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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第二章

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第49話 賢者は形見の剣で殺戮する

 建物の屋上に着地した私は、流れるように剣を振るった。

 微かな振動と摩擦音。

 私は足元を円形状にくり抜き、そのまま室内へと落下する。


「ぐえっ!?」


 真下にいた兵士を押し潰しつつ、そばにいた二人の兵士の首を刎ねた。

 室内にいたもう一人の兵士は、杖を構えて詠唱を行う。

 その喉に剣の切っ先を突き込んで詠唱を遮断した。


「……っ」


 兵士は涙を浮かべて私を睨んでいた。

 何かを言おうとしているが、言葉にならない。

 ただ息の漏れるような音だけを発している。


 私は目を伏せて剣を引き抜く。

 迸る返り血が私を濡らした。

 首を押さえる兵士は、膝から倒れて息絶える。


 私は感知魔術を使用する。

 この建物にいた兵士は全滅できたようだ。

 潜んでいるような反応はない。


「…………」


 私は身に纏うローブを触る。

 返り血を吸ってずぶ濡れになってしまい、少し重い。

 元の色も分かりにくくなっている。

 軽く絞ると血が溢れ出てきた。

 これに関しては放っておくしかない。

 ここで少し絞ったところで、まだまだ汚れるのだから。


 聖女マキアと対話してからそれなりの時間が経過した。

 私は都市内を駆け回り、聖杖軍の兵士を斬り殺している。

 少なくとも三千人は殺害した。

 ほとんどが屋内にて潜伏していた者達だ。

 離れた地点にいた者も感知魔術で探り、ひたすら斬って斬って斬り続けた。


 とても地道なやり方だが、今のところは非常に順調である。

 魔力の消耗も微小で済んでいた。

 このままなら、殲滅まで戦闘能力を維持することも可能だろう。


 兵士達はマキアに魔力を供給するための術を行使しており、そちらに集中力を割いていた。

 そのせいで私の強襲に対応できない。

 私の攻撃に備えると今度は術に集中できず、魔力供給に滞りが出てしまう。

 故に彼らは無防備な姿を晒すしかない。

 おかげで戦闘自体は、円滑な勝利を積み重ねていた。


 このまま私は兵士を斬殺し続ける。

 供給源が無くなれば、自ずとマキアは弱体化する。

 潤沢な魔力を持たない彼女は、神聖魔術を満足に使えなくなるだろう。

 そこまでいけば、正面から対峙しても確実に勝てるはずだ。


 私は建物を出て路地を疾走する。

 感知魔術により、最寄りの兵士の位置は突き止めていた。

 途中、後方から光の鎖が襲いかかってくる。

 数は二十ほどだ。

 それらを剣で弾き落としながら走り抜ける。


 光の鎖による遠距離攻撃は、明らかに頻度が減少していた。

 マキアは兵士の被害を考慮しているのだ。

 拡大する被害を前に、魔力消費を気にし始めている。


「どこにいるのよ! 出てきなさい卑怯者ッ!」


 遠くからマキアの怒声が聞こえてくる。

 彼女は兵士を引き連れて私を捜索していた。

 向こうは私の位置を把握できていない。

 光の鎖による自動追尾で、おおよその方角だけを頼りに私を探している。


 マキアは短期決戦を望んでいる。

 このままだと、聖杖軍の犠牲者が増えるばかりだった。

 魔力が底を尽きれば、彼女の勝機は失われる。

 何としても私を見つけ出したいはずだ。


 だから私は隠密魔術を使用している。

 加えて剣を主軸にした殺戮なので、大きく目立つこともない。

 さらに身体強化を使う私の移動速度は、彼女達を凌駕している。

 よほど動きを間違えない限り、追いつかれることはない。

 私は一度もマキアと遭遇せずに殺戮を続けている。


(今度は地下か)


 感知魔術が近くにいる兵士の居場所を暴く。

 どうやら家屋の地下に隠れているらしい。

 見つからないように工夫を凝らしている。

 隠蔽魔術を張って息を潜めているようだが、私の目からは逃れられない。


 私は扉を開いて家屋へ浸入する。

 設置された魔道具の罠を剣で破壊し、地下への扉を割って階段を下りていく。


 階段の先には闇が広がっていた。

 照明等を使っていないようだ。


 その時、闇の奥から一本の矢が飛んできた。

 私は片手で掴んで止める。

 鏃を見ると、何かが塗られていた。

 この嫌な感じは、どうやら聖水のようだ。

 不死者にとっては毒のようなものである。


「うおおおおおおおぉっ!」


 雄叫びが上がり、兵士が無手で階段を駆け上がってきた。

 この兵士が矢を放ったのだろう。

 マキアへの魔力供給をせず、私を待ち伏せしていたらしい。


 兵士の体内の魔力が急激に膨張している。

 彼自身も発熱し、白煙を発していた。

 耳や目から血を流している。


(これは、まさか……)


 兵士の目論見を察した私は、しがみ付こうとする彼を蹴り飛ばした。

 階段を転がり落ちた兵士は直後に爆発する。

 爆発は肉片を散らしながら周囲を吹き飛ばした。

 辺りが瞬く間に血みどろになる。


 今のは自爆の術式だ。

 たとえ命を捨ててでも、兵士は私を殺したかったのだろう。

 その決意には敬意を評さざるを得ない。


「……痛、い」


「た、すけ……て、く、れ……」


 階段の先から呻き声がした。

 私は様子を見に行く。


 そこには負傷した数人の兵士がいた。

 手足や胴体に木片が突き刺さっている。

 今の自爆による被害を受けたようだ。

 彼らはマキアへの魔力供給を行っていたらしい。


 私は無抵抗の兵士達を斬殺する。

 彼らの命乞いを無視して、代わりに刃を下ろした。

 全員を殺害した後、血を払いながら地上に戻る。


(さすがに自分が嫌になるな。かつての英雄なんて名乗れたものではない……)


 今宵、私は剣だけで数千の人間を一人で殺害した。

 正気の沙汰ではない。

 聖杖軍の虐殺を批難する資格はないだろう。


 私は既に狂っているのかもしれない。

 十年間、死者の谷で自問自答を繰り返した。

 肉体が腐り落ち、心を枯らしながらも苦悩した。

 その過程で狂気に陥ったのではないだろうか。

 もはや私の主観で判断することは叶わない。


 ただ一つ確かなのは、私には為すべきことがあり、それを遂行するしかないということだ。

 立ち止まってはいけない。

 このままやり切るしかなかった。

 自身が正気か否かは二の次である。


 その後も私は兵士を相手に殺戮していった。

 とにかく剣での斬殺を繰り返す。

 ローブは返り血で完全に変色し、常に血を滴らせる有様だった。


 形見の剣については問題なかった。

 切れ味も鈍っておらず、使い心地に異常はない。

 さすがは魔王殺しの名剣である。


 そうしてひたすら兵士の屍を築き上げること暫し。

 夜明けの気配が近付いてきた頃、私は建物の屋上に潜んでいた。

 視線は、遮蔽物の少ない瓦礫地帯へと向けている。

 そこに聖女マキアがいた。


 彼女のもとには、生き残りの兵士達が集結している。

 光源となる魔術を等間隔で配置して、周囲を照らし上げていた。

 孤立していると一方的に殺されると気付いたのだろう。

 別の地点に潜伏している者は既にいない。

 彼女を囲うあの軍勢こそ、此度の聖杖軍の全てであった。


(だいたい七千人ほどか)


 多少の誤差はあるかもしれないが、確実に一万を下回っている。

 当初の規模と比べると、半分以下になっていた。


 ここからは暗殺戦法は不可能だろう。

 見つかることは前提で動かねばならない。

 私も消耗は覚悟で戦うつもりである。


 夜明けも近付いてきた。

 周囲が朝日に包まれれば、聖杖軍の視覚も改善される。

 夜闇に紛れて戦えるうちに決着したい。


(まずは先制攻撃をするか)


 私は手のひらに雷魔術を圧縮させる。

 なるべく一撃で継続的な被害を与えておきたい。

 依然として数的な有利は向こうにある。

 初撃で少しでも削っておくのが先決だろう。


 私は構築を終えた雷魔術を上空へ投げ放つ。

 圧縮された雷球は、滑らかな動きで聖杖軍の頭上へ移動する。

 人々に注目される中、それは目を焼くような閃光を炸裂させた。

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