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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第三章

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第67話 賢者は秘石の在り処を知る

 二日後、秘石の現在地が判明した。

 とは言っても、私は大して貢献していない。

 ローガンを始めとしたエルフの一族と、ルシアナ率いる密偵の尽力による成果である。


 まず活躍したのはローガンだ。

 彼は精霊魔術を使用した探知を実施した。


 秘石には、大精霊の力が封じ込められている。

 それを完璧に隠蔽するのは困難――否、ほぼ不可能だ。

 魔力だけならともかく、精霊由来の力も含まれているため、通常の魔術や魔道具ではどうしても隠し切れないのである。

 よって精霊魔術を扱うローガンなら探知できるという結論に至った。


 ただし、彼の力だけでは感知範囲が非常に狭い。

 どれだけ頑張っても王都ほどの広さを調べる程度が限界であった。

 これでは秘石がどこにあるかを調べるのには時間がかかりすぎる。

 大精霊の提示した三日という期限に間に合わない。


 かと言って、私では精霊由来の力を感じ取れなかった。

 これは種族的な適性の問題なので、術の工夫でどうにかなる部分でもない。

 その気になれば類似する術を習得できるかもしれないが、やはり三日という制約の中では厳しかった。


 以上のことを踏まえて、私はローガンに魔力を譲渡する役に徹することにした。

 瘴気が混ざらないように気を付けながら、無害な魔力だけを彼に送り込んだ。

 これによって術の出力を劇的に向上させて、ローガンの感知範囲を何百倍にも拡張した。

 さらに感知が得意なエルフを百人ほど動員し、何度も休息を挟みながら探索を続けたのである。


 そして昨晩、ついに秘石の在り処の特定に成功した。

 場所は魔巧国だ。

 帝国領土からはかなり離れている。

 魔術による転送で一気に運べる距離でもない。


 位置関係を考えるに、秘石を持ち出した人間は魔王領と聖杖国を横断したのだろう。

 大精霊はこの足取りを掴めなかったらしい。

 これは推測だが、分体の感知範囲が狭く、精度も低いせいだと思われる。


 秘石に施された隠蔽術が優れていたのも要因の一つに違いない。

 あの系統は近代において開発された魔術だ。

 大精霊にとっては未知の術に近いため、まんまと出し抜かれてしまったのだろう。


 そもそも大精霊ほどの存在が、精密な感知を要求される場面などまずない。

 不慣れな探索ということもあって余計に難航していたのだ。

 今回はその欠点が露わになった形と言えよう。

 貴族達にとっては幸運な話であった。


 とにかく、秘石の位置まで分かれば話は早い。

 そこ後はルシアナと彼女の部下の密偵に任せて、日時や移動経路から誰が関与しているかを割り出させた。

 その結果を記した報告書が私に届いたのが今朝のことである。


 秘石を持ち出したのは、帝国所属の貴族達だ。

 彼らは家族と護衛隊を連れて移動して、形跡を消しながら魔巧国へ赴いた。


 密偵によると、どうやら彼らは亡命した模様である。

 おそらく突発的な計画ではない。

 極秘裏に段取りを進めていたのだろう。

 彼らは衰退した帝国を見限ったのだ。

 引き抜きの話も通っていたのかもしれない。


 帝国を捨てた貴族達は、魔巧国に秘石を提供したそうだ。

 それが亡命の条件だったのだろう。

 何に使うのかは知らないが、秘石は唯一無二に近い価値を持つ。

 魔巧国の技術力があれば、いくらでも活用の手段があるのだと思われる。


 真相が分かれば、そこまで難しい構図ではない。

 亡命の条件を呑んだ貴族達は、まず領土内の遺跡から秘石を持ち出した。

 彼らは帝都にて秘石に隠蔽を施し、大精霊による帝都消滅が行われる前に逃走した。

 そうして秘石の提供と合わせて魔巧国への亡命を果たした。


 時系列順に述べるとこういった具合だろうか。

 計画の全体像は単純である。

 大精霊の追跡を逃れられたのは偶然に違いない。

 個人的には、亡命に成功する前に捕捉されてほしかった。

 おかげで私が尻拭いをする羽目になってしまった。


 此度の亡命貴族については、拉致して大精霊に引き渡すつもりだ。

 同情することもない。

 それで大精霊の怒りが収まるのなら安いものである。

 反省を促してどうにかなる問題でもなかった。


 ちなみに亡命した人間の中に皇帝はいなかった。

 つまり此度の秘石窃盗は、一部の貴族による暗躍だったことになる。

 巻き添えを受けた者からすれば堪ったものではないが、既に帝都は消滅した。

 亡命を糾弾できる者はいなかった。


 此度の大精霊による破壊は、帝国にとってあまりにも致命的だ。

 中心地である帝都を失い、新しい皇帝も死んだ。

 以前、私がもたらした被害の比ではない。

 復興の可能性すら残さずに滅ぼされている。


 ここから帝国が持ち直すのはさすがに不可能だろう。

 広大な領地とまだ健在の都市は、他国へ吸収されていくはずだ。

 或いは独立して都市国家となるかもしれない。

 確かな事実は、かつての強国はもう戻らないということであった。


「報告を知った感想は?」


 ルシアナは玉座にもたれながら問いかけてくる。

 私は報告書を返して首を振った。


「愚かとしか言いようがない。大精霊の逆鱗に触れるなど、今の私でも考えないことだ」


 犯罪の大小といった領域ではなかった。

 人間の尺度では計れない存在への侮辱である。

 我が身の惜しさに亡命を目論んだのは分かるが、支払った対価が大きすぎる。

 生前の身体なら嘆息を洩らしていたところだ。


 もし私が交渉に入っていなければ、大精霊はさらなる災厄となって猛威を振るっていただろう。

 今頃は帝国全土が地図上から消える事態になっていたかもしれない。

 分体とは言え、大精霊は規格外の存在である。

 人間の中に彼女を止められる者はいない。


(よりによって、なぜ大精霊の秘石だったのか……)


 亡命貴族達の思考はとても理解できない。

 秘石を持ち出せば、遅かれ早かれ大精霊が動くと思わなかったのだろうか。

 それほどまでに自分達の地位や権力が大切だったのか。

 彼らにとっては、第三者が巻き添えで死ぬことなど勘定に入っていないのかもしれない。


 しかし、人間とはそういうものだ。

 魔王を討伐した勇者と賢者を、嬉々として処刑してしまう。

 その考えや心境に共感できないのは、今に始まったことではなかった。


 人間は本質的に愚かである。

 ある意味では救いようがない存在とも言える。

 平和を志して魔王になった私も、その中に含まれていた。


「帝国の領土だけど、せっかくなら奪っちゃう? ちょっとくらい貰ってもいいと思うわぁ」


「そうだな。此度のことが解決でき次第、国境を押し広げる」


 秘石の返却が最優先だが、首都を失った帝国についても考えねばならない。

 帝国は魔王領とも隣接しているのだ。

 このまま各国に食い散らかされる様を傍観してもいいが、どうせなら私達も同じことをしてもいい。

 今後も魔王領は発展させていきたい。

 帝国にはその糧となってもらおう。


 ただし、まずは魔巧国への侵攻である。

 どういった事情があれど、結果として大精霊を怒らせた罪は重い。

 到底看過できない禁忌を犯している。

 一刻も早く秘石を取り戻さなければならない。


 ――大精霊の介入により、世界の均衡は大きく変貌しつつあった。

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