第287話 賢者は配下に恵まれる
城内を散策する私達は、その後も魔王軍の幹部やその部下と出会う。
この五百年で新たに出会った者達だ。
定命の者がいれば、悠久の時を生きる者もいた。
種族にもまるで統一感がない。
総じて個性的な者ばかりが揃っていた。
一連のやり取りを経て、グロムは嘆く。
「騒がしい連中ですなぁ……散歩すらままなりませんぞ」
「いつものことだ」
大人しい者は少数派だろう。
多かれ少なかれ、言動に癖がある。
一堂に会せば、尚更に盛り上がる始末だった。
連続して会話した結果、少し疲れてしまうのは当然だと思う。
「しかし、此度は出席率が高そうですな。喜ばしいことです」
グロムは満足そうに述べる。
魔王やそれに準ずる幹部は、基本的に多忙だ。
日夜、担当の世界では様々な問題が発生しており、その解決に追われている。
ただし、一部は招集に応じるのが面倒だったり、独自の理由で欠席していた。
そのたびにグロムは憤慨するのだ。
私自身は、欠席について特に気にしていない。
それぞれに事情があるのだから、参加を強制するつもりはなかった。
加えて重要度の高い事項は、念話で伝えられる。
欠席の場合は代理の部下が出席することも多く、実務上で困ることはないのであった。
言うなれば、各魔王軍の交流を兼ねた顔合わせに近い。
そこまで考えた私は、グロムに尋ねたいことがあったのを思い出す。
「聞き忘れていたが、お前の世界は大丈夫なのか?」
グロムの世界では、国家間での大規模戦争が勃発していた。
一時期は荒れたと耳にしていたものの、その顛末をまだ聞いていなかったのだ。
私に問われたグロムは、ここぞとばかりに背筋を伸ばした。
そして自慢げに回答する。
「もちろんすべて解決しましたぞ! 序列二位が手こずっては面目が立ちませんからな。我が威光をこれでもかと知らしめました」
「……やり過ぎないように注意してくれ」
グロムは何かと張り切りすぎる。
周囲への被害を考えると、ほどほどに自制してもらわねばならない。
彼の力は世界を軽々と滅ぼせる領域なのだ。
扱いには細心の注意を払う必要があった。
窓の向こうを何かが落下した。
直後に轟音が鳴り響く。
上階から誰かが落ちたようだ。
私は窓の外に身を乗り出して注目する。
花壇のそばに瓦礫が散乱していた。
そこに埋もれているのは、双子ことケニーとラナだ。
二人は獰猛な笑みで頭上を見上げている。
「かっかっか、まだまだ甘いわい! それじゃあ、儂は倒せぬぞ!」
頭上からドルダの快活な声がした。
どうやら彼らは、上の階で稽古していたらしい。
白熱しすぎて、壁を突き破ってしまったのだろう。
稽古をすると聞いた段階から、壁の破壊はやりかねないと思っていた。
故に大して驚くことではない。
私はそのような感想だが、グロムは違った。
彼は眼窩の炎を滾らせると、口から火を吹きながら激昂する。
「貴様ら……魔王様の城を何だと心得ておるのだァッ!」
窓から飛び出したグロムは、ケニーとラナを叱りに行く。
二人は楽しそうに逃げ出した。
これも遊びの一環として捉えているようだ。
取り残された私は、地上に落下した瓦礫を一瞥する。
(修繕を罰にするのが妥当か)
もちろん連帯責任でドルダにも課すつもりだ。
ローガンも同じ部屋にいるはずだが、いくら彼でも止められない時はある。
責任はないだろう。
諸々を決定した私は、グロムを宥めるために追跡を開始するのであった。




