表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/288

第70話 賢者は魔巧国へと赴く

 大精霊との会話を終えた私は王城に戻る。

 謁見の間では、グロムとルシアナが待ち構えていた。


「魔王様、お怪我はございませぬかっ!?」


「すごいのが来てたみたいだけど、大丈夫?」


 駆け寄ってきたグロムとルシアナ。

 私は彼らを押し留めながら尋ねる。


「二人揃ってどうしたんだ」


「どうしたもこうしたも、心配で待ってたのよ。戦いにならなくてよかったわ」


 ルシアナは安堵の息を洩らす。

 その場に居合わせなかったとはいえ、さすがに大精霊の気配を察知していたようだ。

 同行する私にも気付いて慌てていたらしい。


「大精霊はただ話したかっただけらしい。特に問題はなかった」


「そうでしたか……」


 私が告げると、グロムは胸を撫で下ろした。

 一方、ルシアナは呆れた様子で嘆息する。


「魔王サマったら豪胆ね……ドワイト君の時はもっといじらしい感じだったのに」


「そうか」


 ローガンにも同じようなことを言われていた。

 私の生前を知る者からすれば、やはり精神的な変容が窺えるらしい。

 魔王としては豪胆であることは悪くない。

 褒め言葉として捉えておこう。


 居住まいを正したグロムは、背筋を伸ばして亡き王国式の敬礼をした。


「魔王様、軍の編成が完了致しました。すぐにでも出軍できますぞ」


「分かった。お前達は軍のそばで待機していてくれ。私もすぐに向かう」


 私が告げると、グロムとルシアナはそれぞれ返事をして退室する。

 二人はこの辺りの段取りを熟知している。

 特に命令せずとも、手分けして必要なことを済ませるだろう。

 日頃はいがみ合っているが、実際は非常に優秀なのだ。

 連携も抜群である。


「…………」


 独りになった私は、玉座横に注目する。

 そこには遺骨の浮かぶ水晶と、立てかけられた形見の剣があった。

 ここに据えたその時から少しも変わっていない。


 研究所では死者の蘇生について調べさせているが、未だ有益な発見はなかった。

 それがただひたすらに不可能であることを痛感させられるだけだ。

 こればかりは仕方ない。

 実現が困難というのは分かっている。

 気長に挑戦していくしかなかった。


 幸いにも私に時間の制約はない。

 老いや寿命を気にせず、目的のために邁進することができる。

 その過程で死者の蘇生の研究も行っていけばいい。


 私は決して諦めない。

 世界の変革は確実に進んでいる。

 あの人の望む未来が近付きつつあった。

 それを見せたかった。


「――私にまた力をお貸しください」


 私は台座に歩み寄り、断りを入れてから形見の剣を手に取る。

 今宵の戦いに持っていくべきだと予感したのだ。


 最後にこの剣を使ったのは、聖女マキアとの戦いであった。

 あれからそれなりの月日が経過しているが、剣術は微塵も衰えていない。

 かつて魔王を屠った刃は、此度もたくさんの人間を斬ることになる。


(彼はどうするか……)


 私が考えるのは、魔巧国の技術者ジョン・ドゥのことだ。

 彼が世界の意思の干渉を受けているかは未だ不明であった。


 万全を期するなら、ジョン・ドゥは殺害すべきだろう。

 彼はただの技術者である。

 勇者や聖女と異なり、直接的な戦闘能力は低い。


 密偵の情報でも、一般人と同程度であるという話だった。

 精々、魔術が使える程度で、それも本職の魔術師には及ばないほどだ。

 したがって殺害は容易だろう。


 問題がジョン・ドゥを殺してもいいのかという点である。

 彼の発明は、人々に豊かな生活をもたらす。

 それが潰えてしまうことに躊躇いがあるのだ。


 ジョン・ドゥが常軌を逸した発想を持っているのは、彼の携わった兵器群を見て明らかだった。

 紛れもなく天才である。

 彼の発想力が別方面に活かされれば、多くの人々に恩恵に預かれるだろう。

 利便性の高まった世界で平和が築かれるのは、私としても望ましいことであった。


 ただ、今の魔巧国は放置できない。

 帝国貴族を使って大精霊の秘石を盗み出した罪は重い。

 世界平和に反した動きであり、結果的に無用な混乱を招いている。


「……ふむ」


 暫し考えた私は、結論を保留することにした。

 ジョン・ドゥの処遇は、彼と一度話してから決める。

 場合によっては魔王領に引き抜いてもいい。

 人間側から脅威を取り除きつつ、彼の頭脳を借りることができる。

 全てはジョン・ドゥの人柄を見極めてから判断しよう。

 もし危険な思想を持っていたり、和解や恭順の余地がなければ迷いなく殺害する。


 色々と考えたが、やはり世界の安寧が最も大切なのだ。

 それを乱す人間は即座に排除しなければならない。

 脅威となる存在は魔王領だけで十分であった。

 それ以外は残らず削ぎ落としていく。


 方針を固めた私は転移で城の前へ赴いた。

 夜闇の中、魔王軍が整列している。

 点々と焚かれた魔術の光源がその様相を照らした。


 今回もアンデッド、魔物、人間、エルフの混合軍である。

 総勢一万ほどで、いつもより魔術を使える者が多い。

 相手が遠距離攻撃に秀でた兵器を扱うためだろう。


 あとの戦力はいつものように現地調達する。

 アンデッドを追加で加えればそれなりの規模になるだろう。


「やあ、大将。準備は万端かい」


 気楽な調子で声をかけてきたのはヘンリーだ。

 彼は緊張感に包まれた中でも相変わらずの態度である。


「私の準備はできている。お前はどうなんだ」


「もちろんばっちりさ。ドルダも調子を整えてきたんだ」


 ヘンリーはそう言うと、そばにいたドルダと肩を組んだ。

 引き寄せられたドルダは老狼の顎を動かす。


「首……儂、ハ、狩ル……」


「ほら、完璧だろう?」


「……そうだな」


 自信満々なヘンリーに私は頷いて応える。

 近くにいる配下達が何か言いたげだが、賢明な彼らは沈黙に徹している。


「敵は未知の兵器を数多く使ってくる。くれぐれも注意してくれ」


「了解。連中にはどちらの武器が優れているか教えてやるよ」


 私の注意喚起を受けて、ヘンリーは弓を弄びながら笑う。

 彼の場合は慢心ではない。

 確固たる実力の上と相手の戦力を知った上での発言である。


 彼とドルダが前線にいれば心強い。

 たとえゴーレムだろうと容易く破壊できるだろう。

 日々の訓練によって、部下との連携も円滑なものとなっている。


 次に私は、魔王軍の端にいるローガンのもとへ向かった。


「体調はもう平気か。療養中と言っていたが」


「……すまない」


 ローガンは少し気まずそうに謝る。

 大精霊との対話を私だけに押し付けたことだろう。

 私は首を横に振って答える。


「気にするな。気持ちは分かる。それよりも今回は頼む」


「任せろ」


 此度は長期戦ではなく、短期決戦に持ち込む予定だ。

 迅速に秘石を奪還し、ジョン・ドゥと接触する。

 それだけが目的だ。


 秘石は魔巧国の首都にあるらしい。

 詳細な場所については、現地に赴いて確認するしかないため、ローガンに協力してもらう。

 密偵からも候補の保管場所が挙がっているので、難儀することはないはずだ。


 私は上空へ飛び上がり、魔王軍を見下ろせる位置を取った。

 そこで分かりやすく両手を掲げてみせる。

 私の合図を目にした配下達は、一斉に身構えた。

 静かな熱気が渦巻いている。

 高まった士気が場を支配していた。


(――悪くないな)


 それを確かめたところで、私は転移魔術を行使した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ