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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第三章

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第64話 賢者は強国の滅びを知る

 ゴーレムの試用から二十日ほどが経ったが、未だ魔巧国に大きな動きは無い。

 聖杖国との関係が険悪なものとなり、たまに小競り合いを行っているくらいだろうか。

 それも小規模な戦いばかりである。

 元々、両国の仲は良いものではなく、それが表面化しただけだった。

 気にしなくてもいい程度の出来事に過ぎない。


 余談だがいずれの戦いにおいても、魔巧国が勝利していた。

 聖杖国はいたずらに被害を増すばかりで、国民からの信頼が下がる一方である。

 このままでは、魔王軍が介入する前に滅びるのではないか。

 密偵によると国内で反乱の予兆が見られるそうだ。


 聖杖国は大きな選択を迫られている。

 ある種の転換期と言えよう。

 どういった方面に変わっていくのか、注目していこうと思う。

 もっとも、今のところは私が手出しする必要はなさそうだった。

 静観の立場を崩すつもりはない。


 一方で魔巧国は不気味なほど大人しかった。

 密偵にも探らせているが、秘匿情報が多すぎる。

 様々な研究及び開発を行っているのは分かる。

 しかし、危険を冒さなければ兵器関連のことは分からない。

 そのため、人員の安全を優先して無理はさせない方針を維持させていた。


 魔巧国が魔王領に攻め込んでくるという話も聞かない。

 現在は各都市の防衛力を強化しているらしい。

 おそらくは、魔王の侵攻に備えているのではないだろうか。

 幹部とも話し合ったが、似たような結論に達した。


 つまり向こうから攻撃は仕掛ける意志は薄い。

 あくまでも自国のことを第一に考えて、無用な被害を抑えている。

 悪くない判断だ。

 それを臆病者だとは思わない。

 軽率な行動が何を招くかは、これまで犠牲になった国々が示していた。


 ただし魔巧国は、防衛だけに執心しているわけではない。

 帝国に手を貸して魔導砲を実装に導いた実績から、対魔王の兵器を開発している可能性は高かった。

 魔王討伐も視野に入れているのだろう。


 彼らは無為に防衛に走ったわけではない。

 むしろその性質は狡猾である。

 自らの手を汚さず、こちらの戦力を測ってきたのだ。

 今は暗躍と防衛に徹しているが、勝利を確信した段階で一気に侵攻してくるのではないだろうか。

 聖杖国の動向より注意が必要であった。


(場合によっては、こちらから奇襲を仕掛けるべきかもしれないな……)


 滅ぼさないまでも、魔巧国にそれなりの被害を与えるのだ。

 目まぐるしい飛躍を続ける魔巧国の技術力を停滞させて、余計な不安要素を断ち切る。

 あまり実行したくないが、手段の一つとして頭の片隅に留めておく。


 下手なこだわりで魔王領に多大な損害を出すわけにもいかない。

 私は聖女との戦いで学んだのだ。

 配下の命を預かる以上、それに見合った判断を下さねばならなかった。


 二国について考えていると、部屋の外から慌ただしい足音がした。

 もう何度も経験したので誰かは分かる。

 間もなく謁見の間の扉が勢いよく押し開かれた。

 転がり込んできたのはやはりグロムだ。


「魔王様、大変ですっ! 緊急事態ですぞ!」


「どうした」


「て、帝都が、消滅しましたッ!」


 グロムは大声で報告する。

 それを聞いた私は、思わず額に指を当てた。

 頭痛のようなものを感じる。


(帝都が、消滅だと……?)


 思っていたよりも深刻な事態だ。

 一体何が起こったのか。


 帝都は現在は復興の最中で、他国が攻め込みそうな状況でもなかった。

 さらに帝都は領内でも中央部に位置する。

 滅ぼすには広大な領地を侵攻していく必要がある以上、いきなり帝都が滅びるなどありえない。


 そもそも、グロムは消滅という表現を用いた。

 他国の軍が侵略を達成したとしても、その言葉は的確ではない気がする。

 脳裏を様々な疑問が過ぎる中、私はグロムに続きを促す。


「……詳しく話せ」


「はっ! 承知しました」


 報告書を開いたグロムは時系列に沿って事情を説明する。


 帝都が消滅したのは今朝のことだ。

 密偵によれば、瓦礫だけが残る荒れ果てた土地になったらしい。

 他国による侵略ではない。

 かと言って、何らかの魔術実験が失敗したわけでもない。


 帝都消滅は大精霊によるものらしい。

 大精霊とは、太古より世界を見守ってきたとされる原初の精霊の総称である。

 この世界を見渡しても、間違いなく最上位に近い存在だろう。

 解釈にもよるが、神霊と見なされる場合もあるほどだ。

 知られているだけでも複数の大精霊が存在し、それぞれ司る事象が異なる。

 今回はその一柱が暴走したのだそうだ。


 ただ、大精霊は普段は深い眠りについている。

 滅多なことでは起きず、他の生物に対しては基本的には無関心と不干渉を貫いていた。

 歴史上、大精霊が登場することなんて滅多にない。

 それこそ神話に出没する程度だ。

 試練を乗り越えた英雄に加護を与えることがあるものの、それも例外の一つでしかなかった。


 実際、ここ二百年は大精霊が顕現したという記録はなかったはずだ。

 それにも関わらず、此度は帝都を消滅させたらしい。

 よほどのきっかけがあったのだろう。


「発端が何か判明しているのか?」


 私の質問を受けたグロムは、手に持った報告書に視線を落とす。


「どうやら帝国軍は、大精霊を祀る遺跡から秘石を持ち出したそうですぞ。それによって怒りを買ってしまったのでしょう。まったく、どうしようもない連中ですな」


 グロムは半ば呆れた様子で嘆く。

 私も同感だ。

 どうやら帝国は、禁忌とされる行為に軽々と手を染めたらしい。


 秘石とは、大精霊の力を封じ込めた結晶である。

 膨大な魔力を有し、大精霊にとっては我が子のように大切にしているものだ。

 あろうことか、帝国はそれを盗み出したのであった。

 逆鱗に触れたという段階すら越えている。


 大精霊の秘石は、魔術の触媒として最高峰と言える。

 帝国は、何らかの術に用いようとして盗んだのかもしれない。

 何にしても愚かなことに違いはなかった。


 帝国の領土は広大だ。

 大精霊を祀る遺跡もあったのだろう。

 しかし、そこは決して触れてはいけない領域である。

 衰退する国を立て直すつもりだったのかもしれないが、いくらなんでも焦りすぎだ。

 無謀にもほどがあった。


 現在、大精霊は帝都領内を徘徊しているらしい。

 たまに癇癪を起こして、各地で猛威を振るっているそうだ。

 いずれ国外に出ていく恐れがあった。


「帝国の領軍が討伐しようとしておりますが、まったく太刀打ちできていないそうですぞ」


「当然だ。存在の格が違う」


 人間の軍隊が大精霊に敵うはずがない。

 言ってしまえば、自然災害すらも凌駕する存在なのだ。

 戦うという発想が間違っている。


「して、どうされますか……?」


「もちろん止めに行く。放っておくわけにもいくまい」


 私は即答する。

 このままでは帝国そのものが滅びる可能性があった。

 大精霊のもたらす被害は甚大で、怒りが治まるまで殺戮の限りを尽くすだろう。

 直接の原因は愚かな真似をした帝国だが、彼らの行為によって他国にまで影響が及ぶのは見過ごせない。


 大精霊の力は、各国に少なくない破壊を与えるだろう。

 滅ぶ国も出てくるかもしれない。

 そうなると私の理想に支障が生じる。

 地道に築き上げてきた世界平和の基盤が揺らいでしまう。


 ここで崩されるわけにはいかなかった。

 世界の敵は魔王だけでいい。

 管理下にない脅威は、速やかに排除してみせよう。

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