表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/288

第50話 賢者は聖杖軍を瓦解させる

 発動した雷魔術が、豪雨のように稲妻を落とし始めた。

 居並ぶ兵士達がそれを浴びて焼き殺されていく。

 密集した状態のため、被害は一瞬にして膨らんでいた。


 ほどなくして防御魔術が展開された。

 半透明の障壁が稲妻を凌ぐ。

 損傷したそばから、新たな防御魔術が重ねられていた。

 複数の術者が協力して構成しているのだろう。


(全体的に動きが悪いな)


 私は兵士達の対応を見て評する。

 不意を突かれたことで混乱していることに加え、雷光の直視で目をやられているようだ。

 なんとか統率を図ろうとしているものの、まだ時間はかかるだろう。


 続けて私はマキアのいた場所に注目する。

 そこには光の鎖で構成された球体が存在していた。

 どうやら彼女はあの中にいるようだ。

 光の鎖を巻き付けて球体とすることで、防御に徹しているらしい。


 マキアは自分の命を最優先している。

 私が奇襲してくる可能性を考えているのだろう。

 一連の被害を受けて、彼女は私の脅威を再認識していた。

 言動とは裏腹に、慎重な戦い方になっている。


 私にとっては好都合だった。

 彼女が常に攻勢だと、こちらが致命傷を負う危険性が付きまとう。

 今のうちに取り巻きの兵士を殺して弱体化を進めておきたい。

 マキアが消極的になるのなら、私は遠慮なく有利な状況に運ぼうと思う。


 私は目視転移で兵士達の只中に飛んだ。

 すぐさま剣を振るいながら回転する。

 血飛沫と悲鳴が上がる中、私は疾走を始めた。


「ぐぇ、ぉっ……」


「ひいぃっ!?」


「おい、誰か早く攻撃を――」


 驚く兵士の首を刎ね、腕を斬り落とし、心臓を貫き通す。

 反応される前に次々と殺害していった。

 一瞬たりとも同じ場所にいないように意識する。


 突如として乱戦に持ち込まれたことで、兵士達の混乱は極致に達していた。

 ほとんどの者が状況を把握できておらず、頭上からは未だに雷魔術が降り注ぐ。

 防御魔術も、破壊されては張り直すという工程を繰り返していた。

 必然的に術者は消耗を強いられている。


 私の強襲に対応しようとする者も、迂闊には手が出せずにいた。

 多くの味方の中から、私だけを攻撃しなければならないからである。

 その躊躇いがどうしようもない隙を生み、逡巡の末に私に斬られていた。

 万が一にも仲間を巻き込みたくない心理は理解できるが、その迷いは結果としてより多くの犠牲をもたらす。


 一方、私は非常に単純だった。

 自分以外の全てが敵だ。

 ただひたすらに斬り伏せていくだけでいい。

 何も余計なことを考える必要はない。


(ん……?)


 兵士の抵抗を切り崩していると、頭上に強い魔力反応を感知した。

 視界の端に映るのは、光の鎖だ。

 聖なる光を発しながら、蛇のようにうねっている。

 防御に徹していたマキアだが、ここに来て反撃に転じることにしたらしい。


 認識した直後、光の鎖が音もなく伸びてきた。

 私は近くにいた兵士を掴むと、身を翻してその陰に移る。

 そして、鎧に包まれた背中を軽く押した。


「えっ」


 兵士が間の抜けた声を上げる。

 勢い余った光の鎖が彼の腹を貫通し、そのまま上空へと突き上げた。


「お、ぼおぇああアアアアァッ!」


 兵士は血反吐を垂らしながら絶叫する。

 苦痛に従って振り回される四肢はしかし、何の意味も為さない。

 やがて兵士は白目を剥いて絶命した。


 それに合わせて頭上の防御魔術が弱まる。

 特に意識していなかったが、今の兵士は稲妻を防いでいた術者の一人だったらしい。


 同僚の凄惨な死を目の当たりにして、兵士達は一様に凍り付く。

 誰もその場を動けず、言葉を失っていた。

 貫かれたままの死体を凝視している。


 味方であるはずのマキアの攻撃が、目の前で兵士を惨殺した。

 それが過失であることは理解できても、精神的な衝撃は大きい。

 次は自分の番かもしれない。

 そう思わせるだけの光景であった。


 私は彼らの動揺を利用して殺戮を再開する。

 この機を逃す手はない。

 兵士の間を掻き分けるようにして、愚直に斬り殺していく。


 その間、光の鎖は飛んでこない。

 マキアは再び防御に徹しているのだろうか。

 味方を殺害してしまったことに気付き、それで臆病になってしまったのかもしれない。


 彼女の判断能力は、贔屓目に見ても的確とは言い難かった。

 状況によって方針がぶれすぎている。

 指揮官として戦った経験がないのだろう。


 マキアは神聖魔術を得て地位が向上したと言っていた。

 ちょうど今が成り上がりの時期に違いない。

 もし彼女が指揮官としての経験を積んでいたら、さらなる苦戦を強いられていたと思われる。


 四方八方から殺到する兵士達。

 私は暴風の如く彼らを蹴散らし斬り飛ばす。

 剣を振るうたびに兵士の手足や首が宙を舞った。


「魔王、覚悟ォッ!」


 勇敢にも突進してくる盾持ちの兵士がいた。

 身を挺して私の快進撃を食い止めるつもりらしい。


(悪くない判断だ)


 私の突進を止められれば、そこへ攻撃を加えられる。

 手数で言えば、聖杖軍に分があった。

 袋叩きにできれば彼らの勝利となる。


(……だが、甘い)


 私は身体強化の出力を上げてさらに加速する。

 大上段から剣を振り下ろし、盾ごと兵士を切断した。

 真っ二つになって崩れ落ちたところをすれ違う。


「死ねェ!」


 別の兵士が槍を突き出す。

 洗練された良い攻撃だ。

 剣の間合いの外から的確に狙ってきている。

 しかし、これも私の命には届かない。


 迫る槍に剣を沿わせて、突きの軌道をほんの少しずらした。

 穂先が私の頬骨を僅かに削ってゆき、背後にいた兵士の片目を捉える。


「なっ……!?」


 仲間を刺して動じる兵士の首を掴み、その顔面に柄頭の殴打を浴びせた。

 昏倒する兵士の手から槍を奪う。

 穂先に眼球が刺さったままだが、生憎と外す暇もない。


「――穿て」


 屍を踏み越えながら、私は槍に魔力強化を施す。

 そして、進行方向に向けて投擲した。


 轟音を伴う槍が、直線上の兵士をまとめて串刺しにしていく。

 螺旋を描く破壊の余波は、直撃を免れた兵士をも巻き添えにした。

 誰も彼もが無力な存在として浪費される。


 槍が遥か遠方の教会にめり込んだ時、聖杖軍の陣形は完全に瓦解していた。

 私を起点に大地が扇状に削られ、そこにいたはずの兵士は肉片と化している。

 今の投擲だけで千を超える兵士が戦死しただろう。


 頭上で防御魔術が決壊する音がした。

 維持していた術者達が減り、耐え切れなくなったのだ。

 稲妻による蹂躙が再開し、幸運にも生き残っていた兵士達に襲いかかる。

 誰も私に反撃する余裕はない。


 それでも私は、畳み掛けるように炎魔術を一帯に振り撒いた。

 瞬間的な威力は低いものの、延焼で継続的に被害を出せる術である。

 しばらく待つと、呼吸が満足にできずに倒れる者や、高熱に炙られて悶え苦しむ者が散見された。

 私はそこへ近付き、脳天に等しく刃を叩き込む。


 連鎖する殺戮により、兵士達の士気は極限まで低下していた。

 とうとう逃げ出そうとする者が現れ始める。

 戦略的な撤退ではない。

 命惜しさの敗走である。


 だから私は、瓦礫地帯を結界で包囲した。

 マキアの魔力供給源となる彼らには、戦場から逃げ出されると困るのだ。

 逃げ場を失った兵士達を、やはり私は剣で斬り殺す。

 儚い生命を、無慈悲に刈り取っていく。


(ここは地獄だ。私は、その中心にいる……)


 胸中に浮かぶのは自嘲の言葉。

 人々の血潮に濡れながら、私は形見の剣を振るい続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ