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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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275/288

第275話 賢者は日常を過ごす

 その日、私は謁見の間にて事務作業を行っていた。

 積み上げられた書類の山々は、先ほどから減っている気がしない。


 室内の各所に座る事務官も、頭を悩ませている。

 絶望的な作業量を前に、なんとか腕を動かしていた。


 そこに別の事務官が入室すると、抱えていた書類の束を机に追加する。

 事務官は、気の毒そうに同僚を見てから退室した。

 思いも思いの反応を取る事務官達だったが、ほどなくして復帰すると黙々と作業に戻っていく。


 この光景も、もはや日常と化していた。

 日々、真剣に取り組む彼らの心労は、なかなかのものだろう。

 それだけ尽力しているのは、ひとえに私の負担を減らすためだった。

 感謝しなければならない。


(無論、感謝するだけではないが……)


 私は事務官達を観察する。

 そして過労気味の者を見つけると、声をかけてから仮眠室へ転送した。

 彼の残した作業は私が引き継いで処理をする。


 倒れてから対処するのでは遅い。

 私と違って彼らは不死者ではないのだ。

 健康的な生活が必須である。

 私が働く状況だと休みづらいため、こちらから積極的に睡眠を促すようにしていた。


 側頭部を掻きつつ、私は書類に目を落とす。


(難儀なものだな……)


 大陸上での戦争は、以前と比べて激減した。

 国家間の結束はより強固となり、半ば合併に近い状態も散見されるほどだ。


 その一方で、小規模な争いや犯罪が多発している。

 汚職案件も含まれているという。

 様々な対策を施してきたが、根本的な解決には至っていない。


(やはり見せしめが必要だろうか)


 しかし、それもどこまで効果があるのか微妙なところであった。

 たとえ世界の危機だろうと、悪事を働く者はいる。

 被害ばかりが増えて、大した結果が望めないかもしれない。


 一人ひとり取り締まるのは現実的でないだろう。

 魔王軍の手練れを派遣し、各組織に潜入させるのがやはり確実だ。

 時間はかかるものの、事を荒立てずに進めることができる。

 今までに何度も実施してきたが、確かな成果があった。


 やはり各勢力は定期的に洗浄すべきだ。

 正義感の強い者が活躍できる土壌を仕立てて、こちらが介入しなくてもよい状況にしたい。


 考えを巡らせていると、勢いよく扉が開かれた。

 勇ましく姿を現したのはグロムだ。

 彼は背筋を伸ばして挨拶をする。


「魔王様、おはようございます! 本日も清々しい朝ですなっ!」


「随分と早い到着だな。集合は昼のはずだったが」


 私が指摘すると、グロムは嬉々として頷いた。


「魔王様の臣下たる者として、時間に余裕を持つことは当然のことです。何と言ってもわたくし、序列二位の魔王ですので!」


 胸に拳を当てたグロムは誇らしげに言う。

 満足した彼は室内の惨状を見やると、期待を込めて私を挙手をした。


「よければ事務作業をお手伝い致しましょうか」


「ああ、頼む」


「承知しました!」


 グロムは颯爽と机の一つに着くと、残像を生み出すような速度で書類を処理し始める。

 その猛烈な速さに周囲の事務官は唖然とする。

 やがて我に返った彼らは、そそくさと作業を再開した。


 八本の腕を高速で動かしながら、グロムは嬉しそうに呟く。


「しかし、懐かしいですなぁ。こうして魔王様のお側で机に向かっていると、昔を思い出しますぞ」


「……そうだな」


 私は作業の手を止めると、窓の外に視線を送る。

 青空の下には、広大な王都の街並みが延々と続いていた。


 懐かしさを感じるのも当然だ。

 現在、私達は別々の土地で活動している。


 ――勇者クレア・バトンを倒してから、五百年が経過していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 当初から男前な性格の勇者は復活しても残留するとは思ってなかったので、 勇者討伐からの500年経過はある意味妥当ですかね トラブルメーカーな世界の意志も殺したわけだし、それ以上大きなイベント…
[一言] 「しかし、貴方の生み出す未来は、閉塞しています。管理される人類に、本当の希望があると思いますか?」 と言った勇者の一言、そして『世界の意思(と言う名の人間の集合無意識)』がどうなったのか、次…
[一言] お疲れ様です
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