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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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283/288

第283話 賢者はかつての魔王を目にする

 自由なドルダとユゥラに翻弄されたところで気を取り直す。

 ローガンは用事を済ませるために私達と別れた。


 後ほど稽古をする面々と合流するそうだが、基本的に加減が苦手だったり、戦いに熱が入りすぎる面々ばかりだ。

 必然的にローガンは、世話を見るような立ち位置になるだろう。

 問題を起こしそうな者達を監視せざるを得ない。

 彼はそれを承知の上でユゥラの誘いに乗ったのである。


 精霊となったローガンは、なんだかんだで面倒見が良い。

 転じて苦労人になりがちだった。

 私自身も、そんな彼に頼ってしまっている。


 感謝すると同時に、もう少し負担を減らせればと考えていた。

 ローガンは特に気にしていないだろう。

 疲れや寿命とも無縁になり、その気質が顕著になっている。


 しかし、彼の本分は世界樹とエルフの守護である。

 そちらに関われなくなるような事態だけは避けたいと思っていた。

 なるべく時間を回せるほうがいいだろう。


 小さな反省を課題を抱きつつ、私とグロムは城の入口付近までやってくる。

 すると、ちょうど城内に入ってくる者が目に入った。

 通路の中央を我が物顔で闊歩するのは、先代魔王ことディエラだ。


 彼女は手を振りながら歩み寄ってくる。


「おお、ドワイトではないか! 吾の出迎えに来たのか!」


 ディエラは私の前で立ち止まると、唐突に手を伸ばしてきた。

 そしてなぜか私の頭を撫でる。

 彼女は満足そうに目を細めた。


「よしよし、褒めて遣わそう」


「――先代よ、冗談にも程度があるぞ。魔王様を愚弄する気か」


 そこに割って入ったのはグロムだ。

 彼は片目の眼窩から炎を膨らませている。

 静かな怒りを湛えながら、グロムはディエラを睨み付けた。


 対するディエラは涼しい顔で応じる。


「吾も魔王なのじゃから、無礼ではあるまい。どうじゃ、参ったか?」


「ぐぬぅ……」


 グロムは悔しそうに唸る。


 ディエラとの口論に限ったことではないが、グロムは言葉の応酬に弱い気がする。

 いつも負けている印象があった。

 感情的になりすぎて判断力を欠いているからだろう。


 口論が決着したのを見計らって、私はディエラに話しかける。


「今日は遅刻しなかったのだな」


 私がそう切り出すと、ディエラは途端に表情を曇らせた。

 彼女は眉を寄せて抗議する。


「待て。吾がいつも遅刻しているような言い方はやめるのじゃ」


「間違っていないだろう。お前は常習犯だ」


 各魔王が集まるような際、ディエラは基本的に遅刻する。

 議題が解決するような段階で、颯爽と登場するのだ。

 そしてルシアナやローガン辺りから説教や小言を受けている。

 いつも反省しているが、改善の気配は一向に見られなかった。


 しかし今回に限っては、時間前に到着できている。

 珍しいこともあるものだと思ってしまった。


「吾だって別に好きで遅刻しているわけではない。ちょっと二度寝したり、予定を忘れてしまっただけで……」


 ディエラは言葉を濁して言い訳を述べるも、まったく弁解になっていない。

 彼女のずさんな部分を発表しただけだった。


 ため息を洩らしたグロムは、小声で私に進言する。


「魔王様、此奴はやはり役職を剥奪すべきです。素質がありませぬぞ」


「ふむ……」


 私は腕組みをして沈黙する。


 ディエラは竜の魔王となり、担当の世界を保有していた。

 ただし各魔王の中でも、群を抜いて問題行動が多い。

 さすがに役職の剥奪をするつもりはないものの、それを一考してしまうほどには難のある人物であった。

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