表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

277/288

第277話 賢者は己を省みる

(しかし、私とて無力ではない。やれることはある)


 私は手元の書類に署名を進めながら思う。

 考え事をする一方で、その内容にも目を通していた。

 長年の経験から培われた技術だ。

 速読なら誰にも負けない自信があった。


 芽吹こうとしている新たな世界の意思だが、幸いにも影響力は低い。

 まだ成長途中であり、さらには世界が分断されたことで、人々の願望が不統一となったためだ。

 実験的に始めた試みは、思わぬ効果を発揮していた。

 世界の意思は以前のように集束せず、大きな力にならなくなったのである。


 魔王になった当初、私は唯一絶対の巨悪になる構図を理想とした。

 そうすることで、各国の団結を促したのだ。

 ところが脅威に晒される人々は、必然的に魔王の死を望む。

 この団結した想いこそが、世界の意思の影響力を拡張してしまう。


 知識や情報が増えた今になって考えると、当時の手法は悪手だと分かる。

 あのまま強行していれば、いずれ破綻していただろう。

 どこかで私が敵わない存在と戦う羽目になったはずである。

 そうなれば私だけでなく、人類が甚大な被害を受けることになっていた。


 そういった面でも、世界の分断は非常に良い策だ。

 今後も継続するつもりである。


「この部屋は変わりませんな。五百年前と同じです」


「ああ、劣化しないように状態を固定している」


 私はグロムの話に応じながら、目を通した書類の束を脇に置く。

 崩れかけたところを魔術で支えた。


 この部屋も一応は謁見の間である。

 もっとも、実態は広い事務室であり、本来の用途で使ったことはない。

 その際は別の部屋を謁見用に用いていた。

 専用の事務室を設ける計画もあったが、面倒になってこのまま運用している。


 我ながらいい加減なところがある。

 特に実務面で困らないことは、後回しにしがちだった。

 不死者となったことで、気が長くなったのも影響しているかもしれない。

 強く意見する配下もいないため、改善を諦めている。


 そう、あれから五百年も経ったが、私自身に大した変化はなかった。

 不死者なので老いることがなく、未だに事務作業に追われている。

 変化を挙げるなら、少しだけ思考が柔軟になり、要領が良くなったことくらいだろうか。

 忙しいおかげで心が枯れ果てる暇もない。

 個人の成長など、所詮はそのようなものなのだと思う。


 その後、私は事務作業に一区切りを付けると、気晴らしに城内を散策することにした。

 隣には当然のようにグロムがいる。

 彼は窓越しに広がる城下街を一瞥すると、嬉しそうに呟いた。


「いやはや、見事な景観ですなぁ」


「まったくだ」


 城下街は計画的に拡大されている。

 五百年前と比べると、十倍ほどの面積に至っていた。

 交通網も発達し、広い道を馬車が行き来している。

 さらには清掃員を装う密偵が巡回しており、街の掃除のついでに各所の情報収集に勤しんでいた。


 階段を下りたところで、グロムが唐突に足を止める。

 彼は怪訝な雰囲気を見せると、低い声で唸る。


「むっ、この気配は……」


 グロムの視線は、廊下の曲がり角を凝視していた。

 そこから人影が覗く。

 黒い羽を揺らすその人物は、ひらひらと手を振ってみせる。


「魔王サマー、お久しぶりね。元気にしてたかしら」


 気楽な調子で話しかけてきたのはルシアナであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ