表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

264/288

第264話 賢者は勇者に挑む

 私は体内の魔力を操作し、意識を研ぎ澄ます。

 思考を戦うためのそれへと切り替えていく。


 一方で彼女は、涼やかな笑みを浮かべていた。


「覚悟できたようですね。良い心構えです。生前の貴方ならば、きっと躊躇していたでしょう。私と戦うことを避けようとしたはずです」


「……否定できません」


 人間だった頃の私は、少なくない甘さを備えていた。

 それは今も完全には払拭できていないが、当時はより顕著だった。

 このような状況を耐え難く思ったことだろう。

 対話による解決を目論んだに違いない。


 魔王となった現在は、冷静に事実を認められている。

 決して心を失ったわけではない。

 私情より優先すべき目的意識を掲げられるようになったのだ。

 不死者になった後の日々が、迷いながらも進めるだけの精神力を私に与えた。


「剣から貴方の経験を感じ取れます。数々の苦難を乗り越えてきたようですね。貴方は何度も世界を救っている。共に戦った者として誇らしいです」


 彼女は儚げな表情で述べる。

 私の魔王としての軌跡を追体験したのだろう。


 額面通りに捉えると優しさに満ちた言葉であったが、実際は違う。

 彼女は当然ながら私を全肯定しているわけではない。

 むしろその逆だと言ってもいい。


 その双眸は、断固たる厳しさを覗かせていた。

 やはり容認できない部分があるのだ。

 具体的な出来事など今更考えることもない。

 この手は、途方もない量の血で汚れていた。


「武器を取りなさい。ここで決着させましょう」


「――はい」


 私は頷くと、漆黒の剣を形成する。

 魔力と瘴気を練り合わせた武器で、彼女の持つ剣とまったく同じ形をしていた。

 何度も振るってきたのだから、形の模倣は容易い。


 私と彼女は、示し合わせたように揃って剣を構える。

 互いの距離はまだそれなりにあった。

 しかし、物理的な間合いなど、考えるだけ無駄だろう。

 私達にとっては一瞬で消失させられる。


「不思議な感覚ですね。まるで鏡と対峙しているような気分です」


 彼女は珍しそうに呟く。

 私の扱う剣技は、他ならぬ彼女からの借り物だ。

 構えが同一なのは必然であった。


 いつもその姿を隣や後ろで見ていた。

 まさか正面から対峙することになるなど、生前は夢にも思わなかった。

 人間だった私からすれば、この状況は悪夢に等しいだろう。


 長い静寂が場に沈殿する。

 動き出す前に、彼女は口を開いた。


「ドワイト」


「……何でしょうか」


「全力を出しなさい。互いに加減は無用です」


 彼女は強い口調で言った。

 有無を言わせない雰囲気だった。


 言葉の意味を理解した私は、すぐさま魔術を行使する。

 そうして周囲に数百万のアンデッドを転送した。

 魔王領の各地に待機させていた余剰戦力だ。

 私達を囲うように配置させたそれらは、骨と腐肉の壁と化している。

 まるで戦いを見物する観客のようであった。


 地獄の如き光景を見回して、彼女は感心する。


「さすが賢者ですね。その実力は健在……いえ、さらに腕を上げているようです」


 彼女の視線は、再び私へと戻ってくる。

 空気が一段と張り詰め、全身に痺れのような緊張感が走った。

 それを気力で抑え込む。


 覇気を帯びた彼女は私に問う。


「準備はできましたか」


「ええ、万全です」


 応じる私は、柄を握る手に力を込めた。

 彼女は小さく頷くと、満を持して宣言する。


「――では、始めましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白い作品で、楽しませていただいています。 当初から物語が内包していた潜在的な展開が期待通りに表面化し、先の展開が楽しみです。 主人公の選択とその結末を楽しみに待ちたいと思います。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ