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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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280/288

第280話 賢者は平和の在り方を考える

 にぎやかな食堂を通り過ぎたところで、私達はユゥラと鉢合わせになった。

 彼女は直立不動で挨拶をする。


「マスターならびに個体名グロムを発見――おはようございます。何をされているのですか?」


「我らは散歩をしている。会議までまだ時間があるのでな」


「回答を理解――適度な運動は健康に良いと聞きます。しかし、不死者に健康の概念はあるのですか?」


 ユゥラは大真面目な様子で疑問を呈した。

 グロムが腕組みをして悩む。

 適する返しが思い付かないようなので、代わりに私が答えることにした。


「身体面はともかく、精神的な健康はある」


「マスターの回答を考察――理解を完了。精神衛生の調整と解釈しました」


 ユゥラはどこか満足そうに述べた。

 淡々とした調子だが、感情の起伏は読み取れる。

 長年の付き合い故だろう。


 一見すると昔と変わらないように見えるも、ユゥラは魔王の一柱である。

 通称は精霊の魔王で、配下から恐れられていた。

 ちなみに私は黒骨の魔王、グロムは牛頭の魔王と呼ばれている。

 特に序列一位である私は、区別するために大魔王の異名も有していた。


 世界の分裂と共に魔王が増えた際、他の魔王と私が同格なのはおかしいという意見が出たのだ。

 私は別にそれでよかったのだが、議論の末に序列一位は大魔王の別称を与えられることになった。


 この仕組みが確立してから数百年。

 私は常に大魔王の座に君臨している。

 基本的に自分で名乗る機会はなく、かと言って困ることもないので放置していた。

 幹部達も納得しているので、当分は変更しないものと思われる。


 精霊の魔王ことユゥラは、大精霊と共に統治を行っている。

 担当するのは、雪に覆われた極寒の世界だ。


 人々は魔術で火を焚きながら生きている。

 慢性的な飢餓が蔓延っており、誰もが明日の食糧を危惧していた。

 加えて国という概念が存在せず、各地に集落が点在している。

 集落の人々は、付近の集落で物資をやり取りしながら生活を送っていた。


 この世界の特徴として、犯罪が滅多に起きない。

 悪事を働けば、即座に天罰が下るからだ。

 ユゥラと大精霊は世界全体を監視しており、犯罪に手を染めた者を例外なく処理している。

 これが天罰として周知されていた。


 天罰を恐れる人々は誠実に生きようとする。

 寒さと飢えを耐えながら、同じ集落の者と手を取り合って暮らしていた。

 結果として儚い平和が築かれている。


 ユゥラ達の担う世界は、他と比べて最も過酷であった。

 死という罰を全面に押し出した徹底管理が為されている。

 平和の定義を明確に定めて、効率的に維持していた。

 彼女達の気質をよく表した手法だろう。


 私やグロムも魔王という恐怖を利用した統制を行っているが、ユゥラと大精霊のそれは段違いの厳しさである。

 当初は他の魔王の間でも賛否両論が巻き起こった。


 現在は本人達に任せきりにしている。

 世界を分けて管理し始めたのは、様々な可能性を見い出すためだ。

 極端な方針ながらも、雪に覆われたその世界は平和であった。


 それも一つの回答なのだ。

 事実、ユゥラの世界は何百年と継続できており、人々は細々ながらも幸福に暮らしている。

 その世界しか知らない者には、他の世界を羨む発想もない。

 与えられた環境の中で、逞しく生き抜いている。


 世界を分担管理するという行為自体が、そもそも歪んでいるのだ。

 今更、綺麗事を述べるつもりはない。


 魔王となったユゥラは、誰よりも平和を望んでいる。

 故に過酷ながらも悪意の生まれない世界を生み出した。

 その姿勢と覚悟は、見習うべきだろう。


 思考に区切りを付けた私は、別の話題を切り出す。


「ところで、ローガンと共に来訪すると聞いていたが」


「ここにいる」


 背後から聞き慣れた声がした。

 私は振り返る。

 壁をすり抜けて現れたのは幽体状になったローガンだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] Oh・・・ そうきたか [一言] ドワイト君のためかな
[一言] ろ、ローガン....!!!
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