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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第二章

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第26話 賢者はエルフに決断を迫る

 私の言葉にエルフ達は驚愕する。

 立ち上がって激昂する者も散見された。

 縋るような想いでここまで来たというのに、奴隷になれば助けると言われたのだ。

 希望を打ち砕かれた気分だろう。

 彼らが抱く怒りは当然である。


 だが、この場においては余計な感情だ。

 攻撃を仕掛けられた場合、私も反撃せざるを得ない。

 ここでエルフ達を皆殺しにするのは惜しい。

 後方で密かに詠唱を始めた者がいたので、沈黙の魔術で声を一時的に奪う。

 弓を番えた者は魔術の鎖を飛ばして腕を拘束した。


 いずれも命は奪っていないので問題なかろう。

 騒然とするエルフを前に、私は粛々と語る。


「本来、私にはエルフ達を助ける義理もない。あの帝国を相手にするのだ。見返りは必要だろう」


「それが、我々エルフということですか……」


 族長代理は苦しそうに言う。

 簡単には呑めない要求を突き付けられて、少なくない迷いが生まれていた。


 私は意気消沈するエルフ達に向けて話を続ける。


「別にエルフが帝国に蹂躙されようと構わない。魔王領にとってはどうでもいいことだ。この提案は、ほんの戯れに過ぎない」


 非情かもしれないが、それが実際の状況だ。

 帝国が世界樹の森とエルフを占有するのは、腹立たしいことではある。

 ただ、仮に放置したところで、大きな問題になることではない。

 今すぐに支障が出ることもなかった。


 帝国が増長するようなら、後から叩き潰せばいいだけだ。

 わざわざエルフを助ける立ち回りをする必要がない。

 それが魔王という立場から出した結論だった。


「もし隷属するのならば、私は帝国軍を捻じ伏せる。幾万もの兵士を屍の山に変えてみせよう」


 単純にエルフの一族を助けるのでは、私の世界悪の意義が揺らいでしまう。

 亜人種に味方をする魔王として周知される。


 ただ、隷属化したエルフ達に手を貸すのなら話は別だ。

 彼らは私の所有物となる。

 それを第三者が奪おうとすれば、何らかの処置を施すのは自然なことである。


 亜人だから助けたのではない。

 私の所有物だから助けたということになり、その構図なら問題あるまい。


 さらにエルフ達を助けるということは、同時に世界樹の森を守ることにもなる。

 聖なる力を帯びたあの地を、よりによって魔王が掌握するのだ。

 人類はさらなる脅威を覚えるだろう。

 今までの方針からも大きくずれない。


 それに加えて、純粋に魔王軍の戦力強化にもなる。

 エルフは精霊の力を操り、弓の名手でもあった。

 彼らを傘下にできれば戦略の幅が広がるので都合が良い。


 現在の魔王軍は、その大多数が意識のないアンデッドである。

 全体の割合で見ると、ルシアナの連れてきた魔物の数は非常に小さい。

 新たに生きた配下が欲しいと考えていたところだったので、機会としてはちょうどよかった。

 エルフの一族ならば申し分ない。


 元々、帝国については侵略する予定だった。

 小国を魔王領にけしかけた主犯だからだ。

 密偵がいくつかの証拠を掴んでおり、現在も滅びた小国の領土の一部を運用しているらしい。


 陰ながら暗躍している上、どこまでも利己的だった。

 これからの世界には不要な国である。

 むしろ膿と評してもいい。


 そういった事情もあり、いずれ帝国には大打撃を与えるつもりだった。

 その時期が早まっただけと考えれば、エルフ達を守る動きも悪くない。

 どちらの展開でも私に損はなかった。


「……隷属すれば、本当に一族は助かるのですか?」


 族長代理が逡巡しながら尋ねてくる。

 その内容から察するに、考えが徐々に傾きつつあるようだ。

 他のエルフがざわめくも、異論を挟んだりはしない。

 立場を弁えて静観に徹していた。


 私は族長代理の質問に回答する。


「無論だ。そこは保証する。しかし、世界樹の森に暮らすエルフ達は、世界からどう見られるかを考えた方がいい」


「それは、どういうことでしょうか……」


「未来永劫、お前達は魔王の手に堕ちた種族として語り継がれるだろう。世界樹の森のエルフは、卑しき魔族と呼ばれるに違いない。命惜しさに外道を選んだ者という烙印を押され、それは決して拭い落せないものとなる。誇り高きエルフは、この屈辱に耐えられるのか?」


「…………」


 族長代理は沈黙する。

 答えるには相当の覚悟が要ることだ。

 彼女の頭の中では、一族の誇りと命が天秤にかけられているのだろう。

 どちらを選んでも失うものが大きい。


「エルフの力だけで、命を賭して帝国に挑むのか。魔王の隷属種という汚名を肯定して、確実な生存を選ぶのか。二つに一つだ。どちらも嫌だというのなら、私が直々にエルフを滅ぼしてもいい」


「す、少し時間をください! 森へ帰って協議をしなければ、一族の総意となりませんので……」


「駄目だ。私は待てない。今すぐにここで選択しろ。私はお前の答えをエルフの総意と見なす」


 遮るように回答を促す。

 酷な迫り方だが仕方あるまい。

 協議などに時間を費やせるほどの猶予はなかった。

 帝国軍は、今も世界樹の森に侵攻している。


「うぅ……くっ……」


 族長代理は苦しげに呻く。

 顔から汗が伝い落ちていた。

 今の彼女は、誇張なしに一族の命運を背負っている。

 与えられた責任は重く、軽々しく答えを出せるはずがない。

 しかし、ここで魔王に意思を告げねばならなかった。


 場に長い沈黙が流れる。

 他のエルフ達は、固唾を呑んで見守っていた。

 私もそれ以上は何も言わない。

 ここから先は彼女が決めることだ。


 そうして待つこと暫し。

 族長代理はやっとのことで口を開く。


「――我々エルフの一族は、今代魔王に隷属します」


「それがお前……ひいてはエルフの答えだな」


「はい……」


 族長代理は確かに頷いた。

 帝国の蹂躙と魔王の支配のうち、彼女は後者を選んだのだ。

 誇りよりも生き延びることを優先した。


 それは苦渋の決断だったろう。

 だが、間違いなく英断である。

 恥じることはない。

 私は胸中で彼女の選択を称賛した。


 そうと決まれば話は早い。

 現在も帝国軍は虎視眈々と森への侵攻を進めているはずだ。

 こちらも迅速に動かねばならない。


 何とも言えない雰囲気に浸るエルフ達に、私は事務的に告げる。


「お前達は私の所有物となった。これから帝国軍を殺すための段取りを決める」


 まずは王都に戻り、グロムとルシアナに事の経緯を伝える。

 それから世界樹の森へ派遣する軍を編成する。

 最近はヘンリーが退屈そうにしているので、彼なら喜び勇んで参戦するだろう。

 この時点で勝利は確定したようなものである。

 私も向かうので万が一にも敗北はない。


 改めて考えると、ここで帝国軍を蹂躙できるのは良い。

 あの強国の軍を一方的に壊滅させたとなれば、各国の衝撃も著しいはずだ。

 魔王領の国外進出を知らしめるには手頃な相手と言える。


 これでエルフと帝国の両陣営から恨まれるだろうが、私はそれで構わない。

 元より望んでいたことである。

 すべての敵となることが、理想の魔王の姿だった。

 きっと間違っていない。


 転移魔術を発動した私は、エルフ達も連れて移動した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 言いたいことはわかるんだけど亜人であるエルフが帝国で奴隷になったり滅ぼされても良くて、人間は滅んだら困るってのは元が人間思考だからなのか? 少なくとも元勇者様は亜人も人間も差別はしないと思…
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