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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第二章

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第28話 賢者はエルフの族長と対話する

 旧友を前にして、私は確かな驚きを覚える。

 ローガンは魔王討伐の旅の中で出会ったエルフだ。

 この森の出身とは知っていたが、まさかこのような形で再会するとは思っていなかった。


 出会った当時は、人間の国で暮らしていたはずだ。

 確か故郷に嫌気が差したと言っていた。

 経緯は定かではないものの、この十年間で故郷へ戻ってきたらしい。


 かつての日々を思い出していると、そのローガンと目が合った。

 微塵の隙も感じられない鋭い目つきだ。

 怯えや恐怖といったものとは無縁である。

 私という魔王を前にしても、彼は物怖じしていなかった。


「……これは一体どういうことだ」


 こちらを観察するローガンは、重々しい口調で呟く。

 追及の視線は、私ではなく族長代理を始めとするエルフ達に向けられていた。

 彼らは目を逸らして沈黙する。


 諸々を考えると、答えにくいのは当然だろう。

 他に選択肢がなかったとはいえ、一族の隷属化に同意してしまったのだから。

 一族を追い出されてもおかしくない行為であった。


 エルフ達から返事が望めないと察すると、次にローガンは私を見つめた。

 彼は静かに問いを口にする。


「貴様が魔王か」


 落ち着いた声音とは裏腹に、多大なる威圧感があった。

 心の弱い物ならば尻込みしてしまうだろう。

 出会った当初もこのような男だったが、さらに磨きがかかっているようだ。

 対峙しただけで、彼がどれほどの力を持つか分かる。


(さて、どうするか)


 問答を前にして、私は密かに思考を巡らせる。

 ローガンの言動から考えるに、彼は私の正体に気付いていないようだ。

 あらゆる部分が変貌しているのだから当然である。

 かつての私の面影など、もはや存在していないようなものだった。


 ここで私が賢者ドワイト・ハーヴェルトであることを告げる利点は一つもない。

 事態が余計にややこしくなるだけだ。

 絶対に話さない方がいい。

 私自身、情に惑わされる恐れもあった。


 あくまでもただの魔王ということで進めた方がいいだろう。

 生前のことなど切り捨てるのだ。

 方針をまとめた私は、臆せず彼に応じる。


「そうだ。状況は私が説明しよう」


 族長代理達が委縮しているため、代わりに私がこれまでの経緯を話す。

 隷属化について触れた際に空気がさらに凍り付いたものの、誰一人として口を挟む者はいなかった。

 真剣に話を聞くローガンの邪魔をしないためだろう。

 感情任せの罵倒が許される雰囲気ではなかった。


「以上だ。私はそれらの通達に来た」


「なるほど。概ね理解した。お前達、弓を下ろせ」


 話を聞き終えたローガンは、手を動かしながら命じる。

 すると、樹木の上のエルフ達は弓を下ろした。

 彼らはそのまま葉に紛れて姿を消す。

 なんとなく分かっていたが、現在のローガンはエルフの中でも高い地位にいるようだ。


 ローガンはこちらへ歩み寄ってくる。

 護衛が止めようとするのも無視して、私の前までやってきた。


「自己紹介が遅れた。ローガン・リィン・フリーティルト。世界樹の森のエルフの長をしている」


 その名乗りで気付く。

 どうやらローガンは族長になっていたようだ。

 高い地位どころではない。

 世界樹の森のエルフの頂点に立っている。


 もっとも、以前の彼を知る私からすれば納得せざるを得ない。

 ローガンはそれだけの器の持ち主だった。

 大きな偉業を持つわけではないが、間違いなく人格者である。

 それは現在の彼を見れば歴然と言えよう。


「魔王の言い分を信じるのならば、一族の隷属化を条件に帝国軍は撃退される。間違ってはいないな?」


 ローガンの視線は、族長代理に向けられていた。

 彼女は小さな声で答える。


「……はい」


 緊張のあまり、族長代理は身を震わせていた。

 顔色も悪く、今にも倒れるのではないかと思わせるほどだ。

 このままでは会話もままならない様子である。


 仕方ないので私は前に進み出た。

 そしてローガンに尋ねる。


「族長代理は、既に一族の総意として隷属化を選んだ。異論はあるか?」


「ある、と言えばどうする」


「満場一致になるまで数を減らすまでだ」


 ローガンの問いかけに私は即答する。

 合わせて体内の瘴気を軽く発散させた。

 一種の威嚇や警告行為に近い。


 ただ、告げた内容に関しては本気だ。

 私はエルフを隷属化すると決めた。

 それを阻む者がいるのなら、たとえ誰であろうと粛清しよう。

 目の前のローガンだろうと例外ではない。


 私の殺気に護衛のエルフ達が反応し、明確な怯えを見せた。

 地に膝をついて嘔吐する者もいる。

 その中で、ローガンだけが動じていなかった。

 彼は堂々と意見を述べる。


「異論はない。我々は隷属化を受け入れよう。この場にいない者には後ほど伝える」


「な……っ!?」


「族長ッ!?」


 ローガンの回答を聞いて、他のエルフ達が驚愕した。

 彼らにとって予想外の言葉だったのだろう。

 提案した私が言える立場ではないが、感情的には受け入れられないものに違いない。

 それにも関わらず、族長があっさりと承諾したのだ。


「実に恥ずべきことだが、我々だけでは帝国軍に勝てない。このまま蹂躙されるくらいならば、服従を以て一族の生存を選ぶ」


 他の者の注目を浴びながら、ローガンは粛々と語る。

 そこには断固とした決意があった。

 如何なることがあろうと、それを覆すことは叶うまい。

 そう思わせるだけの覇気が宿っていた。


 私はまた一歩近付いて念押しする。


「二言はないな?」


「当然だ。だから一族の者達には手出しするな。反発は族長として抑え込む」


 ローガンは私を見据えながら答える。

 嘘や誤魔化しは感じられない。

 曇りなき覚悟の上で発せられた宣言であった。


 それを確かめた私は頷く。


「エルフの族長。お前の言葉を信じよう。これより世界樹の森とそこに暮らすエルフは、正式に魔王の所有物となる」


 私は謁見の間で使ったものを同じ禁呪を行使した。

 光線はローガンを始めとしたエルフ達の手の甲に当たる。


 僅かに顔を顰めたローガンは、自身の手の甲を確認した。

 続いて術を終えた私を見る。


「何をした」


「隷属の刻印だ。余計な真似さえしなければ害はない」


 今後、悪用する気もなかった。

 彼らが誠実に行動するならば、ただの模様に過ぎない。

 すべてはエルフ達の行動次第である。


「エルフの居住区を見せてほしい。いくつかの防御魔術と結界を張るためだ」


「いいだろう。妹よ、お前が案内しろ」


「わ、分かりました……」


 族長代理が了承の声を出す。

 少し似ている気がしていたが、ローガンの妹だったらしい。

 彼の両親が他界しているとは聞いていたものの、妹がいるとは知らなかった。


 そこまでのやり取りを終えると、ローガンとその護衛達は踵を返した。

 彼が望む会話はここまでのようだ。

 用件が済めばすぐにいなくなる癖は変わっていなかった。


「こちらです。ご案内させていただきます」


 そう告げた族長代理が先導を始めた。

 私は彼女の後についていった。

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