム部隊に襲いかかる。


 ゴーレム部隊は防御魔術を展開させた。

 甲高い音を立てて魔術が衝突し、その大半が防がれる。

 事前に多量の魔力を充填することで、防御の質を引き上げているようだ。


 一部の魔術は防御を突破してゴーレムに命中していた。

 破損したゴーレムは、途端に動きが悪くなる。

 そこをヘンリーが狙撃し、中枢部分を射抜いて停止させた。


 ヘンリーには事前にゴーレムの設計図を見せており、内部構造を知っている。

だから弱点だけを的確に狙うことができるのだ。

 彼の放つ矢の前では、防御魔術も鋼鉄の装甲も意味を為さない。


 魔王軍とゴーレムの攻防は、全体的に魔王軍が優勢だった。

 駄目押しとばかりにグロムが魔術を連発し、何重にも張られた防御を粉砕しながらゴーレムを破壊していく。


(できれば損傷が少なめだと、鹵獲した際の旨みが増えるのだが……)


 私は密かに思うも、グロムは有頂天だった。

 水を差すのも野暮だろう。

 首都内を探れば、正式な設計図や無傷のゴーレムも見つかるはずだ。

 ここはグロムに張り切ってもらうのが一番に違いない。


 そうして攻撃を繰り返すこと暫し。

 間断なき蹂躙により、ゴーレム部隊は殲滅された。

 魔王軍はその残骸を踏み越え、正門跡へと赴く。


 ドルダはどこかへ行ってしまったのか、一向に戻ってくる気配がない。

 外壁伝いに生者を求めて奔走する姿を見たきりである。

 遠くから炸裂音と怒声が聞こえてくる。

 元気に戦っているのなら問題ない。


 間も無く私達は首都へ浸入を果たした。

 外壁の先には、無個性な建物群が並んでいる。

 白塗りの四角い二階建てばかりだ。

 場合によっては四階や五階、それ以上の建造物も散見される。


 いずれも同じような建築で、見事に外観が揃えられていた。

 無個性だが機能的な印象を受ける。

 これを命じた者はよほど几帳面な性格か、徹底した合理主義者なのだろう。


 こちらを見た人々が必死に逃げ惑っている。

 彼らは一方向へと走っていた。

 おそらくは経路が決められており、それに従って避難しているのだろう。


 感知魔術によると、人々は数カ所に固まっている。

 いずれも防御魔術と結界で保護された区画であった。

 住民を匿うための避難場所のようだ。


 私は引き連れるアンデッドを操作して街中へと散開させる。

 彼らには手分けしていくつかの避難場所を襲撃してもらう。

 魔巧軍は防衛に向かわざるを得ず、必然的にこちらへの攻撃が手薄になる。


 余談だが、住民を残らずアンデッドにするつもりはない。

 ほどほどの犠牲でいいのだ。

 それに伴う混乱を利用するだけである。

 目的をこなすまでの時間が稼げれば十分だった。


「撃てェッ!」


 近くの建物の窓から兵士が顔を出し、四方八方から鉄砲の射撃を浴びせてくる。

 私はそれを防ぎながら、瘴気を漂わせて兵士をアンデッド化させた。


(一般の兵士にも鉄砲が行き渡っているのか。随分と進歩している)


 グールとなった彼らを眺めていると、背後から肩を叩かれた。

 ルシアナだ。

 彼女は街中を大きく指し示す。


「ここからは別行動させてもらいたいけど、いい?」


「ああ、任せた」


「はーい。頑張ってくるわぁ」


 嬉々として頷いたルシアナは、数名の部下を連れて路地へと消えた。

 これから破壊工作に勤しむのだろう。

 妨害行為は彼女の専売特許である。

 その実力は疑うまでもない。

 ルシアナに任せておけばまず安心だった。


 私はローガンに頼み、秘石の隠された方角を特定する。

 ここからは私達も魔王軍と離れ、二人で向かうつもりだった。

 魔王軍はヘンリーとグロムに任せればいい。

 彼らが魔巧軍の相手をしているうちに済ませてしまいたい。


 その旨を伝えて転移しようとしたその時、前方の通りに高出力の魔力反応を検知する。

 またもやゴーレムだろうか。

 そう思って見ていると、現れたのは箱型の兵器であった。


 魔導砲にいくつもの車輪を付けたような見た目で、魔導砲と比較すると二回りほど小さい。

 側面には鉄板の盾が何枚も備え付けられていた。


(あれは……)


 帝都で得た資料の中に、該当する兵器が載っていた記憶がある。

 確か戦車と呼称されていた。

 帝都地下の魔術工房で、小型の模型も見ているので間違いない。


 資料によると、基本的には走行可能な砲だったはずだ。

 二人の操縦者が内部に乗り込んで運用するのである。

 近接攻撃や魔術への対策として、鉄板の盾が搭載されている。

 裏には防御魔術の術式が刻まれており、いつでも起動できるのだ。


 重低音を響かせながら、戦車は通りを進んでくる。

 ゴーレムに比べると動きが鈍いようだが、搭載された砲の火力が段違いである。

 魔力反応からして指の鉄砲の比ではなかった。


(まさか実装されているとは。魔王軍に備えて急造したのか?)


 魔巧国の技術力に感嘆していると、戦車の砲に魔力が収束されていく。

 極限まで圧縮された魔力は、青白い光線となって発射された。

 気が付くと眼前まで迫っている。


 私は防御魔術を多重展開する。

 刹那、火花を迸らせながら光線が浴びせられた。

 きりきりと擦れるような音と共に、防御魔術が表面から削られていく。


(これは、術式を融解させているのか……?)


 観察の間に光線の勢いが弱まり、やがて完全に途切れて消失した。

 かなりの破壊力を持続して発射できるようだ。

 相当な脅威である。

 防御手段がなければ、一網打尽になっていたところだろう。


 戦車は砲身が赤熱していた。

 後退して建物の陰に隠れようとしている。

 連射できない点は、帝都の魔導砲と同じようだ。

 まだ開発途上なのだと思われる。


(逃がさない)


 防御魔術を解除した私は禁呪を行使する。

 黒い茨が前方の石畳を突き破り、隠れようとする戦車を底部から貫いた。

 そのまま茨は急速に成長し、戦車を中空へと持ち上げる。

 戦車全体に幾重にも絡み付いて、延々と圧力を加えていく。


 拘束された戦車は軋みながら陥没し、徐々に潰れ始める。

 砲が光線を放つも、それは夜空に突き抜けるだけに終わった。

 やがて戦車は真っ二つに折れて爆発する。

 爆炎が飛び散って付近の建造物を焦がした。


(ふむ。なかなかに頑丈な兵器だ)


 胸中で戦車の評価を下しつつ、私は感知魔術で近隣一帯を調べ上げる。

 いくつもの高魔力反応がこちらへ押し寄せつつあった。

 ゴーレムや戦車、或いは鉄砲を持った兵士だろう。


 魔巧軍は迎撃の動きを取っていた。

 戦力がこちらに殺到している。

 何としても魔王軍の侵攻を食い止めたいらしい。

 秘石を盗み出すなら今のうちだろう。


 私はグロムに総指揮を任せて、ローガンと共に転移した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ