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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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284/288

第284話 賢者は変化を実感する

「とりあえず、今日は時間通りに来た。それでいいじゃろう! 吾、とても偉いっ!」


 ディエラは強制的に話を打ち切ると、誇らしげに胸を張る。

 その眼差しは私達の反応を窺っているようだった。


「…………」


 私はグロムを見る。

 彼は小さく首を振っていた。

 言い返す気にもなれないらしい。


 仕方ないので私が応じる。


「……今後も続けられるようにしてくれ」


「うむ! 善処しよう!」


 ディエラは元気よく応じた。

 その際、グロムが私に顔を寄せる。

 彼はディエラに聞こえないように囁いた。


「絶対に遅刻するでしょうな。全財産を賭けてもいいですぞ」


「分かっている」


 同じようなやり取りを、過去に何度となく繰り返してきた。

 もはや恒例行事である。

 私もディエラの誓いを真に受けているわけではない。

 形ばかりの容認を与えているだけだ。

 そうでもしないと、彼女が拗ねてしまう。

 機嫌を損ねると面倒なのだ。


 数十では足りないやり取りを振り返っていると、ディエラが私の肩を叩いた。


「ところでドワイト」


「何だ」


「城下街の賭博場に行きたいのじゃが……」


 それを聞いた途端、隣のグロムが小声で嘆いた。

 彼の気持ちはよく分かる。

 頭痛を覚えながらも、私はなんとか応じる。


「金は少し前に貸しただろう」


「いや、あれは違うのじゃ。数倍にして返すつもりだったのじゃが、見事に裏を掻かれての。決して吾は悪くないぞ、うむ」


「……そうか」


 早口で述べるディエラに、私はため息が出そうな気分になる。

 ディエラは気にせず盛り上がっていた。


「今日は大勝ちできる気がするぞ! だからお主が、追加で金を貸してくれれば――」


「面白そうな話をしていますね。わたしも混ぜてください」


 ディエラの言葉を遮る声がした。

 背後から静かに進み出たのは、大精霊である。


 その姿を目にしたディエラは怯む。

 彼女は後ずさりながら大精霊に問いかけた。


「な、なんじゃ」


「あなたに貸した金銭の返済期限が過ぎています。これはどういった了見でしょうか」


 大精霊は毅然とした口調で述べる。

 思い悩むディエラであったが、覚悟を決めた顔で返答した。


「お主から借りた分も、今回で必ず返そう。ドワイトが金を用意してくれればな!」


 力強く叫んだディエラが私を指差す。

 輝く双眸には、懇願と期待が込められていた。

 釣られて大精霊の視線がこちらに向く。


 両者の反応を受けて、私は頷くしかなかった。


「――考えておく」


「魔王様……っ!」


 グロムは思わずと言った調子で頭を抱える。

 私が要求を呑んでしまったことに異議を唱えたいようだ。


 一方でディエラは、すっかり元気を取り戻していた。

 彼女は勝ち誇ったように笑っている。


「今の言葉、忘れぬからな!」


 そう言ってディエラは、軽やかな動きで立ち去ろうとする。

 私はその背中に声をかけた。


「どこへ行くんだ」


「賭博場の選定をする! 熱き戦いが吾を呼んでいるのじゃッ!」


 ディエラは猛然と疾走し、あっという間にいなくなってしまった。

 グロムは深々とため息を吐き出す。


「まったく、何から何まで失格ですぞ」


「魔王としての風格や手腕は兼ね備えているのだがな」


「それは否定しませんが……」


 ディエラの管轄である世界は安定していた。

 彼女は種族差別が起きないことを重視しており、全体的に治安が良い。


 問題と言えば、賭博場が乱立しているくらいだろうか。

 世界のあちこちで破産による悲鳴が上がっている。

 その中には、当然のようにディエラ本人も含まれていた。


 混沌とした様相が心配になるも、不思議と争いは少ない。

 慢性的な賭博中毒が、巡り巡って安穏を構築しているようだった。

 よく分からないが、不思議と上手く機能している。


 ディエラの言動に呆れていると、大精霊が歩き出した。

 彼女はこちらを振り向いて告げる。


「わたしがディエラを監視しましょう。集合までに連れ戻しますので安心してください」


「すまないな」


「いえ、構いません……わたしも賭博には興味がありますので」


 呟いた彼女は少し笑った、ような気がした。

 そのまま大精霊は立ち去る。


「……私の気のせいか?」


「いえ、わたくしも同じように聞こえました。五百年の歳月は、大精霊をも変えてしまうのですなぁ」


 グロムはしみじみと呟く。


 大精霊が防御機構の役割を放棄したのは、三百年前だ。

 当時は他の防御機構と争うことになったが、現在は和解している。


 それから性格が軟化した印象があったものの、まさか賭博に関心を抱くようになるとは。

 ディエラの悪影響を受けたのかもしれない。

 少し心配だが、総合的には良い変化だろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 容赦なく天罰を落とすリアル雷様が賭博に興味か……(汗) 福元作品とか読み始めたらマジで危険だな(*´∀`*)
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